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今年狙われる重要判例
行政法2 (6/1)
(平成11.1.21=平成11年重判5=判例六法・行政事件訴訟法3条13番・憲法14条22番)

 住民訴訟における職員に対する損害賠償請求(地方自治法242条の2第1項4号前段)における被告の変更の許否、および変更後の時効について争われた事例。

[参考]
地方自治法242条の2第1項
   普通地方公共団体の住民は、…裁判所に対し、同条第一項の請求に係る違法な行為又は怠る事実につき、訴えをもつて次の各号に掲げる請求をすることができる。ただし、…第4号の請求中職員に対する不当利得の返還請求は、当該職員に利益の存する限度に限るものとする。
4号 普通地方公共団体に代位して行なう当該職員に対する損害賠償の請求若しくは不当利得返還の請求又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方に対する法律関係不存在確認の請求、損害賠償の請求、不当利得返還の請求、原状回復の請求若しくは妨害排除の請求
行政事件訴訟法15条1項
 取消訴訟において、原告が故意又は重大な過失によらないで被告とすべき者を誤つたときは、裁判所は、原告の申立てにより、決定をもつて、被告を変更することを許すことができる。
【論点】
1.地方自治法242条の2第1項4号所定の「当該職員」に対する訴えにおいて被告とすべき「当該職員」を誤ったとき、行政事件訴訟法15条(取消訴訟における被告の変更の規定)を準用できるか。
2.地方自治法242条の2第1項4号所定の「当該職員」に対する訴えにおいて被告の変更がされた場合、従前の被告に対する訴えの提起は新たな被告に対する時効中断事由に該当するか。

【判旨】
 一 本件は、…各公金の支出が違法であるとして、K市の住民である被上告人らが、地方自治法242条の2第1項4号に基づき、K市に代位して、上告人らに対し、右違法な公金の支出により京都市が被った損害の賠償を請求する住民訴訟であり、本件訴えは、同号所定の「当該職員」に対する損害賠償請求として提起されたものである。
 二 地方自治法242条の2第1項4号所定の「当該職員」に対する損害賠償請求又は不当利得返還請求に係る訴えにおいて、原告が故意又は重大な過失によらないで「当該職員」とすべき者を誤ったときは、裁判所は、原告の申立てにより、行政事件訴訟法15条を準用して、決定をもって、被告を変更することを許すことができると解するのが相当である。また、訓令等の事務処理上の明確な定めにより、その適否が問題とされている財務会計上の行為に関し、額の多寡に応じるなどして、専決することを任され、右権限行使についての意思決定を行う者がそれぞれ規定されている場合において、当該財務会計上の行為につき、法令上権限を有する者からあらかじめ専決することを任され、右権限行使についての意思決定を行うとされている者として「当該職員」には該当するものの、現実に専決するなどの財務会計上の行為をしたと認められない者を誤って被告としたときにも、同条を準用して、被告を変更することを許すことができると解すべきである。
 三 地方自治法242条の2第1項4号所定の「当該職員」に対する損害賠償請求又は不当利得返還請求に係る訴えにおいて、原告が被告とすべき「当該職員」を誤ったとしてした被告変更の申立てに対して行政事件訴訟法15条の準用による裁判所の許可決定がされた場合、従前の被告に対する訴えの提起は、新たな被告に対する損害賠償請求権又は不当利得返還請求権についての裁判上の請求又はこれに準ずる時効中断事由には該当しないと解するのが相当である。

【判例のポイント】
1.地方自治法242条の2第1項4号前段請求住民訴訟において、職員の中から「当該職員」、さらに責任を負う「当該職員」を特定するのが容易でないことから、原告住民がこの判断を誤った場合に、行政事件訴訟法15条1項を準用して被告を変更することを認めた。
2.地方自治法242条の2第1項4号前段請求住民訴訟において、被告職員が変更された場合、民法148条がそのまま適用され、旧被告に対する訴訟提起は、新被告に対する裁判上の請求又はこれに準ずる時効中断事由には該当しない。

【ワンポイントレッスン】
1.市の職員が、虚偽架空の会合を名目に、費用を支出していたことが違法であるとし、住民らが市に代位して職員に対して損害賠償を請求したものである。ところが、市の局長等専決規程(訓令)が、支出決定の専決について定めていたことなどから、被告を変更することになったわけである。
2.4号前段請求住民訴訟における「当該職員」とは、財務会計上の行為を行う権限を法令上有するものとされている者及びこれらの者から権限の委任を受けるなどして右権限を有するに至った者を広く意味し(最判昭62.4.10)、訓令等の事務処理上の明確な定めにより…あらかじめ専決することを任され、右権限行使についての意思決定を行うとされている者も含まれる(最判平3.12.20)。専決を任されていなかった室長は「当該職員」にあたらないが、低額の支出を任されていた課長は、高額の支出に関しても「当該職員」にあたる。つまり、上位専決者(高額・特殊な支出)が専決した支出についても、下位専決者(低額・定例の支出)は「当該職員」に当たるとした。なお、逆の場合も同様である(最判平3.12.20参照)。
3.本判決は、行政事件訴訟法15条を、訴訟物が同一の場合に限らず、行政組織(法)の複雑性ゆえに、原告が出訴期間内に適切な被告を特定できず訴訟を追行できなくなることを防ぐために、広く適用ないし準用されるものと解釈した。
4.変更後の被告に対する市の損害賠償請求権の消滅時効制度は、出訴期間制限の制度とは異なり、個々の職員を保護する趣旨を含む。したがって、時効中断については当事者及び承継人の間でのみ効力を有するとする民法148条がそのまま適用され、旧被告に対する訴訟提起は新被告に対する時効中断効を持たないとした。民法148条には、例外が連帯債務(434条)等に認められるが、地方公共団体の職員の賠償責任は各自の職務に基づくもので、連帯債務に類する関係に立つとはいえない。

【試験対策上の注意点】
 地方自治法は、手薄になりがちな分野であるが、近年大きな改正があったことなどから、注意が必要である。また、行政事件訴訟法15条は、あまり見ない条文である。しかし、行政事件訴訟法・行政不服審査法・行政手続法などは、試験前に一度は条文を確認しておきたい。

(大島)

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