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今年狙われる重要判例
行政法1 (5/30)
(平成11.1.21=平成11年重判5=判例六法・行政事件訴訟法3条13番・憲法14条22番)

 婚姻届を出さない夫婦間に生まれた子につき、非嫡出子であることを理由に、住民票に続柄を「子」と記載した市長の行為の違法性が問われた事案。(当時、嫡出子ならば、「長男(女)、二男(女)」と記載されていた)

※住民基本台帳事務処理要領の改正により、1995年3月1日から、嫡出子、認知された非嫡出子を問わず、世帯主との続柄は「子」と記載されることとなった。

【論点】
1.住民票の続柄記載行為と抗告訴訟の対象
2.住民票の続柄記載行為に対する国家賠償請求

【判旨】
一、抗告訴訟について
 「市町村長が住民基本台帳法7条に基づき住民票に同条各号に掲げる事項を記載する行為は、元来、公の権威をもって住民の居住関係に関するこれらの事項を証明し、それに公の証拠力を与えるいわゆる公証行為であり、それ自体によって新たに国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定する法的効果を有するものではない。もっとも、同法15条1項は、選挙人名簿の登録は住民基本台帳に記載されている者で選挙権を有するものについて行うと規定し、公職選挙法21条1項も、右登録は住民票が作成された日から引き続き3箇月以上当該市町村の住民基本台帳に記録されている者について行うと規定しており、これらの規定によれば、住民票に特定の住民の氏名等を記載する行為は、その者が当該市町村の選挙人名簿に登録されるか否かを決定付けるものであって、その者は選挙人名簿に登録されない限り原則として投票をすることができない(同法42条1項)のであるから、これに法的効果が与えられているということができる。しかし、住民票に特定の住民と世帯主との続柄がどのように記載されるかは、その者が選挙人名簿に登録されるか否かには何らの影響も及ぼさないことが明らかであり、住民票に右続柄を記載する行為が何らかの法的効果を有すると解すべき根拠はない。したがって、住民票に世帯主との続柄を記載する行為は、抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらないものというべきである。」
二、国家賠償請求について
 市町村長が住民票に法定の事項を記載する行為は、たとえ記載の内容に当該記載に係る住民等の権利ないし利益を害するところがあったとしても、そのことから直ちに国家賠償法1条1項にいう違法があったとの評価を受けるものではなく、市町村長が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と右行為をしたと認め得るような事情がある場合に限り、右の評価を受けるものと解するのが相当である」(最判平5.3.11参照)。
 「…当時、国により住民基本台帳の記載方法等に関して住民基本台帳事務処理要領(以下「事務処理要領」という。)が定められていたのであるから、各市町村長は、その定めが明らかに法令の解釈を誤っているなど特段の事情がない限り、これにより事務処理を行うことを法律上求められていたということができる。…これに従わない市町村もなかったわけではないが、一般的にはこれに従って続柄の記載がされていたものと認められ、被上告人M市長も、右の定めに従って本件の続柄の記載をしたというのである。…憲法14条や所論引用の条約等の規定を考慮に入れるとしても、右の定めが明らかに住民基本台帳法の解釈を誤ったものということはできない。
 以上によれば、所論指摘の事情を併せ考慮したとしても、被上告人M市長は、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くさず漫然と本件の続柄の記載をしたということはできないものというべきである。したがって、右記載が上告人らの権利ないし利益を害するか否かにかかわりなく、同被上告人の右行為には国家賠償法1条1項にいう違法がない…」。

【判例のポイント】
1.抗告訴訟については、市町村長による住民票の続柄記載行為の「処分性」が否定されるという理由で、不適法として却下された。(なお、法定外抗告訴訟(義務づけ訴訟)も提起されたが、取消訴訟の処分性と区別せずに取り扱われた。)
2.国家賠償請求では、違法性と過失を一元化し、「職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と…行為をしたと認め得るような事情がある場合」に限り違法性を認める、いわゆる職務行為基準説をとり、請求を認めなかった。

【ワンポイントレッスン】
1.抗告訴訟について、一審では「原告適格」、控訴審では「訴えの利益」を理由に不適法却下されたが、最高裁では「処分性」が却下理由となっている。
2.住民票記載行為は公証行為にあたり、公証力の付与だけでは処分性を認めるには不十分である。ただし、公職選挙法上の選挙人名簿、したがって投票権との連動関係があることから、その限りで処分性がありうることは判例も認めている。
3.住民票の記載を一体として処分と捉える(一体的構成)のか、個別の記載事項各々について法的効果を判断する(分解的構成)のかが問題となるが、判例は分解的構成により、続柄記載行為の処分性を否定している。
4.国家賠償請求における職務行為基準説は、検察官の公訴提起(最判昭53.10.20)、国会議員の立法行為(最判昭60.11.21)という特殊な事例の判断にとどまらず、徐々に典型的な行政処分の領域に進出している。所得税更正処分(最判平5.3.11)、および同判決を引用する本判決は、この傾向を一歩進めたものといえる。違法性と過失を二元的に判断する場合(過失が否定されて請求が棄却される場合でも、判決中に違法性が明言される)と比べ、国家賠償制度の違法行為抑止・違法排除機能や行為規範設定機能が果たせなくなるとする点で、問題である。
5.住民登録事務は、地方自治法上の自治事務であるが、「要領」の法的性質は曖昧である。新地方自治法では、技術的助言・勧告(245条の3第3項)にあたると考えられるが、これに従った事務処理が市町村長に「法律上求められていた」とまで言いうるかどうかは疑問の余地があるとされている。

【試験対策上の注意点】
1.抗告訴訟の「処分性」、「原告適格」及び「訴えの利益」(いわゆる三種の神器)に関する判例は、択一では重要である。何が認められて、何が認められなかったか、今一度試験前に判例六法等で必ず確認しておくこと。
2.論文でも重要である。判例の「処分性」の定義、「原告適格」に関する判例と有力説、及び「訴えの利益」の定義をちゃんと書けるようにしておくこと。

(大島)

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