【判旨】
「本件は、被上告人が、株式会社カツラ(以下「カツラ」という。)との間で締結した債権譲渡予約を完結してカツラの上告人に対する債権を譲り受けたとして、上告人に対し、右債権の履行を求める訴訟である。
原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
1 カツラは、被上告人から寝装品の材料である原綿等を継続的に仕入れ、昭和六〇年代には、被上告人に対し、常時八〇〇〇万円ないし一億円の買掛債務を負っていた。
2 カツラは平成三年ころから資金繰りに困難が生じるようになったが、被上告人は、カツラの依頼により、三億円程度の融資をしたり、債務の支払を猶予するなどしたほか、カツラの代わりに原材料を仕入れたり、手形を割り引いてやったりして、その資金繰りに協力していた。
3 被上告人は、平成四年九月当時、既にカツラ所有の不動産に根抵当権の設定を受けていたが、右不動産には先順位の根抵当権が設定されていたこともあって、以後も引き続きカツラへの援助を続けていくためには、カツラから更に担保の提供を受けることが必要と考えた。
そこで、被上告人は、カツラと協議した結果、同月一日、カツラとの間で、被上告人のカツラに対する現在及び将来の債権を担保するため、次の内容の債権譲渡予約(以下「本件予約」という。)を締結した。
(一)譲渡人 カツラ
(二)譲受人 被上告人
(三)第三債務者 上告人外一〇社
(四)譲渡債権 カツラがこたつ、羊毛・羽毛ふとん、暖卓台及びこれらのセット等の売買取引に基づき第三債務者に対して現に有し又は将来有することのある一切の商品売掛代金債権
(五)カツラが被上告人に対する債務の弁済を遅滞し、支払停止に陥り、又はその他不信用な事実があったときは、カツラは被上告人に対する債務について期限の利益を失い、被上告人は、直ちに債権譲渡の予約を完結し、債権の取立て等を実行することができる。
4 カツラは、平成五年一一月四日、被上告人に、経営の改善の見通しが立たないので廃業する旨連絡した。
被上告人は、同月五日、カツラに対し、本件予約の完結の意思表示をし、カツラに対する債権額の限度内で、カツラからあらかじめ預託を受けていたカツラの記名印及び代表者印の押なつ済みの債権譲渡通知書に日付、譲渡債権の額等を補充した上、上告人を含む一一社に右通知書を発送し、右通知書は、翌六日ころ、右一一社に到達した。
上告人は、本件予約は、譲渡の目的となる債権が特定されておらず、また、カツラに対する他の債権者との均衡を害するばかりでなく、カツラの利益を損なう著しく不公平な内容のものであって、公序良俗に反し無効であるなどと主張する。
しかしながら、上告人の右主張は、次のとおり理由がない。
1 まず、債権譲渡の予約にあっては、予約完結時において譲渡の目的となるべき債権を譲渡人が有する他の債権から識別することができる程度に特定されていれば足りる。
そして、この理は、将来発生すべき債権が譲渡予約の目的とされている場合でも変わるものではない。
本件予約において譲渡の目的となるべき債権は、債権者及び債務者が特定され、発生原因が特定の商品についての売買取引とされていることによって、他の債権から識別ができる程度に特定されているということができる。
2 次に、本件予約によって担保される債権の額は将来増減するものであるが、予約完結の意思表示がされた時点で確定するものであるから、右債権の額が本件予約を締結した時点で確定していないからといって、本件予約の効力が左右されるものではない。
3 また、前記のような本件予約の締結に至る経緯に照らすと、被上告人がカツラの窮状に乗じて本件予約を締結させ、抜け駆け的に自己の債権の保全を図ったなどということはできない。
さらに、本件予約においては、カツラに被上告人に対する債務の不履行等の事由が生じたときに、被上告人が予約完結の意思表示をして、カツラがその時に第三債務者である上告人らに対して有する売掛代金債権を譲り受けることができるとするものであって、右完結の意思表示がされるまでは、カツラは、本件予約の目的となる債権を自ら取り立てたり、これを処分したりすることができ、カツラの債権者もこれを差し押さえることができるのであるから、本件予約が、カツラの経営を過度に拘束し、あるいは他の債権者を不当に害するなどとはいえず、本件予約は、公序良俗に反するものではない。
以上によると、本件予約が有効であるとした原審の判断は、正当として是認することができる。」
【判例のポイント】
1.「将来発生すべき債権の譲渡予約」にあっては、「予約完結時において譲渡の目的となるべき債権」を「譲渡人が有する他の債権から識別することができる程度」に特定されていれば足りる。
2.本件予約において譲渡の目的となるべき債権は、「債権者及び債務者が特定」され、「発生原因が特定の商品についての売買取引」とされていることによって、「他の債権から識別ができる程度」に特定されているということができる。
3.本件予約によって担保される「債権の額」は将来増減するものであるが、「予約完結(かんけつ)の意思表示がされた時点」で確定するものであるから、右債権の額が本件「予約を締結(ていけつ)した時点」で確定していないからといって、本件予約の効力が左右されるものではない。
4.本件予約は、譲渡人の経営を過度に拘束し、あるいは(譲渡人に対して債権を有する)他の債権者を不当に害するなどとはいえず、本件予約は、公序良俗に反するものではないから、有効。
【ワンポイントレッスン】
本判決の示した規範を時系列に沿ってまとめると、次のようになる。
[start]
↓
[予約を締結した時点]
予約完結時において譲渡の目的となるべき債権が、譲渡人が有する「他の債権から識別することができる程度」に特定されていれば足りる。
債権の具体的な額が確定している必要なし。
↓
[予約完結の意思表示をした時点]
ここで、債権の額が確定すればよい。
↓
[goal]
当該予約が公序良俗(90条)に反しなければ、債権譲渡有効!
【試験対策上の注意点】
1.択一試験での出題可能性が十分ある。最判平11.1.29=百選II・28=判例六法・466条13番、とセットで押さえておこう。
2.「将来発生する債権の譲渡予約」に関する重要判例が以上のように2年連続し、いずれも最新版の百選でとり上げられていることからすれば、国
I ・論文(特に選択問題)での出題可能性もゼロではない。余裕があれば、判例の規範と事例へのあてはめを検討しておくとよい。