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今年狙われる重要判例
民法14 (6/7)
(最判平11.6.24=平11重判・民法13=判例六法・民法1031条9番)

 遺留分減殺請求の相手方が、受贈後の占有により目的物の取得時効の要件を満たしている場合の権利関係が争われた。

[参考]
民法1028条
   兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、左の額を受ける。
  一 直系尊属のみが相続人であるときは、被相続人の財産の三分の一
  二 その他の場合には、被相続人の財産の二分の一
1031条
   遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するに必要な限度で、遺贈及び前条に掲げる贈与の減殺を請求することができる。
162条
 
1項 二十年間所有の意思を以て平穏且公然に他人の物を占有したる者は其所有権を取得す。
2項 十年間所有の意思を以て平穏且公然に他人の不動産を占有したる者が其占有の始善意にして且過失なかりしときは其不動産の所有権を取得す。
【論点】
 遺留分減殺請求と取得時効

【判旨】
「被相続人がした贈与が遺留分減殺の対象としての要件を満たす場合には、遺留分権利者の減殺請求により、贈与は遺留分を侵害する限度において失効し、受贈者が取得した権利は右の限度で当然に右遺留分権利者に帰属するに至るものであり…受贈者が、右贈与に基づいて目的物の占有を取得し、民法一六二条所定の期間、平穏かつ公然にこれを継続し、取得時効を援用したとしても、それによって、遺留分権利者への権利の帰属が妨げられるものではないと解するのが相当である。
 けだし、民法は、遺留分減殺によって法的安定が害されることに対し一定の配慮をしながら(一〇三〇条前段、一〇三五条、一〇四二条等)、遺留分減殺の対象としての要件を満たす贈与については、それが減殺請求の何年前にされたものであるかを問わず、減殺の対象となるものとしていること、前記のような占有を継続した受贈者が贈与の目的物を時効取得し、減殺請求によっても受贈者が取得した権利が遺留分権利者に帰属することがないとするならば、遺留分を侵害する贈与がされてから被相続人が死亡するまでに時効期間が経過した場合には、遺留分権利者は、取得時効を中断する法的手段のないまま、遺留分に相当する権利を取得できない結果となることなどにかんがみると、遺留分減殺の対象としての要件を満たす贈与の受贈者は、減殺請求がされれば、贈与から減殺請求までに時効期間が経過したとしても、自己が取得した権利が遺留分を侵害する限度で遺留分権利者に帰属することを容認すべきであるとするのが、民法の趣旨であると解されるからである。」

【判例のポイント】
 被相続人がした「贈与」が遺留分減殺の対象としての要件を満たす場合には、「遺留分権利者の減殺請求」により、贈与は遺留分を侵害する限度において失効し、受贈者が取得した権利はその限度で当然に遺留分権利者に帰属するに至るものであり、受贈者が「取得時効」(162条)を援用したとしても、それによって、遺留分権利者への権利の帰属が妨げられるものではない。

【ワンポイントレッスン】
 一定範囲の相続人は被相続人の財産の一定割合を確保し得る地位を持ち(遺留分権:民法1028条)、遺留分を侵害する遺贈・贈与の効力を奪う「遺留分減殺請求権」が認められている(民法1031条)。
 妻子ある男が自分の全財産を愛人に遺贈してしまったら、奥さんや子供はたまったものではないので、遺留分についてはとり返せるわけである。
 それでは、愛人が取得時効の要件(162条)を満たした後、奥さんや子供が遺留分減殺請求権を行使したらどうなるか。
 本件では、「遺留分減殺請求権 VS 取得時効」が問題となり、判決は、遺留分減殺請求権の勝ち、とした。
 その実質的な理由として、「受贈者が贈与の目的物を時効取得し、減殺請求によっても受贈者が取得した権利が遺留分権利者に帰属することがないとするならば、遺留分を侵害する贈与がされてから被相続人が死亡するまでに時効期間が経過した場合には、遺留分権利者は、取得時効を中断する法的手段のないまま、遺留分に相当する権利を取得できない結果となる」、不条理な場合があることを指摘している。

【試験対策上の注意点】
 「遺留分減殺請求権」は相続では重要分野なので、択一対策として押さえておこう。

(沖田)

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