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今年狙われる重要判例
行政法5 (6/9)
(最判平11.7.19=平11重判・行政法2=判例六法・行政法総論 II 78番・行政手続法5条2番)

 消費税転嫁のための運賃値上げ申請を却下されたタクシー業者が、申請の受理及び審査手続の遅延と右却下処分の違法性を根拠に、消費税相当額分の国家賠償等を請求した事案。

[参考]
 道路交通法9条2項1号は、運賃変更の認可基準として、「能率的な経営の下における適正な原価を償い、かつ、適正な利潤を含むものであること」と規定している。
 当時、タクシー事業の運賃変更の認可について通達があった。その概要は、地方運輸局長は、同一運賃を適用する事業区域を定め、当該区域の事業者の中から不適当な者を除外して標準能率事業者を選定し、さらに、標準能率事業者の中からその実績加重平均収支率が標準能率事業者のそれを下回らないように原価計算対象事業者を選定し、右事業者について別紙の「運賃原価算定基準」に従って適正利潤を含む運賃原価を人件費等の原価要素の分類に従って算定した上、その平均値を基に運賃の値上げ率を算定する(「平均原価方式」)というものであった。
【論点】
 道路交通法9条2項に規定された、運賃認可基準の適正原価適正利潤条項の適合性判断に係る運輸局長の判断の裁量の範囲。

【判旨】
 一 道路交通法9条2号の趣旨によれば、「運賃の値上げを内容とする運賃変更の認可申請がされた場合において、変更に係る運賃の額が能率的な経営の下における適正な原価を償うことができないときは、たとい右値上げにより一定の利潤を得ることができるとしても、同号の基準に適合しないものと解すべきである。そして、同号の基準は抽象的、概括的なものであり、右基準に適合するか否かは、行政庁の専門技術的な知識経験と公益上の判断を必要とし、ある程度の裁量的要素があることを否定することはできない。」
 二 「本件通達の定める運賃原価算定基準に示された原価計算の方法は、法9条2項1号の基準に適合するか否かの具体的判断基準として合理性を有するといえる。」「…平均原価方式に従って算定された額をもって当該同一地域内のタクシー事業者に対する運賃の設定又は変更の認可の基準とし、右の額を変更後の運賃の額とする運賃変更の認可申請については、特段の事情のない限り同号の基準に適合しているものと判断することも、地方運輸局長の前記裁量権の行使として是認し得るところである。もっとも、タクシー事業者が平均原価方式により算定された額と異なる運賃額を内容とする運賃の設定又は変更の認可申請をし、…所定の原価計算書その他運賃の額の算出の基礎を記載した書類を提出した場合には、地方運輸局長は、当該申請について法9条2項1号の基準に適合しているか否かを右提出書類に基づいて個別に審査判断すべきであることはいうまでもない。」
 三 運輸局長は、平均原価方式による算定額に「達しないものであることのみを理由として直ちに本件却下決定をしたのではなく、本件申請に対する許否の判断に当たり、被上告人らの提出する原価計算書その他の書類に基づき、本件申請に係る運賃の変更が法9条2項1号の基準に適合するか否かを運賃原価算定基準に準拠して個別に審査しようとしたものと解される。」「…同局長が右審査のために被上告人らに対して右原価計算書に記載された原価計算の算定根拠等について説明を求めたにもかかわらず、被上告人らは、運賃変更の理由は消費税の転嫁である旨の陳述をしたのみで、右原価計算の算定根拠等を明らかにしなかったというのであるから、…同号の基準に適合するか否かを判断するに足りるだけの資料の提出がないとして、本件却下決定をした同局長の判断に、その裁量権を逸脱し、又はこれを濫用した違法はないというべきである。」

【判例のポイント】
1.道路交通法9条2項1号の基準に適合するか否かは、行政庁の専門技術的な知識経験と公益上の判断を必要とし、ある程度の裁量的要素があることを否定することはできない。
2.通達の定める事務処理方法について、原価計算の方法は具体的判断基準として合理性を有し(手続の裁量を肯定)、同一地域内で平均原価による算定額を基準とすることも裁量の範囲内である(原則的な裁量基準)。平均原価方式による算定額と異なる運賃の認可がされた場合には個別審査がなされるべきである、としている。
3.運賃変更の認可申請を却下した運輸局長の判断にその裁量権を逸脱し又はこれを濫用した違法はない。

【ワンポイントレッスン】
1.本判決は、同一地域同一運賃の例外が許容され得るという解釈論をとっているが、原価計算の枠の外で単純に消費税転嫁のみを理由とする認可申請を行ったのでは、手続の裁量の部分の合理性を破ることはできないとしている。
2.本判決は、本件処分の違法性自体を否定し、申請手続の遅延について特段の判断をすることなく請求を棄却している。
3.受理後の審査の遅延について、タクシー会社が審査手続に非協力的であったことを認定し、時の裁量の司法審査における判断要素とされている。
4.同一地域同一運賃による運用を定めた通達は、平成5年及び10年に改められており、現在では規制緩和が進行している。

【試験対策上の注意点】
 裁量は、難解な分野であるが、判例六法などで一度は判例をチェックしておきたい。

(大島)

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