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今年狙われる重要判例
民法9 (4/17)
最判平12.3.10=平12重判・民法10=判例六法・P468・中段・9番

 「死亡」により「内縁」関係が解消された場合に、「離婚」における財産分与に関する民法768条が類推適用されるか、問題となった。

[参考]
民法768条
1項  協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2項  前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。但し、離婚の時から二年を経過したときは、この限りでない。
3項  前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によつて得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。
【論点】
 死亡による内縁関係解消への民法768条類推適用(否定)

【判旨】
内縁の夫婦の一方の死亡により内縁関係が解消した場合に、法律上の夫婦の離婚に伴う財産分与に関する民法七六八条の規定を類推適用することはできないと解するのが相当である。
 民法は、法律上の夫婦の婚姻解消時における財産関係の清算及び婚姻解消後の扶養については、離婚による解消と当事者の一方の死亡による解消とを区別し、前者の場合には財産分与の方法を用意し、後者の場合には相続により財産を承継させることでこれを処理するものとしている。
 このことにかんがみると、内縁の夫婦について、離別による内縁解消の場合に民法の財産分与の規定を類推適用することは、準婚的法律関係の保護に適するものとしてその合理性を承認し得るとしても、死亡による内縁解消のときに、相続の開始した遺産につき財産分与の法理による遺産清算の道を開くことは、相続による財産承継の構造の中に異質の契機を持ち込むもので、法の予定しないところである。
 また、死亡した内縁配偶者の扶養義務が遺産の負担となってその相続人に承継されると解する余地もない
 したがって、生存内縁配偶者が死亡内縁配偶者の相続人に対して清算的要素及び扶養的要素を含む財産分与請求権を有するものと解することはできないといわざるを得ない。」

【判例のポイント】
1.内縁の夫婦の一方の「死亡」により「内縁」関係が解消した場合に、法律上の夫婦の「離婚」に伴う財産分与に関する民法768条の規定を類推適用することはできない。
2.死亡した内縁配偶者の「扶養義務」が、遺産の負担となってその相続人に承継されると解する余地もない。
3.生存内縁配偶者が、死亡内縁配偶者の相続人に対して、清算的要素及び扶養的要素を含む「財産分与請求権」を有するものと解することはできない。

【ワンポイントレッスン】
 まず、通常の婚姻届を出している夫婦の婚姻解消について、現行法では、

離婚 財産分与(768条)
一方の死亡 相続(890条)

 となっている。
 事実上の夫婦である「内縁」にも可能な限り「婚姻」の規定を類推すべきであるが、現行法の体系によると、

離別 財産分与(768条類推)
一方の死亡 ×(内縁の生存当事者は相続人ではない)

 となり、仮に死亡の場合にも768条を類推すると、この現行法の体系が崩れてしまう。
 というわけで、最高裁は類推を否定し、実務上の争いを一応決着させた。

 なお、本件で財産分与を求めた女性は、内縁の妻なのか愛人なのか微妙な事例であり、法律婚以外の男女関係をどこまで法的に保護するかは、微妙な問題である。

【試験対策上の注意点】
 「内縁」は、ちょくちょく択一試験で出題される分野である。
 択一対策として判例の結論を押さえておこう。

(大剛寺)

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