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今年狙われる重要判例
憲法2 (1/22)
(最判平12.12.19=平12重判・憲法3=判例六法・憲法14条53番)

 交通事故を起こした地方公務員(中学教諭)Xは、業務上過失傷害罪で、禁錮刑に処せられた。
 Xは地方公務員法の規定により失職し、失職の場合は退職金を支給しない旨の条例の規定により、退職金を受け取ることができなかった。
 そこで、当該地方公務員法・条例の規定が、憲法13条(比例原則)・14条1項(法の下の平等)・29条1項(財産権)、に違反しないか、争われた事例である。

【論点】
 失職の場合は退職金を支給しない旨の条例の合憲性

【判旨】
「地方公務員法二八条四項、一六条二号は、禁錮以上の刑に処せられた者が地方公務員として公務に従事する場合には、その者の公務に対する住民の信頼が損なわれるのみならず、当該地方公共団体の公務一般に対する住民の信頼も損なわれるおそれがあるため、このような者を公務の執行から排除することにより公務に対する住民の信頼を確保することを目的としているものである。
 地方公務員は、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務しなければならず(憲法一五条二項、地方公務員法三〇条)、また、その職の信用を傷つけたり、地方公務員の職全体の不名誉となるような行為をしてはならない義務がある(同法三三条)など、その地位の特殊性や職務の公共性があることに加え、我が国における刑事訴追制度や刑事裁判制度の実情の下における禁錮以上の刑に処せられたことに対する一般人の感覚などに照らせば、地方公務員法二八条四項、一六条二号の前記目的には合理性があり、地方公務員を法律上右のような制度が設けられていない私企業労働者に比べて不当に差別したものとはいえず、右各規定は憲法一三条、一四条一項に違反するものではない
 このことは、当裁判所大法廷判決(最高裁昭和三一年(あ)第六三五号同三三年三月一二日判決・刑集一二巻三号五〇一頁、最高裁昭和三七年(オ)第一四七二号同三九年五月二七日判決・民集一八巻四号六七六頁)の趣旨に徴して明らかである(最高裁昭和六二年(行ツ)第一一九号平成元年一月一七日第三小法廷判決・裁判集民事一五六号一頁参照)。
 また、禁錮以上の刑に処せられたため地方公務員法二八条四項の規定により失職した者に対して一般の退職手当を支給しない旨を定めた条例六条一項二号は、禁錮以上の刑に処せられた者は、その者の公務のみならず当該地方公共団体の公務一般に対する住民の信頼を損なう行為をしたものであるから、勤続報償の対象となるだけの公務への貢献を行わなかったものとみなして、一般の退職手当を支給しないものとすることにより、退職手当制度の適正かつ円滑な実施を維持し、もって公務に対する住民の信頼を確保することを目的としているものである。
 前記のような地方公務員の地位の特殊性や職務の公共性、我が国における刑事訴追制度や刑事裁判制度の実情の下における禁錮以上の刑に処せられたことに対する一般人の感覚などに加え、条例に基づき支給される一般の退職手当が地方公務員が退職した場合にその勤続を報償する趣旨を有するものであることに照らせば、条例六条一項二号の前記目的には合理性があり、同号所定の退職手当の支給制限は右目的に照らして必要かつ合理的なものというべきであって、地方公務員を私企業労働者に比べて不当に差別したものとはいえないから、同号が憲法一三条、一四条一項、二九条一項に違反するものでないことは、当裁判所の前記各大法廷判決の趣旨に徴して明らかである。」

【判例のポイント】
1.地方公務員法28条4項・16条2号は公務に対する住民の信頼を確保することを目的とし、その目的は合理性があり、地方公務員を法律上そのような制度が設けられていない私企業労働者に比べて不当に差別したものとはいえず、当該規定は憲法13条・14条1項に違反するものではない。
2.失職した者に対して一般の退職手当を支給しない旨を定めた条例の規定は、退職手当制度の適正かつ円滑な実施を維持し、もって公務に対する住民の信頼を確保することを目的としており、その目的には合理性があり、退職手当の支給制限はその目的に照らして必要かつ合理的なものというべきであって、地方公務員を私企業労働者に比べて不当に差別したものとはいえないから、当該規定は憲法13条・14条1項・29条1項に違反するものでない。

【ワンポイントレッスン】
1.「失職」とは
 禁錮以上の有罪判決が確定すると、地方公務員法の規定により、何らの行政処分によることなく、当該公務員は法律上当然に「失職」する。
 行政処分によらない点が、「懲戒免職」とは異なる。
 なお、実務では、失職の通知がなされる。

2.本件条例の是非
 当該公務員からすれば、「なんで交通事故ぐらいでクビで退職金もらえないんだよ!」というのが言い分である。
 ペナルティが厳しすぎるという点で比例原則違反(憲法13条)、民間のサラリーマンと違うという点で憲法14条1項違反、そして、退職金の給料後払い的性格より憲法29条1項違反だ、というわけである。
 これに対して、本判決は、公務員の地位の特殊性・職務の公共性、犯罪者に対する一般国民の感覚などを挙げて、当該規定を「必要かつ合理的」なものとして合憲とした。
 本件は中学教諭による交通事故の事例であったが、先日、中学教諭が携帯電話で知り合った女子中学生に手錠をかけ結果的に死亡させた事件も起こり、公務員のモラル低下が社会問題化している。
 そのような現在の状況も踏まえると、公僕の地位にある者に重いペナルティを科すことも、合理性があるといえよう。

【試験対策上の注意点】
 学説上、複雑な議論もあるが、試験対策上は、判例の立場を押さえておけば足りる。

(大剛寺)

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