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今年狙われる重要判例
憲法6 (3/19)
(最大判平11.3.24=平11重判・刑事訴訟法3=判例六法・憲法34条4番)

 被疑者と弁護人の接見を制限する刑事訴訟法39条3項が、弁護人依頼権を保障した憲法34条に反しないか、争われた事例である。

[参考]*便宜上、条文を一部省略・加筆
刑事訴訟法39条1項
   身体の拘束を受けている被告人又は被疑者は、弁護人…と立会人なくして接見し、又は書類若しくは物の授受をすることができる。
同3項
   検察官…は、捜査のため必要があるときは、公訴の提起前に限り、第一項の接見又は授受に関し、その日時、場所及び時間を指定することができる。但し、その指定は、被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限するようなものであつてはならない
【論点】
◎ 接見指定と弁護人依頼権(憲法34条前段)
△接見指定と憲法37条3項・38条1項

【判旨】
一 刑訴法三九条三項本文の規定と憲法三四条前段
 憲法三四条前段は…単に被疑者が弁護人を選任することを官憲が妨害してはならないというにとどまるものではなく、被疑者に対し、弁護人を選任した上で、弁護人に相談し、その助言を受けるなど弁護人から援助を受ける機会を持つことを実質的に保障しているものと解すべきである。
 刑訴法三九条一項が…被疑者と弁護人等との接見交通権を規定しているのは、憲法三四条の右の趣旨にのっとり、身体の拘束を受けている被疑者が弁護人等と相談し、その助言を受けるなど弁護人等から援助を受ける機会を確保する目的で設けられたものであり、その意味で、刑訴法の右規定は、憲法の保障に由来するものであるということができる…
 もっとも…被疑者と弁護人等との接見交通権が憲法の保障に由来するからといって、これが刑罰権ないし捜査権に絶対的に優先するような性質のものということはできない。
 そして、捜査権を行使するためには、身体を拘束して被疑者を取り調べる必要が生ずることもあるが、憲法はこのような取調べを否定するものではないから、接見交通権の行使と捜査権の行使との間に合理的な調整を図らなければならない。
 憲法三四条は、身体の拘束を受けている被疑者に対して弁護人から援助を受ける機会を持つことを保障するという趣旨が実質的に損なわれない限りにおいて、法律に右の調整の規定を設けることを否定するものではないというべきである。
…刑訴法三九条の立法趣旨、内容に照らすと、捜査機関は、弁護人等から被疑者との接見等の申出があったときは、原則としていつでも接見等の機会を与えなければならないのであり、同条三項本文にいう「捜査のため必要があるとき」とは、右接見等を認めると取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合に限られ、右要件が具備され、接見等の日時等の指定をする場合には、捜査機関は、弁護人等と協議してできる限り速やかな接見等のための日時等を指定し、被疑者が弁護人等と防御の準備をすることができるような措置を採らなければならない…
刑訴法三九条三項本文の規定は、憲法三四条前段の弁護人依頼権の保障の趣旨を実質的に損なうものではないというべきである。

二 刑訴法三九条三項本文の規定と憲法三七条三項
 憲法三七条三項は「刑事被告人」という言葉を用いていること、同条一項及び二項は公訴提起後の被告人の権利について定めていることが明らかであり、憲法三七条は全体として公訴提起後の被告人の権利について規定していると解されることなどからみて、同条三項も公訴提起後の被告人に関する規定であって、これが公訴提起前の被疑者についても適用されるものと解する余地はない

三 刑訴法三九条三項本文の規定と憲法三八条一項
 憲法三八条一項の不利益供述の強要の禁止を実効的に保障するためどのような措置が採られるべきかは、基本的には捜査の実状等を踏まえた上での立法政策の問題に帰するものというべきであり、憲法三八条一項の不利益供述の強要の禁止の定めから身体の拘束を受けている被疑者と弁護人等との接見交通権の保障が当然に導き出されるとはいえない


 以上のとおりであるから、刑訴法三九条三項本文の規定は、憲法三四条前段、三七条三項、三八条一項に違反するものではないとした原審の判断は正当であり、原判決に所論の違法はなく、本件上告理由第二点の論旨はいずれも理由がない。

【判例のポイント】
1.憲法34条前段は、単に「被疑者が弁護人を選任することを官憲が妨害してはならない」というにとどまるものではなく、被疑者に対し、弁護人を選任した上で、弁護人に相談し、その助言を受けるなど「弁護人から援助を受ける機会を持つこと」を実質的に保障している。
2.刑訴法39条1項が被疑者と弁護人等との接見交通権を規定しているのは、憲法34条の趣旨にのっとり、身体の拘束を受けている被疑者が弁護人等と相談し、その助言を受けるなど弁護人等から援助を受ける機会を確保する目的で設けられたものであり、憲法の保障に由来するものである。
3.憲法34条は、身体の拘束を受けている被疑者に対して弁護人から援助を受ける機会を持つことを保障するという趣旨が実質的に損なわれない限りにおいて、法律に捜査権との調整の規定を設けることを否定するものではない。
4.刑訴法39条3項本文の規定は、憲法34条前段の弁護人依頼権の保障の趣旨を実質的に損なうものではない。
5.憲法37条3項は公訴提起後の「被告人」に関する規定であって、これが公訴提起前の「被疑者」についても適用されるものと解する余地はない。
6.憲法38条1項の「不利益供述の強要の禁止」を実効的に保障するためどのような措置が採られるべきかは、基本的には捜査の実状等を踏まえた上での立法政策の問題であり、不利益供述の強要の禁止の定めから身体の拘束を受けている被疑者と弁護人等との「接見交通権」の保障が当然に導き出されるとはいえない。
7.刑訴法39条3項本文の規定は、憲法34条前段・37条3項・38条1項に違反するものではない。

【ワンポイントレッスン】
 犯罪被疑者の大半は、法律の知識がない素人であり、放っておくと安易な自白をしてしまったり、捜査機関のいいように扱われる恐れがある。
 そこで、法律のプロである弁護士の援助を受けられる「弁護人依頼権・接見交通権」は、被疑者の人権保障のため極めて重要な意義を持つ。
 しかし、捜査の必要性も無視できず、一定の制限を受けることは否定できない。
 判例は一般論としては、妥当な結論だが、実務では接見指定が濫用されているという指摘もある。
 …余談であるが、最近話題になったM被告人(点滴に筋弛緩剤を混入させ患者を殺害した疑い。彼の担当する患者は容態が急変するため、「急変のM」の異名を持つ男。)は、取調当初は、いったん殺害を自供したが、弁護士との接見をきっかけに、180度「急変」して無罪を主張した。
 Mには総勢5名の弁護士による大弁護団が結成され、中心の弁護士は過去の重大事件において「無罪判決」を勝ち取った実績のある凄腕?の男。
 "人権派"のセンセイ方 VS 検察官のバトルの行方が注目される。

【試験対策上の注意点】
 択一対策として、判例の立場を押さえておけば足りる。

(沖田)

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