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今年狙われる重要判例
刑法4 (5/16)
(最決平11.12.20=平11重判・刑法8=判例六法・刑法第17章14番)

 指名手配を受けているXが、「Y」の偽名を用いて就職しようと考え、虚偽の氏名・経歴等を記載し、Xの顔写真を貼りつけた履歴書を作成した等の行為につき、有印私文書偽造罪等の成否が問題となった。

[参考]
159条1項
   行使の目的で、他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造した者は、三月以上五年以下の懲役に処する。
【論点】
 私文書偽造における人格の同一性

【判旨】
「私文書偽造の本質は、文書の名義人と作成者との間の人格の同一性を偽る点にあると解されるところ…原判決の認定によれば、被告人は、青木和宏の偽名を用いて就職しようと考え、虚偽の氏名、生年月日、住所、経歴等を記載し、被告人の顔写真をはり付けた押印のある青木和宏名義の履歴書及び虚偽の氏名等を記載した押印のある青木和宏名義の雇傭契約書等を作成して提出行使したものであって、これらの文書の性質、機能等に照らすと、たとえ被告人の顔写真がはり付けられ、あるいは被告人が右文書から生ずる責任を免れようとする意思を有していなかったとしても、これらの文書に表示された名義人は、被告人とは別人格の者であることが明らかであるから、名義人と作成者との人格の同一性にそごを生じさせたものというべきである。
 したがって、被告人の各行為について有印私文書偽造、同行使罪が成立するとした原判断は、正当である。」

【判例のポイント】
1.私文書偽造の本質は、文書の名義人と作成者との間の「人格の同一性」を偽る点にある。
2.偽名を用いて就職しようと考え、虚偽の氏名等を記載し、自分の顔写真をはり付けた押印のある履歴書等を作成して提出行使した場合、右文書から生ずる責任を免れようとする意思を有していなかったとしても、名義人と作成者との「人格の同一性」にそごを生じさせたものというべきであり、有印私文書偽造・同行使罪が成立する。

【ワンポイントレッスン】
 本件では、偽名を使った履歴書が作成されたのだが、自分の写真が貼ってあり、「人格の同一性」を偽ったといえるのか、問題となった。
 一種の「芸名」みたいなもんだから、別にいいんじゃないの、という気もする。
 しかし、指名手配されている犯罪者Xは、自分の素性を隠して、「さわやか好青年Y」を演じようとしたのであり、そこにはやはり、「人格の同一性」に齟齬が生じているといえる。
 よって、本判決は妥当である。

【試験対策上の注意点】
 「文書偽造」は頻出分野であり、今後の択一試験での出題が予想される。しっかり押さえておこう。

(沖田)

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