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今年狙われる重要判例
憲法7 (3/26)
(最判平11.2.26=平11重判・刑事訴訟法9=判例六法・憲法第三章16番)

 死刑囚が、死刑制度の是非に関する新聞社宛て投稿の発信を拘置所長に不許可とされたため、その処分の取消しを求めた事例である。

【論点】
1.死刑囚の人権享有主体性
2.死刑囚の表現の自由(憲法21条)

【判旨】
「死刑確定者の拘禁の趣旨、目的、特質にかんがみれば、監獄法四六条一項に基づく死刑確定者の信書の発送の許否は、死刑確定者の心情の安定にも十分配慮して、死刑の執行に至るまでの間、社会から厳重に隔離してその身柄を確保するとともに、拘置所内の規律及び秩序が放置することができない程度に害されることがないようにするために、これを制限することが必要かつ合理的であるか否かを判断して決定すべきものであり、具体的場合における右判断は拘置所長の裁量にゆだねられているものと解すべきである。
 原審の適法に確定したところによれば、被上告人東京拘置所長は東京拘置所の採用している準則に基づいて右裁量権を行使して本件発信不許可処分をしたというのであるが、同準則は許否の判断を行う上での一般的な取扱いを内部的な基準として定めたものであって、具体的な信書の発送の許否は、前記のとおり、監獄法四六条一項の規定に基づき、その制限が必要かつ合理的であるか否かの判断によって決定されるものであり、本件においてもそのような判断がされたものと解される。
 そして、原審の適法に確定した事実関係の下においては、同被上告人のした判断に右裁量の範囲を逸脱した違法があるとはいえないから、本件発信不許可処分は適法なものというべきである。」

【判例のポイント】
1.監獄法四六条一項に基づく死刑確定者の信書の発送の許否は、これを制限することが必要かつ合理的であるか否かを判断して決定すべきものであり、具体的場合における右判断は「拘置所長の裁量」にゆだねられている。
2.拘置所長のした判断に裁量の範囲を逸脱した違法があるとはいえないから、本件発信不許可処分は適法である。

【ワンポイントレッスン】
1.特別権力関係論
 「公務員・在監者のように、国家権力と特別の法律関係にあるものは、特別の人権制限が許される」とする理論を言う。
 明治憲法下では通用したが、基本的人権の尊重と国民主権を基本原理とする現行憲法下では、到底そのままでは通用しえない。
 そこで、現在では、個別・具体的にそれぞれの法律関係における人権制限の根拠・程度を考えていくべきだ、と解されている。
 在監者の人権制限の根拠は、憲法が在監関係とその自律性を憲法的秩序の構成要素として認めていることに由来する(憲法18条・31条)。
2.在監者の人権制限
(i)未決拘禁者(被疑者・被告人)
 「無罪推定」を受けるので、原則として一般市民と同様に扱わなければならない。
 「拘禁と戒護」(逃亡・罪証隠滅防止、規律維持など)という目的からの必要最小限度の人権制約のみが許される(芦部・憲法P104)。
 「よど号ハイジャック新聞記事抹消事件」(憲法百選T18=判例六法・憲法第三章12番)を参照。
(ii)既決受刑者(懲役・禁固)
 有罪が確定した既決受刑者は、収容目的に「矯正教化」が加わるため、未決拘禁者に比べて、より強い人権制限が認められる場合がありうる。
(iii)死刑囚
 今回のケースである。
 一般の既決受刑者と異なり「教化改善」という目的がない。
 拘禁・戒護目的の、必要最小限の人権制限に限るべきである。
 本判決の河合裁判官反対意見を参照(判例六法・憲法第三章17番)。
3. 本判決の妥当性
 本判決・多数意見は、拘置所長の裁量を広く認めて、死刑確定者の心情の安定、拘置所の秩序維持なとを理由とする発信不許可処分を適法としている。
 しかし、本事例では、不許可とする合理性・必要性は見出しがたく、処分を違法とする河合裁判官の反対意見が説得力を持つ(あくまで法律論として。自ら重大犯罪を犯しながら死刑に反対する行為の是非はともかく)。

【試験対策上の注意点】
1.「在監者の人権」は、択一・論文を通じて重要論点であり、判例の立場はしっかり押さえておこう。
2.論文で「死刑囚」がダイレクトに聞かれる可能性はあまり高くない。余裕のある人は、河合裁判官反対意見を参照しておくとよい。

(沖田)

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