【判旨】
「…関税法一〇九条の禁制品輸入罪の未遂罪の成否について、職権により判断する。
原判決及びその是認する第一審判決の認定によると、本件の事実関係は次のとおりである。
被告人は、大麻を密輸入しようと企て、シンガポール共和国チャンギ国際空港から日本に向かう航空機に搭乗する際に、機内預託手荷物とした黒色スーツケース内と自ら携帯した紺色スーツケース内にそれぞれ大麻を隠匿しておいた上、平成八年一二月三一日午後一時三〇分ころ、同機で新東京国際空港に到着した。
黒色スーツケースは、空港作業員によって航空機から取り降ろされ、同日午後二時ころまでの間に、旅具検査場内に搬入された。
そのころ、被告人は、紺色スーツケースを自ら携帯し、航空機を降りて上陸審査場に赴き、上陸審査を受けたが、同日午後三時三〇分ころ、入国審査官から、出入国管理及び難民認定法七条一項二号の条件に適合していない旨の通知を受け、不服申立てをしなかったため、直ちに本邦からの退去を命じられた。
そこで、被告人は、当日シンガポールに向け出発する航空機に搭乗することとし、待機していたところ、税関職員の指示に従った航空会社の職員から、税関検査を受けるように求められたため、それに応じて旅具検査場に赴いた。
被告人は、同所において、黒色スーツケースを受け取り、自ら携帯していた紺色スーツケースとともに、税関職員による検査を受け、輸入禁制品は所持していないと答えたが、エックス線検査により、隠匿されていた大麻が発見された。
以上のような事実関係の下では、被告人は、入国審査官により本邦からの退去を命じられて、即日シンガポールに向け出発する航空機に搭乗することとした時点において、本件大麻を通関線を突破して本邦に輸入しようとする意思を放棄したものと認められるけれども、それまでに、大麻が隠匿された黒色スーツケースは空港作業員により旅具検査場内に搬入させ、大麻が隠匿された紺色スーツケースは被告人が自ら携帯して上陸審査場に赴いて上陸審査を受けるまでに至っていたのであるから、この時点においては被告人の輸入しようとした大麻全部について禁制品輸入罪の実行の着手が既にあったものと認められる。
したがって、同罪の未遂罪の成立を認めた原審の判断は正当である。」
【判例のポイント】
大麻が隠匿された黒色スーツケースを空港作業員により旅具検査場内に搬入させ、大麻が隠匿された紺色スーツケースを被告人が自ら携帯して上陸審査場に赴いて上陸審査を受けるまでに至っていた時点において、被告人の輸入しようとした大麻全部について、禁制品輸入罪の「実行の着手」が既にあった(同罪の未遂罪が成立)。
【ワンポイントレッスン】
犯罪が完全に成立するまでの過程は、以下のようになる。
☆予備行為→(予備罪)→実行の着手→(未遂罪)→結果発生→(既遂罪)
つまり、「実行の着手」の有無により、予備罪と未遂罪が区別される。
禁制品輸入罪は、予備・未遂・既遂のいずれも処罰されるところ、本事例では、税関職員に途中で見つかっている。
これにつき、判決は「実行の着手」を認め、未遂罪が成立するとした。
【試験対策上の注意点】
択一の事例問題対策として、国 I 受験生は押さえておけば万全である。