The Future [ HOME今年狙われる重要判例>民法13 ]
今年狙われる重要判例
民法13 (6/7)
(最判平11.7.19=平11重判・民法12=判例六法・民法884条11/12番)

 共同相続人が他の共同相続人の相続権を侵害している場合に、相続回復請求権の消滅時効を援用する者は何を立証すればよいか、等が争われた。

[参考]
民法884条
   相続回復の請求権は、相続人又はその法定代理人が相続権を侵害された事実を知つた時から五年間これを行わないときは、時効によつて消滅する。相続開始の時から二十年を経過したときも、同様である。
【論点】
 相続回復請求権の消滅時効(884条)援用の要件

【判旨】
共同相続人のうちの一人又は数人が、相続財産のうち自己の本来の相続持分を超える部分について、当該部分の表見相続人として当該部分の真正共同相続人の相続権を否定し、その部分もまた自己の相続持分であると主張してこれを占有管理し、真正共同相続人の相続権を侵害している場合にも民法八八四条は適用される
 しかし、真正共同相続人の相続権を侵害している共同相続人が、他に共同相続人がいること、ひいて相続財産のうち自己の本来の持分を超える部分が他の共同相続人の持分に属するものであることを知りながらその部分もまた自己の持分に属するものであると称し、又はその部分についてもその者に相続による持分があるものと信ぜられるべき合理的な事由があるわけではないにもかかわらずその部分もまた自己の持分に属するものであると称し、これを占有管理している場合は、もともと相続回復請求制度の適用が予定されている場合には当たらず、相続回復請求権の消滅時効を援用して真正共同相続人からの侵害の排除の請求を拒むことはできない
 真正共同相続人の相続権を侵害している共同相続人が他に共同相続人がいることを知っていたかどうか及び本来の持分を超える部分についてもその者に相続による持分があるものと信ぜられるべき合理的な事由があったかどうかは、当該相続権侵害の開始時点を基準として判断すべきである。
 そして、相続回復請求権の消滅時効を援用しようとする者は、真正共同相続人の相続権を侵害している共同相続人が、右の相続権侵害の開始時点において、他に共同相続人がいることを知らず、かつ、これを知らなかったことに合理的な事由があったこと(以下「善意かつ合理的事由の存在」という。)を主張立証しなければならないと解すべきである。
 なお、このことは、真正共同相続人の相続権を侵害している共同相続人において、相続権侵害の事実状態が現に存在することを知っていたかどうか、又はこれを知らなかったことに合理的な事由があったかどうかにかかわりないものというべきである。」

【判例のポイント】
1.共同相続人間にも民法884条は適用されるが、真正共同相続人の相続権を侵害している共同相続人が、他に共同相続人がいること等につき、悪意ないし有過失の場合は、相続回復請求権の消滅時効を援用して真正共同相続人からの侵害の排除の請求を拒むことはできない。
2.真正共同相続人の相続権を侵害している共同相続人が、他に共同相続人がいること等につき善意・無過失かは「当該相続権侵害の開始時点」を基準として判断すべき。
3.相続回復請求権の消滅時効援用者が、真正共同相続人の相続権を侵害している共同相続人の、相続権侵害の開始時点における「善意かつ合理的事由の存在」を主張立証しなければならない。

【ワンポイントレッスン】
 実際の事案は複雑なものであったが、簡単な具体例で説明してみたい(農地法などの特別法の手続は無視する)。

[case]
 交通事故により太郎は、妻・長男・次男を遺して逝ってしまった。
 太郎の財産は、4ヘクタールの畑だけである(妻:長男:次男=2:1:1、民法900条)。
 ところが、バカ息子でフリーターの長男は、内緒で、畑の全部につき自己の単独名義の所有権移転登記を経由し(なぜか民法には詳しい)、無農薬野菜の栽培を始めた。
 このことに、出来の良い次男はすぐ気付いたが、外務省のキャリアエリートとして忙しい日々を送っていたため、放っておいた。
 そうしているうちに、6年の月日が流れたが、次男は外交機密費の使い込みが発覚して、懲戒免職をくらった。
 突如プー太郎になってしまった次男は、長男に「俺にも1ヘクタール畑よこせ!」と要求したが、長男は「お前、民法884条読んだことないのか? とっくに時効にかかってるんだよ」と応じようとしない。
 そこで、次男は、相続回復請求権に基づく長男の単独登記抹消などを求めて、訴訟を提起した。

…というcaseでは、本判決の立場によれば、長男が畑の独り占めを開始した時点において弟も相続人であること等を知らず、かつそう信じる合理的事由があったことを、消滅時効を援用する長男が立証しなければならない。
 共同相続の場合は、他に共同相続人がいることをわかりきっている(悪意)のが通常であり、知らない(善意)のは例外なため、その例外を主張する者に立証責任を負わせたわけである。

【試験対策上の注意点】
 択一対策として押さえておこう。

(沖田)

お問い合わせ等は info@thefuture.co.jp まで
©1999-2001 The Future