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今年狙われる重要判例
民法12 (6/6)
(最判平11.10.22=平11重判・労働法9=判例六法・民法709条88/114番)

 障害年金を受給していた者が、医療事故で死亡した事案で、逸失利益等の賠償額の算定が問題となった。

【論点】
 不法行為(709条)による損害額の算定

【判旨】
一.
「国民年金法に基づく障害基礎年金も厚生年金保険法に基づく障害厚生年金も、原則として、保険料を納付している被保険者が所定の障害等級に該当する障害の状態になったときに支給されるものであって…程度の差はあるものの、いずれも保険料が拠出されたことに基づく給付としての性格を有している。
 したがって、障害年金を受給していた者が不法行為により死亡した場合には、その相続人は、加害者に対し、障害年金の受給権者が生存していれば受給することができたと認められる障害年金の現在額を同人の損害として、その賠償を求めることができるものと解するのが相当である。
 そして、亡博信が本件事故により死亡しなければ平均余命まで障害年金を受給することのできたがい然性が高いものとして、この間に亡博信が得べかりし障害年金相当額を逸失利益と認めた原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして是認するに足りる。」
二.
「もっとも、子及び妻の加給分については、これを亡博信の受給していた基本となる障害年金と同列に論ずることはできない。
 すなわち、国民年金法三三条の二に基づく子の加給分及び厚生年金保険法五〇条の二に基づく配偶者の加給分は、いずれも受給権者によって生計を維持している者がある場合にその生活保障のために基本となる障害年金に加算されるものであって、受給権者と一定の関係がある者の存否により支給の有無が決まるという意味において、拠出された保険料とのけん連関係があるものとはいえず、社会保障的性格の強い給付である。
 加えて、右各加給分については、国民年金法及び厚生年金保険法の規定上、子の婚姻、養子縁組、配偶者の離婚など、本人の意思により決定し得る事由により加算の終了することが予定されていて、基本となる障害年金自体と同じ程度にその存続が確実なものということもできない
 これらの点にかんがみると、右各加給分については、年金としての逸失利益性を認めるのは相当でないというべきである。」
三.
「国民年金法及び厚生年金保険法に基づく障害年金の受給権者が不法行為により死亡した場合において、その相続人のうちに、障害年金の受給権者の死亡を原因として遺族年金の受給権を取得した者があるときは、遺族年金の支給を受けるべき者につき、支給を受けることが確定した遺族年金の額の限度で、その者が加害者に対して賠償を求め得る損害額からこれを控除すべきものと解するのが相当である…
 そして、この場合において、右のように遺族年金をもって損益相殺的な調整を図ることのできる損害は、財産的損害のうちの逸失利益に限られるものであって、支給を受けることが確定した遺族年金の額がこれを上回る場合であっても、当該超過分を他の財産的損害や精神的損害との関係で控除することはできないというべきである。」

【判例のポイント】
1.障害年金受給者が不法行為により死亡した場合、その相続人は加害者に対し、障害年金の受給権者が生存していれば受給することができたと認められる障害年金の現在額を、同人の損害としてその賠償を求めることができる。
2.障害年金の「子・妻の加給分」については、年金としての逸失利益性は認められない。
3.障害年金の受給権者の死亡を原因として遺族年金の受給権を取得した者があるときは、遺族年金の支給を受けるべき者につき、支給を受けることが確定した遺族年金の額の限度で、その者が加害者に対して賠償を求め得る損害額からこれを控除すべき。
4.3の場合において、遺族年金をもって損益相殺的な調整を図ることのできる損害は、「財産的損害のうちの逸失利益」に限られるものであって、支給を受けることが確定した遺族年金の額がこれを上回る場合であっても、当該超過分を他の財産的損害や精神的損害との関係で控除することはできない。

【ワンポイントレッスン】
 やや複雑な判決なので、テクニカルタームの知識があやふやな人は、基本書で確認してから、もう一度判旨を読んで欲しい。
「逸失利益」
 =生存したならば得られたであろう収入の喪失。
 本件では、基本となる障害年金につき肯定し、子・妻の加給分については否定された。
「損益相殺」
 =一方で損害を受けながら、他方において同一の原因により利益を受けている場合には、その利益を損害額から控除して賠償額を算定する。
本件では、財産的損害のうちの逸失利益から、支給を受けることが確定した遺族年金の額を控除することが、肯定された。

【試験対策上の注意点】
 やや細かい判例だが、国 I の過去問では、損害額の算定方法についても出題されているので、択一対策として押さえておくと万全である。

(沖田)

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