【判旨】
「地方公務員法二八条四項、一六条二号は、禁錮以上の刑に処せられた者が地方公務員として公務に従事する場合には、その者の公務に対する住民の信頼が損なわれるのみならず、当該地方公共団体の公務一般に対する住民の信頼も損なわれるおそれがあるため、このような者を公務の執行から排除することにより公務に対する住民の信頼を確保することを目的としているものである。
地方公務員は、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務しなければならず(憲法一五条二項、地方公務員法三〇条)、また、その職の信用を傷つけたり、地方公務員の職全体の不名誉となるような行為をしてはならない義務がある(同法三三条)など、その地位の特殊性や職務の公共性があることに加え、我が国における刑事訴追制度や刑事裁判制度の実情の下における禁錮以上の刑に処せられたことに対する一般人の感覚などに照らせば、地方公務員法二八条四項、一六条二号の前記目的には合理性があり、地方公務員を法律上右のような制度が設けられていない私企業労働者に比べて不当に差別したものとはいえず、右各規定は憲法一三条、一四条一項に違反するものではない…
また、禁錮以上の刑に処せられたため地方公務員法二八条四項の規定により失職した者に対して一般の退職手当を支給しない旨を定めた条例六条一項二号は、禁錮以上の刑に処せられた者は、その者の公務のみならず当該地方公共団体の公務一般に対する住民の信頼を損なう行為をしたものであるから、勤続報償の対象となるだけの公務への貢献を行わなかったものとみなして、一般の退職手当を支給しないものとすることにより、退職手当制度の適正かつ円滑な実施を維持し、もって公務に対する住民の信頼を確保することを目的としているものである。
前記のような地方公務員の地位の特殊性や職務の公共性、我が国における刑事訴追制度や刑事裁判制度の実情の下における禁錮以上の刑に処せられたことに対する一般人の感覚などに加え、条例に基づき支給される一般の退職手当が地方公務員が退職した場合にその勤続を報償する趣旨を有するものであることに照らせば、条例六条一項二号の前記目的には合理性があり、同号所定の退職手当の支給制限は右目的に照らして必要かつ合理的なものというべきであって、地方公務員を私企業労働者に比べて不当に差別したものとはいえないから、同号が憲法一三条、一四条一項、二九条一項に違反するものでない」
【判例のポイント】
禁錮以上の刑に処せられたため地方公務員法の規定により失職した者に対して、一般の退職手当を支給しない旨を定めた条例は、退職手当制度の適正かつ円滑な実施を維持し、もって公務に対する住民の信頼を確保するという立法目的には合理性があり、退職手当の支給制限は右目的に照らして必要かつ合理的なものというべきであって、地方公務員を私企業労働者に比べて不当に差別したものとはいえないから、憲法13条(個人の尊重・幸福追求権)、14条1項(法の下の平等)、29条1項(財産権)に違反するものでない。