The Future [ HOME今年狙われる重要判例>刑法3 ]
今年狙われる重要判例
刑法3 (5/11)
(最決平11.12.9=平11重判・刑法7=判例六法・刑法235条の2・7番)

 地上建物の賃借権及びこれに付随する土地利用権を有する者が、廃棄物を堆積させた行為が、不動産侵奪罪となるか、問題となった。

[参考]
刑法235条の2
   他人の不動産を侵奪した者は、十年以下の懲役に処する
【論点】
 不動産侵奪罪における不動産の「占有」と「侵奪」

【判旨】
「株式会社ヤマツウ小島工務店(以下「小島工務店」という。)は、埼玉県東松山市内の宅地一四九六平方メートル(以下「本件土地」という。)を地上の作業所兼倉庫等の建物五棟とともに所有していたものであるが、振り出した小切手が不渡りとなったことから、平成八年二月二八日、債権者の一人である株式会社東京経営サポート(以下「東京経営」という。)の要求により、同社に本件土地及び地上建物の管理を委ねた。
 東京経営が取得した権利は、地上建物の賃借権及びこれに付随する本件土地の利用権を超えるものではなかった。
 東京経営は、同月下旬、右の権利を競売物件の売買仲介業を営む長野物産株式会社(以下「長野物産」という。)に譲り渡した。
 そのころ、小島工務店は、代表者が家族ともども行方をくらましたため、事実上廃業状態となった。
 建築解体業を営む被告人佐藤勝浩は、同年三月五日、長野物産から右の権利を買い受けて、本件土地の引渡しを受けた後、これを廃棄物の集積場にしようと企て、そのころから同月三〇日ころまでの間に、従業員である被告人小林修とともに、本件土地上に建設廃材や廃プラスチック類等の混合物からなる廃棄物約八六〇六・六七七立方メートルを高さ約一三・一二メートルに堆積させ、容易に原状回復をすることができないようにした
 以上のような事実関係の下においては、本件土地の所有者である小島工務店は、代表者が行方をくらまして事実上廃業状態となり、本件土地を現実に支配管理することが困難な状態になったけれども、本件土地に対する占有を喪失していたとはいえず、また、被告人らは、本件土地についての一定の利用権を有するとはいえ、その利用権限を超えて地上に大量の廃棄物を堆積させ、容易に原状回復をすることができないようにして本件土地の利用価値を喪失させたというべきである。
 そうすると、被告人らは、小島工務店の占有を排除して自己の支配下に移したものということができるから、被告人両名につき不動産侵奪罪の成立を認めた原判決の判断は、相当である。」

【判例のポイント】
1.本件土地所有者は、土地を現実に支配管理することが困難な状態になったけれども、土地に対する「占有」を喪失していたとはいえない。
2.被告人らは、本件土地についての利用権限を超えて地上に大量の廃棄物を堆積させ、容易に原状回復をすることができないようにして本件土地の利用価値を喪失させたから、土地所有者の占有を排除して自己の支配下に移したものということができ、不動産侵奪罪が成立する。

【ワンポイントレッスン】
 本件は、簡単に言うと、土地の所有者が夜逃げしちゃって、それをいいことに土地利用権を有する者が、ゴミを高さ10m以上も積み上げたわけである。
 問題は、
(1) 行方をくらました土地所有者がなお、不動産を「占有」するといえるか
(2) 地上建物の賃借権・それに付随する土地利用権を有する者が、廃棄物を堆積させた行為が「侵奪」といえるか
であるが、本判決はこれを肯定し、不動産侵奪罪の成立を認めている。

【試験対策上の注意点】
 択一対策として押さえておこう。

(沖田)

お問い合わせ等は info@thefuture.co.jp まで
©1999-2001 The Future