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今年狙われる重要判例
憲法4 (4/9)
最判平12.3.17=平12重判・憲法7=憲法28条13番

 80年代に、国家公務員の給与改定に関する人事院勧告がなされたが、政府は財政事情を理由に勧告を凍結した。
 これに抗議して、全農林労働組合はストライキを行ったが、農林水産省は、組合役員を停職等の懲戒処分にした。
 そこで、国家公務員の争議行為を一律・全面的に禁止する国家公務員法の規定が、憲法28条(労働基本権)に違反しないか、等が争われた。

【論点】
 公務員の労働基本権(憲法28条)

【判旨】
国家公務員法(以下「国公法」という。)九八条二項の規定が憲法二八条に違反するものでないことは、当裁判所の判例(最高裁昭和四三年(あ)第二七八〇号同四八年四月二五日大法廷判決・刑集二七巻四号五四七頁)とするところであり、これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。
 …所論引用の結社の自由及び団結権の保護に関する条約(昭和四〇年条約第七号。いわゆるILO八七号条約)三条並びに経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(昭和五四年条約第六号)八条一項(C)は、いずれも公務員の争議権を保障したものとは解されず、国公法九八条二項及び三項並びに本件各懲戒処分が右各条約に違反するものとはいえないとした原審の判断は、正当として是認することができる。
 …国公法第三章第六節第二款の懲戒に関する規定及びこれに基づく本件各懲戒処分が憲法三一条の規定に違反するものでないことは、最高裁昭和六一年(行ツ)第一一号平成四年七月一日大法廷判決・民集四六巻五号四三七頁の趣旨に徴して明らかというべきである。
 …本件ストライキの当時、国家公務員の労働基本権の制約に対する代償措置がその本来の機能を果たしていなかったということができないことは、原判示のとおりであるから、右代償措置が本来の機能を果たしていなかったことを前提とする所論違憲の主張は、その前提を欠く。
 …右事実関係の下においては、上告人らに対する本件各懲戒処分が著しく妥当性を欠くものとはいえず、懲戒権者の裁量権の範囲を逸脱したものとはいえないとした原審の判断は、正当として是認することができる。」

【判例のポイント】
1.国家公務員法98条2項の規定は、憲法28条に違反しない。
2.結社の自由及び団結権の保護に関する条約(ILO八七号条約)3条、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約8条1項は、いずれも公務員の争議権を保障したものとは解されず、国公法98条2項及び3項並びに本件各懲戒処分は、右各条約に違反しない。
3.国公法第三章第六節第二款の懲戒に関する規定及びこれに基づく本件各懲戒処分は、憲法31条の規定に違反しない。
4.本件ストライキ当時、国家公務員の労働基本権の制約に対する代償措置がその本来の機能を果たしていなかったということはできない。
5.本件各懲戒処分が著しく妥当性を欠くものとはいえず、懲戒権者の裁量権の範囲を逸脱したものとはいえない。

【ワンポイントレッスン】
 国家公務員は、私企業のサラリーマンと違い、ストライキができないが、その「代償措置」として、人事院がベースアップなどを政府に勧告して、国家公務員の労働条件が改善されるという仕組みになっている。
 本判決は、その人事院勧告が凍結された場合(簡単に言うと国家公務員の給料が上げてもらえなかった)でも、労働基本権制約の代償が、「その本来の機能を果たしていなかったということができない」との判断を示した、初の最高裁判例である。
 この論点については、全農林警職法事件判決(最大判昭48.4.25)における岸・天野の二裁判官による追加補足意見が有名である。論文試験のある人は、「代償措置が…画餅に等しいとみられる事態が生じた場合には」というフレーズは知っておいても損はない。
 …余談だが、先日、公務員は争議行為ができないはずなのに、某自治体職員がTVカメラの前で堂々とストライキをやっていたのは摩訶不思議である。

[岸・天野の二裁判官による追加補足意見]
「わが国で、公務員の争議行為の禁止について論議されるとき、代償措置の存在がとかく軽視されがちであると思われるのであるが、この代償措置こそは、争議行為を禁止されている公務員の利益を国家的に保障しようとする現実的な制度であり、公務員の争議行為の禁止が違憲とされないための強力な支柱なのであるから、それが十分にその保障機能を発揮しうるものでなければならず、また、そのような運用がはかられなければならないのである。
 したがつて、当局側においては、この制度が存在するからといつて、安易に公務員の争議行為の禁止という制約に安住すべきでないことは、いうまでもなく、もし仮りにその代償措置が迅速公平にその本来の機能をはたさず実際上画餅にひとしいとみられる事態が生じた場合には、公務員がこの制度の正常な運用を要求して相当と認められる範囲を逸脱しない手段態様で争議行為にでたとしても、それは、憲法上保障された争議行為であるというべきであるから、そのような争議行為をしたことだけの理由からは、いかなる制裁、不利益をうける筋合いのものではなく、また、そのような争議行為をあおる等の行為をしたからといつて、その行為者に国公法一一〇条一項一七号を適用してこれを処罰することは、憲法二八条に違反するものといわなければならない。
 もつとも、この代償措置についても、すべての国家的制度と同様、その機能が十分に発揮されるか否かは、その運用に関与するすべての当事者の真摯な努力にかかつているのであるから、当局側が誠実に法律上および事実上可能なかぎりのことをつくしたと認められるときは、要求されたところのものをそのままうけ容れなかつたとしても、この制度が本来の機能をはたしていないと速断すべきでないことはいうまでもない。」

【試験対策上の注意点】
 公務員の労働基本権は、択一・論文を通じて重要論点である。
 全農林警職法事件判決(最大判昭48.4.25)とセットで押さえておこう。

(大剛寺)

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