【判旨】
「本件は、交通事故により死亡した被害者の相続人である上告人らが、被害者は厚生年金保険法による遺族厚生年金及び市議会議員共済会の共済給付金としての遺族年金を受給していたから、被害者が生存していればその平均余命期間に受給することができた右各年金の現在額が被害者の逸失利益に当たるとして、被上告人らに対しその賠償等を求める事件である。
遺族厚生年金は、厚生年金保険の被保険者又は被保険者であった者が死亡した場合に、その遺族のうち一定の者に支給される(厚生年金保険法58条以下)ものであるところ、その受給権者が被保険者又は被保険者であった者の死亡当時その者によって生計を維持した者に限られており、妻以外の受給権者については一定の年齢や障害の状態にあることなどが必要とされていること、受給権者の婚姻、養子縁組といった一般的に生活状況の変更を生ずることが予想される事由の発生により受給権が消滅するとされていることなどからすると、これは、専ら受給権者自身の生計の維持を目的とした給付という性格を有するものと解される。
また、右年金は、受給権者自身が保険料を拠出しておらず、給付と保険料とのけん連性が間接的であるところからして、社会保障的性格の強い給付ということができる。
加えて、右年金は、受給権者の婚姻、養子縁組など本人の意思により決定し得る事由により受給権が消滅するとされていて、その存続が必ずしも確実なものということもできない。
これらの点にかんがみると、遺族厚生年金は、受給権者自身の生存中その生活を安定させる必要を考慮して支給するものであるから、他人の不法行為により死亡した者が生存していたならば将来受給し得たであろう右年金は、右不法行為による損害としての逸失利益には当たらないと解するのが相当である。
また、市議会議員共済会の共済給付金としての遺族年金は、市議会議員又は市議会議員であった者が死亡した場合に、その遺族のうち一定の者に支給される(地方公務員等共済組合法163条以下、市議会議員共済会定款25条以下)ものであるが、受給権者の範囲、失権事由等の定めにおいて、遺族厚生年金と類似しており、受給権者自身は掛金及び特別掛金を拠出していないことからすると、遺族厚生年金とその目的、性格を同じくするものと解される。
したがって、遺族厚生年金について述べた理は、共済給付金たる遺族年金においても異なるところはない。」
【判例のポイント】
1.厚生年金保険法による「遺族厚生年金」は、受給権者自身の生存中その生活を安定させる必要を考慮して支給するものであるから、他人の不法行為により死亡した者が生存していたならば将来受給し得たであろう右年金は、右不法行為による損害としての「逸失利益」には当たらない。
2.「市議会議員共済会の共済給付金としての遺族年金」は、遺族厚生年金とその目的、性格を同じくするものと解され、遺族厚生年金について述べた理は、共済給付金たる遺族年金においても異なるところはない。
3.結論として、「厚生年金保険法による遺族厚生年金」と、「市議会議員共済会の共済給付金としての遺族年金」の逸失利益性を、否定した。
【ワンポイントレッスン】
まず、テクニカルタームを確認する。
「逸失利益」=生存したならば得られたであろう収入の喪失。
本判決は「遺族厚生年金」の逸失利益性を否定した、初の最高裁判例である。
その理由として、保険料との牽連性が弱く、社会保障的性格が強いことなどがあげられている。
簡単に言うと、あくまでその対象となる奥さんなどを助けてあげるのが目的で、奥さんが死んだら、相続人の子供達は関係ないよ、である。
近年、「逸失利益」に関する最高裁判例が相次いでいる。
最判平11.10.22(判例六法・民法709条89番)は、公的年金の「妻・子の加給分」について、逸失利益性を否定。
最判平12.11.14(判例六法・民法709条91番)は、「軍人恩給扶助料」について、逸失利益性を否定した。
これらの判例は理由付けも似ており、各自参照して欲しい。
【試験対策上の注意点】
択一・民法の「不法行為」の問題で出題される可能性がある。
判例六法・民法709条89〜91番は、まとめて押さえておこう。