【判旨】
「所論は、電話の通話内容を通話当事者双方の同意を得ずに傍受すること(以下「電話傍受」という。)は、本件当時、捜査の手段として法律に定められていない強制処分であるから、それを許可する令状の発付及びこれに基づく電話傍受は、刑訴法一九七条一項ただし書に規定する強制処分法定主義に反し違法であるのみならず、憲法三一条、三五条に違反し、ひいては、憲法一三条、二一条二項に違反すると主張する。
電話傍受は、通信の秘密を侵害し、ひいては、個人のプライバシーを侵害する強制処分であるが、一定の要件の下では、捜査の手段として憲法上全く許されないものではないと解すべきであって、このことは所論も認めるところである。
そして、重大な犯罪に係る被疑事件について、被疑者が罪を犯したと疑うに足りる十分な理由があり、かつ、当該電話により被疑事実に関連する通話の行われる蓋然性があるとともに、電話傍受以外の方法によってはその罪に関する重要かつ必要な証拠を得ることが著しく困難であるなどの事情が存する場合において、電話傍受により侵害される利益の内容、程度を慎重に考慮した上で、なお電話傍受を行うことが犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められるときには、法律の定める手続に従ってこれを行うことも憲法上許されると解するのが相当である。
そこで、本件当時、電話傍受が法律に定められた強制処分の令状により可能であったか否かについて検討すると、電話傍受を直接の目的とした令状は存していなかったけれども、次のような点にかんがみると、前記の一定の要件を満たす場合に、対象の特定に資する適切な記載がある検証許可状により電話傍受を実施することは、本件当時においても法律上許されていたものと解するのが相当である。」
【判例のポイント】
1.電話傍受は、「通信の秘密」を侵害し、ひいては、「個人のプライバシー」を侵害する強制処分であるが、一定の要件の下では、捜査の手段として憲法上全く許されないものではない。
2.電話傍受を行うことが犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められるときには、法律の定める手続に従ってこれを行うことも憲法上許される。
3.「検証」許可状により電話傍受を実施することは、本件当時(通信傍受法制定前)においても法律上許されていた。
【ワンポイントレッスン】
従来、電話傍受に関しては明文規定がなく、実務では「検証」許可状(刑事訴訟法218条)により行われていた。
これが、強制処分法定主義(刑事訴訟法197条1項但書)・憲法に違反しないか問題となるが、本判決は検証許可状による電話傍受を認め、厳格な要件の下に電話傍受を行うことを合憲としている。
なお、現在では、刑事訴訟法222条の2・通信傍受法に基づき、「傍受令状」による電話・Eメール等の通信傍受が可能となっている。
【試験対策上の注意点】
1.択一対策として、判例の立場を押さえておけば足りる。
2.基本的に刑事訴訟法の論点なので、論文・憲法での出題可能性はあまり高くない。万が一出題されたら、「犯罪捜査の必要性 VS 人権保障」で悩みを見せて、憲法の条文を指摘・判例を紹介し、合憲説をとれば合格答案である。違憲説をとると、行政官僚としての実務感覚を疑われるかも?