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今年狙われる重要判例
行政法4 (6/8)
(最判平11.1.21=平11重判・行政法3=判例六法・行政法総論 II 90番)

 大都市に隣接するベッドタウンS町にマンションを建築予定の不動産会社が新規の給水申込みを行ったが、S町が「S町水道事業給水規則」3条の2に照らして拒否したため、給水契約上の地位確認と、契約申込みに対する承諾および給水命令を求めた事案。

[参考]
S町水道事業給水規則3条の2第1項(ただし、一部修正・省略)
  新たに給水の申込みをする者で、次の各号の一に該当する場合は、給水許可を拒否し(開発行為許可済分、開発行為及び建築に係る事前協議分を除く)、又は給水開始の時期を制限する
一 開発行為または建築で20戸(20世帯)を超えるものには給水しない
二 共同住宅等で20戸(20世帯)を超えて建築する場合には全戸給水しない
(以下省略)
【論点】
 水道法15条1項の「正当の理由」の意義

【判旨】
一 水道「法15条1項にいう「正当の理由」とは、水道事業者の正常な企業努力にもかかわらず給水契約の締結を拒まざるを得ない理由を指すものと解されるが、具体的にいかなる事由がこれに当たるかについては、同項の趣旨、目的のほか、法全体の趣旨、目的や関連する規定に照らして合理的に解釈するのが相当である。」
二 「水の供給量が既にひっ迫しているにもかかわらず、自然的条件においては取水源が貧困で現在の取水量を増加させることが困難である一方で、社会的条件としては著しい給水人口の増加が見込まれるため、近い将来において需要量が給水量を上回り水不足が生ずることが確実に予見されるという地域にあっては、水道事業者である市町村としては、そのような事態を招かないよう適正かつ合理的な施策を講じなければならず、その方策としては、困難な自然的条件を克服して給水量をできる限り増やすことが第一に執られるべきであるが、それによってもなお深刻な水不足が避けられない場合には、専ら水の需給の均衡を保つという観点から水道水の需要の著しい増加を抑制するための施策を執ることも、やむを得ない措置として許されるものというべきである。そうすると、…需要の抑制施策の一つとして、新たな給水申込みのうち、需要量が特に大きく、現に居住している住民の生活用水を得るためではなく住宅を供給する事業を営む者が住宅分譲目的でしたものについて、給水契約の締結を拒むことにより、急激な需要の増加を抑制することには、法15条1項にいう「正当の理由」があるということができるものと解される。」
三 以上より、給水契約の申込み拒否は、水道法15条1項にいう「正当の理由」が認められ、S町水道事業給水規則3条の2の定めにかかわりなく、本件の給水契約締結の拒否は適法であると解される。

【判例のポイント】
1.水道法15条1項にいう「正当の理由」とは、水道事業者の正常な企業努力にもかかわらず給水契約の締結を拒まざるを得ない理由を指す。
2.供給能力を超える給水申込みを拒否することが許される場面として、(1)水道事業者の正常な企業努力にもかかわらず、近い将来において需要量が給水量を上回り、なお深刻な水不足が生ずることが確実に予見される場合、(2)専ら水の需給の均衡を保つという観点から水道水の需要の著しい増加を抑制するための施策を執ることも許され、(3)現に居住している住民の生活用水を得るためではない申込みについては、給水契約の締結を許否できるという事例を示した。

【ワンポイントレッスン】
1.水道法の「正当の理由」について、判例は、建築紛争の予防目的の付近住民の同意取得(最決平元.11.8)、公共施設の整備財源不足の担保目的の負担金支払い(最判平5.2.18)を求める行政指導への不服従は、給水拒否の「正当の理由」にならないとしている。また、「公序良俗違反を助長するような事情」がある場合には、「正当の理由」たりうる余地を認めている。
2.断減水の事態を未然に回避するべく、給水需要を抑制することが水道法上許容されるという考え方は、抽象的には学説上すでに示されていたが、本判例はこれを正面から認めた。

【試験対策上の注意点】
 択一では、行政上の契約については手薄になりがちであるが、これを機に判例六法などで判例を確認してほしい(数は多くない)。
 論文試験委員の宇賀先生は、給水規制条例についての解説を書かれている。また、「要綱と開発負担」という論文を執筆されている。

(大島)

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