【判旨】
「本件合意は、安澤が上告人に対し、扶養的財産分与の額を毎月一〇万円と定めてこれを支払うこと及び離婚に伴う慰謝料二〇〇〇万円の支払義務があることを認めてこれを支払うことを内容とするものである。
離婚に伴う財産分与は、民法七六八条三項の規定の趣旨に反して不相当に過大であり、財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情のない限り、詐害行為とはならない。
このことは、財産分与として金銭の定期給付をする旨の合意をする場合であっても、同様と解される。
そして、離婚に伴う財産分与として金銭の給付をする旨の合意がされた場合において、右特段の事情があるときは、不相当に過大な部分について、その限度において詐害行為として取り消されるべきものと解するのが相当である。
離婚に伴う慰謝料を支払う旨の合意は、配偶者の一方が、その有責行為及びこれによって離婚のやむなきに至ったことを理由として発生した損害賠償債務の存在を確認し、賠償額を確定してその支払を約する行為であって、新たに創設的に債務を負担するものとはいえないから、詐害行為とはならない。
しかしながら、当該配偶者が負担すべき損害賠償債務の額を超えた金額の慰謝料を支払う旨の合意がされたときは、その合意のうち右損害賠償債務の額を超えた部分については、慰謝料支払の名を借りた金銭の贈与契約ないし対価を欠いた新たな債務負担行為というべきであるから、詐害行為取消権行使の対象となり得るものと解するのが相当である。」
【判例のポイント】
1.「離婚に伴う財産分与として金銭の定期給付をする旨の合意」は、民法768条3項の規定の趣旨に反して「不相当に過大であり、財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情」のない限り、詐害行為とはならない(原則)。
2.離婚に伴う財産分与として金銭の給付をする旨の合意がされた場合において、右特段の事情があるときは、「不相当に過大な部分について、その限度」において詐害行為として取り消される(例外)。
3.「離婚に伴う慰謝料を支払う旨の合意」は、配偶者の一方が、その有責行為及びこれによって離婚のやむなきに至ったことを理由として発生した損害賠償債務の存在を確認し、賠償額を確定してその支払を約する行為であって、新たに創設的に債務を負担するものとはいえないから、詐害行為とはならない(原則)。
4.当該配偶者が負担すべき損害賠償債務の額を超えた金額の慰謝料を支払う旨の合意がされたときは、その合意のうち右「損害賠償債務の額を超えた部分」については、慰謝料支払の名を借りた金銭の贈与契約ないし対価を欠いた新たな債務負担行為というべきであるから、詐害行為取消権行使の対象となり得る(例外)。
【ワンポイントレッスン】
まず、本判決は、
(1)離婚に伴う財産分与として金銭の定期給付をする旨の合意
(2)離婚に伴う慰謝料を支払う旨の合意
の二つに分けて考える。
そして、それぞれ
(3)不相当に過大な部分について、その限度
(4)負担すべき損害賠償債務の額を超えた部分
については、詐害行為取消権行使の対象となるとする。
いずれについても、「全部」が詐害行為取消権行使の対象となるわけではない。
また、「一切、およそ」詐害行為取消権行使が許されないわけでもない。
択一試験で、その辺が引っかけで狙われる可能性があるので、注意。
【試験対策上の注意点】
「詐害行為取消権」は、頻出論点であり、択一試験での出題可能性が高い。
判例六法・424条25番〜29番は、まとめて押さえておこう。