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今年狙われる重要判例
民法3 (4/16)
(最判平11.10.21=平11重判・民法2=判例六法・民法145条16番)

 後順位抵当権者が、先順位抵当権の被担保債権の消滅時効を援用できるか、問題となった。

[参考]
民法145条
   時効は当事者が之を援用するに非ざれば裁判所之に依りて裁判を為すことを得ず。
【論点】
 消滅時効の援用権者(民法145条)

【判旨】
「民法一四五条所定の当事者として消滅時効を援用し得る者は、権利の消滅により直接利益を受ける者に限定されると解すべきである。
 後順位抵当権者は、目的不動産の価格から先順位抵当権によって担保される債権額を控除した価額についてのみ優先して弁済を受ける地位を有するものである。
 もっとも、先順位抵当権の被担保債権が消滅すると、後順位抵当権者の抵当権の順位が上昇し、これによって被担保債権に対する配当額が増加することがあり得るが、この配当額の増加に対する期待は、抵当権の順位の上昇によってもたらされる反射的な利益にすぎないというべきである。
 そうすると、後順位抵当権者は、先順位抵当権の被担保債権の消滅により直接利益を受ける者に該当するものではなく、先順位抵当権の被担保債権の消滅時効を援用することができないものと解するのが相当である。」

【判例のポイント】
1.民法145条所定の当事者として消滅時効を援用し得る者は、権利の消滅により「直接利益を受ける者」に限定される。
2.後順位抵当権者は、先順位抵当権の被担保債権の消滅により直接利益を受ける者に該当するものではなく、先順位抵当権の被担保債権の消滅時効を援用することができない。

【ワンポイントレッスン】
1.民法145条の解釈論
 民法145条の「当事者」=時効の援用権者、については、
  A説=直接に利益を受ける者に限る
  B説=間接に利益を受ける者も含む
の対立がある。
 最高裁は一貫してA説の立場を維持しているが、「直接に利益を受ける者」の範囲を徐々に拡大しており、結論において両説の差はほとんどないと言われる。
2.時効の援用権者について、判例の結論
 以下に代表的なものを掲げておくので、判例六法・民法145条5番−16番・884条8番を参照して欲しい。なお、カッコ内は、援用の対象を表す。
[援用権あり]
 ☆いずれも「消滅時効」について
  保証人(主債務)
  連帯保証人(主債務)
  物上保証人(抵当権や譲渡担保の被担保債権)
  抵当不動産の第三取得者(抵当権の被担保債権)
  売買予約の仮登記がなされている不動産の第三取得者(売買予約完結権)
  売買予約の仮登記に遅れる抵当権者(売買予約完結権)
  詐害行為の受益者(詐害行為取消権を行使する債権者の債権)
[援用権なし]
  取得時効が問題となる土地上の建物賃借人(土地所有権の取得時効)
  僭称相続人〔表見相続人〕からの譲受人(相続回復請求権の消滅時効)
  後順位抵当権者(先順位抵当権の被担保債権の消滅時効)

【試験対策上の注意点】
 択一対策として、判例の結論をしっかり押さえておこう。

(沖田)

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