【判旨】
一 本件条例5条2号ウにいう「争訟の方針に関する情報」とは、…所論のように争訟の帰すうに影響を与える情報のすべてを指すものと解するのは相当でないが、現に係属し又は係属が具体的に予想される事案に即した具体的方針に限定されると解すべきではなく、右の団体又はその機関が行うことのあるべき争訟に対処するための一般的方針をも含むものと解するのが相当である。
二 本件条例9条4項前段が、…非公開決定の通知に併せてその理由を通知すべきものとしているのは、…非公開の理由の有無について実施機関の判断の慎重と公正妥当とを担保してそのし意を抑制するとともに、非公開の理由を公開請求者に知らせることによって、その不服申立てに便宜を与えることを目的としていると解すべきである。そして、そのような目的は非公開の理由を具体的に記載して通知させること(実際には、非公開決定の通知書にその理由を付記する形で行われる。)自体をもってひとまず実現されるところ、本件条例の規定をみても、右の理由通知の定めが、右の趣旨を超えて、一たび通知書に理由を付記した以上、実施機関が当該理由以外の理由を非公開決定処分の取消訴訟において主張することを許さないものとする趣旨をも含むと解すべき根拠はないとみるのが相当である。
三 本件各文書は、逗子市監査委員が59年監査請求又は60年監査請求につき監査を行い、これらに理由があるか否かなどを決定するための資料とする目的で収集した情報であるから、逗子市の機関内部における意思決定過程における情報に当たるものと解される。したがって、これが本件条例5条2号アの規定に該当するか否かは、これを公開することにより公正又は適正な意思決定を著しく妨げるか否かにより決定されることになる。
右規定にいう「意思決定を妨げる」とは、当該意思決定それ自体を妨げることのほか、将来における同種の意思決定の障害となることも含まれるものと解するのが相当である。そして、当該情報を公開することにより、今後行われることのあるべき同種の意思決定のための資料の収集に支障を生ずることも、これに含まれると解される。
【判例のポイント】
1.条例中の「争訟」には、市や国等の「団体又はその機関が行うことのあるべき争訟」が広く含まれる。
2.条例中の、争訟の「方針」とは、市や国等が「争訟」に対処するための「一般的方針」を含む。現実に予測される事案に関する具体的な方針に限定されないが、争訟の帰趨に影響を与える情報のすべてを指すとするのは相当でない。
3.情報公開条例において、非公開決定の通知に併せてその理由を通知すべきものとしている目的(恣意抑制・不服申立便宜)は非公開の理由を具体的に記載して通知されること自体をもってひとまず実現されるので、取消訴訟で理由の差替えを許さない趣旨まで含んでいるとは解されない。
【ワンポイントレッスン】
1.情報公開法5条5号・6号
本判決で問題となった不開示情報は、情報公開法にも対応条文がある。5条は、見るのもイヤな条文かもしれないが、重要なので、一度は見ておきたい。なお、以下の点にも注意してほしい。
(1)5条6号
・「意思決定過程情報」という文言は、意識的に避けられている。
・不開示規定該当性について、覆審的司法審査が予定されている(3号・4号と異なる)。
(2)5条6号
・イ〜ホは、例示列挙である。
・「支障」は実質的であること、「おそれ」は法的保護に値する程度の蓋然性が必要である。したがって、行政機関に広汎な裁量を与える趣旨ではない。
安威川ダム訴訟(最判平7.4.27)から、事実情報と政策情報を区別し、事実に関する情報は公開しなければならないとする説もある。しかし、宇賀先生は、これらが密接不可分な場合(ある事実を取り上げること自体が一定の政策・方針を示すことがある等)を指摘している。本判決も、上記のような判断枠組みは採用していない。
2.理由の差替え
原則として、被告行政庁による理由の差替えは可能である。ただし、(1)処分の同一性が失われるとき、(2)理由提示が法令上義務づけられているとき、(3)聴聞を経た不利益処分(宇賀『行政手続法の解説』)、(4)行政庁の第一次判断権を損なう場合などは、理由の差替えが許されないと論じられている(ただ、最判昭56.7.14は、明確な結論を留保している)。なお、理由の「追完」については、最高裁も慎重である。
【試験対策上の注意点】
1.行政手続については、昨年論文試験で出題されているが、今年も論点の1つとして出題される可能性はある。択一試験では、毎年出題されているので、重要な条文・判例の確認をしておきたい。
2.情報公開法は、択一でも出題が予想される。特に5条は要注意である。上で触れられなかった1〜4号(特に1号)についても確認してほしい。また、論文試験委員の宇賀先生は、情報公開法について多くの論文等を書かれているので、論文試験でも出題の可能性がある。