The Future [ HOME今年狙われる重要判例>都庁・特別区「法律事情」特集 ]
今年狙われる重要判例
最新判例番外編 都庁・特別区「法律事情」特集 (6/12)
在監者の人権(最判平12.9.7)

【判旨】
☆同一事例につき、二つの判決が同じ日に出された

判決1
接見時間を三〇分以内と定めた監獄法施行規則一二一条本文の規定及び接見には監獄職員の立会いを要する旨を定めた規則一二七条一項本文の規定が憲法一三条及び三二条に違反するものでないことは…明らかである。
 また、右各規定が、市民的及び政治的権利に関する国際規約一四条に違反すると解することもできない…
 本件の事実関係は次のとおりである。
 上告人甲野太郎は…懲役刑の執行を受けている受刑者であり、平成二年四月、国を被告として、徳島刑務所に移監される前に拘禁されていた大阪拘置所において、重篤な疾病が疑われる様々な病状が現われていたのに、精密検査を受診させなかった拘置所側の措置の違法を主張して国家賠償請求訴訟…を提起し、同年八月には、国を被告として、徳島刑務所の管理部保安課職員から暴行を受けたり、身体的に苦痛を伴う無理な姿勢を強制されたりし、また、いわれのない懲罰処分を受けたと主張して国家賠償請求訴訟…を提起した…
 上告人戸田勝、同木下準一、同金子武嗣は、いずれも弁護士であり…甲野の訴訟代理人である…訴訟代理人には、外に、津川博昭弁護士及び木村清志弁護士がいた…
 上告人弁護士らは、平成二年一〇月三一日から平成三年一一月一五日にかけて、大阪事件や徳島事件等の打合せ等のために…上告人甲野との各回いずれも三〇分を超える時間の、かつ、刑務所職員の立会いなしの接見の許可を求めたが、徳島刑務所長は、いずれも保安課職員の立会いと接見時間を三〇分以内とするとの条件を付してこれを許可した
 右事実関係の下においては、前者に関し、規則一二一条本文の規定により接見時間を三〇分以内に制限した所長の処分が裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものという余地はなく、また、後者に関し、上告人甲野の性向、行状にかんがみると、接見時における不測の事故を防止するため、あるいは、上告人甲野の動静を把握してその処遇に資するために、刑務所職員を接見に立ち会わせる必要は大きかったものというべきであるから、規則一二七条一項本文の規定により刑務所職員の立会いを条件とした所長の各処分は、社会通念上著しく妥当を欠くものとはいえず、所長の裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものということはできない。」

判決2
「刑務所における接見時間及び接見度数の制限は、多数の受刑者を収容する刑務所内における施設業務の正常な運営を維持し、受刑者の間における処遇の公平を図り、施設内の規律及び秩序を確保するために必要とされるものであり、また、受刑者との接見に刑務所職員の立会いを要するのは、不法な物品の授受等刑務所の規律及び秩序を害する行為や逃走その他収容目的を阻害する行為を防止するためであるとともに、接見を通じて観察了知される事情を当該受刑者に対する適切な処遇の実施の資料とするところにその目的がある。
 したがって、具体的場合において処遇上その他の必要から三〇分を超える接見を認めるかどうか、あるいは教化上その他の必要から立会いを行わないこととするかどうかは、いずれも、当該受刑者の性向、行状等を含めて刑務所内の実情に通暁した刑務所長の裁量的判断にゆだねられているものと解すべきであり、刑務所長が右の裁量権の行使としてした判断は、裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したと認められる場合でない限り、国家賠償法一条一項にいう違法な行為には当たらないと解するのが相当である。
 以上の理は、受刑者が自己の訴訟代理人である弁護士と接見する場合でも異ならないものと解すべきである…
 徳島刑務所の接見業務の運営状況や徳島刑務所の収容人数、収容対象等からすると、被上告人甲野に三〇分を超える接見を認めた場合には他の受刑者との間の処遇の公平を害し、他の受刑者から同様の接見を求められたとすると、接見業務に支障が生じ、施設内の規律及び秩序を害するおそれがあったというべきである。
 このような事情を勘案すると、本件接見…が被上告人甲野の本人尋問の準備のための打合せを目的としたものであることを考慮しても、接見時間を規則の原則どおり、一回につき三〇分以内に制限した所長の処分が、いまだ社会通念上著しく妥当を欠くものとはいえず、所長の裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものということはできない…
 被上告人甲野の性向、行状等…にかんがみると、接見の相手方が訴訟代理人である弁護士であったとしても、接見時における不測の事故を防止するため、あるいは被上告人甲野の動静を把握してその処遇に資するために、刑務所職員を接見に立ち会わせる必要性は特に大きかったというべきである。
 また、右のように立会いを行う必要性が大きい本件においては…接見の目的が徳島事件についての事実調査であるとしても、立会いを行うことがいまだ社会通念上著しく妥当を欠くものということはできない。
 したがって、刑務所職員の立会いを条件とした所長の処分が、裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものということはできない。」

【判例のポイント】
1.接見時間を30分以内、接見には監獄職員の立会いを要する旨を定めた監獄法施行規則の規定は、「憲法13条(個人の尊重、幸福追求権)・32条(裁判を受ける権利)」に違反しない。
2.具体的場合において処遇上その他の必要から30分を超える接見を認めるかどうか、あるいは教化上その他の必要から立会いを行わないこととするかどうかは、刑務所内の実情に通暁した「刑務所長の裁量的判断」にゆだねられている。
3.刑務所長が右の裁量権の行使としてした判断は、「裁量権の範囲を逸脱・濫用」したと認められる場合でない限り、国家賠償法一条一項にいう違法な行為には当たらない。この理は、受刑者が「自己の訴訟代理人である弁護士と接見する場合」でも異ならない。
4.当該事例につき、徳島刑務所長が、保安課職員の立会いと接見時間を30分以内とするとの条件を付してなした処分は、裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用するものではない。

(沖田)

お問い合わせ等は info@thefuture.co.jp まで
©1999-2001 The Future