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今年狙われる重要判例
憲法3 (2/28)
(最判平11.10.21=平11重判・憲法4=判例六法・憲法20条11番・89条4番)

 箕面市が戦没者遺族会に補助金を交付したこと、市職員を遺族会の書記事務に従事させ給与を支給したことが、政教分離原則に違反しないか争われた事例である。

【論点】
 遺族会への補助金支出と政教分離原則(憲法20条1項後段・3項、89条)

【判旨】
「憲法の政教分離原則の趣旨からすれば、憲法二〇条一項後段にいう「宗教団体」、憲法八九条にいう「宗教上の組織若しくは団体」とは、特定の宗教の信仰、礼拝、普及等の宗教的活動を行うことを本来の目的とする組織ないし団体を指すものと解すべきである。
…財団法人日本遺族会及びその支部である箕面市戦没者遺族会が行う英霊顕彰事業には靖国神社の参拝の実施等の宗教的色彩を帯びた活動も含まれているが、これらの活動を含む右事業は、会の本来の目的として、特定の宗教の信仰、礼拝、普及等の宗教的活動を行おうとするものではなく、その会員が戦没者の遺族であることにかんがみ、戦没者の慰霊、追悼、顕彰のための右行事等を行うことが、会員の要望に沿うものであるとして行われていることが明らかであり、これらの点を考慮すれば、日本遺族会及び市遺族会は、いずれも、特定の宗教の信仰、礼拝、普及等の宗教的活動を行うことを本来の目的とする組織ないし団体には該当しないものというべきであって、前記「宗教団体」又は「宗教上の組織若しくは団体」に該当しないと解するのが相当である。
…したがって、箕面市から、社会福祉法人箕面市社会福祉協議会を経て、市遺族会に配分された本件補助金の支出及び同市の職員による本件書記事務への従事は、憲法二〇条一項後段、八九条に違反するものではない。
…また、右のとおり、市遺族会が特定の宗教の信仰、礼拝、普及等の宗教的活動を本来の目的とする団体に当たるとはいえないところ、原審の適法に確定した事実関係の下においては、本件補助金の支出及び本件書記事務への従事の目的は、遺族の福祉増進にあることが明らかであり、遺族の福祉増進の面での金銭的ないし事務補助による援助が結果として市遺族会の宗教性を帯びた活動に対する間接的な援助となる面があるとしても、その効果は、間接的、付随的なものにとどまっており、特定の宗教を援助、助長、促進し、又は他の宗教に圧迫、干渉を加えるようなものとは認められない。
 したがって、本件補助金の支出及び本件書記事務への従事は、宗教とのかかわり合いの程度が、我が国の社会的、文化的諸条件に照らし、信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えるものとは認められず、憲法二〇条三項により禁止される宗教的活動に当たらないと解するのが相当である。」

【判例のポイント】
1.  憲法20条1項後段にいう「宗教団体」、同89条にいう「宗教上の組織若しくは団体」とは、特定の宗教の信仰・礼拝・普及等の宗教的活動を行うことを本来の目的とする組織・団体を指し、日本遺族会・箕面市遺族会はこれに該当しない。
2.  本件補助金支出・本件書記事務への従事は、宗教とのかかわり合いの程度が、我が国の社会的・文化的諸条件に照らし、信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えるものとは認められず、憲法20条3項により禁止される宗教的活動に当たらない。

【ワンポイントレッスン】
 憲法20条1項後段「宗教団体」、89条「宗教上の組織若しくは団体」の意義については、以下のような争いがある(重判・解説、芦部・憲法P328)。

[狭義説] 特定宗教の宗教的活動を本来の目的とする組織・団体
[広義説] 宗教的な活動・事業を行う組織・運動

 遺族会は、狭義説では該当せず、広義説では該当する。
 本判決は、狭義説の立場をとり、目的効果基準(*)により合憲判断を下している。
 *厳密には、日本の最高裁の目的効果基準は、アメリカ判例理論のそれを変容したもの(芦部・憲法P150、津地鎮祭事件の解説を参照)

【試験対策上の注意点】
 政教分離原則は、択一・論文を通じて重要論点である。
 最高裁の立場をしっかり押さえておこう。

(沖田)

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