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今年狙われる重要判例
労働法1 (4/30)
最判平12.3.9=平12重判・労働法2=判例六法・労働基準法32条1

 始業終業時の作業服の着脱などが、労働基準法上の「労働時間」に当たるか、争われた(三菱重工業長崎造船所事件)。
 なお、本件事例については、使用者側・労働組合側の双方から上告され、同一日に判決が出された。

[参考]
労働基準法32条
1項  使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
2項  使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。
【論点】
 労働基準法上の「労働時間」

【判旨】
I 使用者側上告事件
「一 労働基準法(昭和62年法律第99号による改正前のもの)32条の労働時間(以下「労働基準法上の労働時間」という。)とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないと解するのが相当である。
 そして、労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされたときは、当該行為を所定労働時間外において行うものとされている場合であっても、当該行為は、特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、当該行為に要した時間は、それが社会通念上必要と認められるものである限り、労働基準法上の労働時間に該当すると解される。

二 原審の確定したところによれば、
(一) 昭和48年6月当時、被上告人らは、上告人に雇用され、長崎造船所において就業していた、

(二) 右当時、上告人の長崎造船所の就業規則は、被上告人らの所属する一般部門の労働時間を午前8時から正午まで及び午後1時から午後5時まで、休憩時間を正午から午後1時までと定めるとともに、始終業基準として、始業に間に合うよう更衣等を完了して作業場に到着し、所定の始業時刻に作業場において実作業を開始し、所定の終業時刻に実作業を終了し、終業後に更衣等を行うものと定め、さらに、始終業の勤怠把握基準として、始終業の勤怠は、更衣を済ませ始業時に体操をすべく所定の場所にいるか否か、終業時に作業場にいるか否かを基準として判断する旨定めていた、

(三) 右当時、被上告人らは、上告人から、実作業に当たり、作業服のほか所定の保護具、工具等(以下「保護具等」という。)の装着を義務付けられ、右装着を所定の更衣所又は控所等(以下「更衣所等」という。)において行うものとされており、これを怠ると、就業規則に定められた懲戒処分を受けたり就業を拒否されたりし、また、成績考課に反映されて賃金の減収にもつながる場合があった、

(四) 右当時、被上告人らのうち造船現場作業に従事していた者は、上告人により、材料庫等からの副資材や消耗品等の受出しを午前ないし午後の始業時刻前に行うことを義務付けられており、また、被上告人らのうち鋳物関係の作業に従事していた者は、粉じんが立つのを防止するため、上長の指示により、午前の始業時刻前に月数回散水をすることを義務付けられていた、

(五) 被上告人らは、昭和48年6月1日から同月30日までの間、
(1) 午前の始業時刻前に更衣所等において作業服及び保護具等を装着して準備体操場まで移動し、
(2) 午前ないし午後の始業時刻前に副資材や消耗品等の受出しをし、また、午前の始業時刻前に散水を行い、
(3) 午後の終業時刻後に作業場又は実施基準線(上告人が屋外造船現場作業者に対し他の作業者との均衡を図るべく終業時刻にその線を通過することを認めていた線)から更衣所等まで移動して作業服及び保護具等の脱離等を行った、というのであり、右事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足りる。

三 右事実関係によれば、被上告人らは、上告人から、実作業に当たり、作業服及び保護具等の装着を義務付けられ、また、右装着を事業所内の所定の更衣所等において行うものとされていたというのであるから、右装着及び更衣所等から準備体操場までの移動は、上告人の指揮命令下に置かれたものと評価することができる。
 また、被上告人らの副資材等の受出し及び散水も同様である。
 さらに、被上告人らは、実作業の終了後も、更衣所等において作業服及び保護具等の脱離等を終えるまでは、いまだ上告人の指揮命令下に置かれているものと評価することができる。
 そして、各被上告人が右二(五)(1)ないし(3)の各行為に要した時間が社会通念上必要と認められるとして労働基準法上の労働時間に該当するとした原審の判断は、正当として是認することができる。」

II 労働組合側上告事件
「一 労働基準法(昭和62年法律第99号による改正前のもの)32条の労働時間(以下「労働基準法上の労働時間」という。)とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないと解するのが相当である。

二 原審の確定したところによれば、
(一) 昭和48年6月当時、上告人らは、被上告人に雇用され、長崎造船所において就業していた、

(二)右当時、被上告人の長崎造船所の就業規則は、上告人らの所属する一般部門の労働時間を午前8時から正午まで及び午後1時から午後5時まで、休憩時間を正午から午後1時までと定めるとともに、始終業基準として、始業に間に合うよう更衣等を完了して作業場に到着し、所定の始業時刻に作業場において実作業を開始し、午前の終業については所定の終業時刻に実作業を中止し、午後の始業に間に合うよう作業場に到着し、所定の終業時刻に実作業を終了し、終業後に更衣等を行うものと定め、さらに、始終業の勤怠把握基準として、始終業の勤怠は、更衣を済ませ始業時に体操をすべく所定の場所にいるか否か、終業時に作業場にいるか否かを基準として判断する旨定めていた、

(三)右当時、上告人らは、被上告人から、実作業に当たり、作業服のほか所定の保護具、工具等(以下「保護具等」という。)の装着を義務付けられ、右装着を所定の更衣所又は控所等(以下「更衣所等」という。)において行うものとされており、これを怠ると、就業規則に定められた懲戒処分を受けたり就業を拒否されたりし、また、成績考課に反映されて賃金の減収にもつながる場合があった、

(四)上告人らは、昭和48年6月1日から同月30日までの間、
(1) 午前の始業時刻前に、1 所定の入退場門から事業所内に入って更衣所等まで移動し、2 更衣所等において作業服及び保護具等を装着して準備体操場まで移動し、
(2) 午前の終業時刻後に作業場又は実施基準線(被上告人が屋外造船現場作業者に対し他の作業者との均衡を図るべく終業時刻にその線を通過することを認めていた線)から食堂等まで移動し、また、現場控所等において作業服及び保護具等の一部を脱離するなどし、
(3) 午後の始業時刻前に食堂等から作業場又は準備体操場まで移動し、また、脱離した作業服及び保護具等を再び装着し、
(4) 午後の終業時刻後に、1 作業場又は実施基準線から更衣所等まで移動して作業服及び保護具等を脱離し、2 手洗い、洗面、洗身、入浴を行い、また、洗身、入浴後に通勤服を着用し、3 更衣所等から右入退場門まで移動して事業所外に退出した、

(五) 上告人らは、被上告人から、実作業の終了後に事業所内の施設において洗身を行うことを義務付けられてはおらず、また、特に洗身をしなければ通勤が著しく困難であるとまではいえなかった、というのであり、右事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足りる。

 三 右事実関係によれば、右二(四)(1)1及び(4)3の各移動は、被上告人の指揮命令下に置かれたものと評価することができないから、各上告人が右各移動に要した時間は、いずれも労働基準法上の労働時間に該当しない。

 また、上告人らは、被上告人から、実作業の終了後に事業所内の施設において洗身等を行うことを義務付けられてはおらず、特に洗身等をしなければ通勤が著しく困難であるとまではいえなかったというのであるから、上告人らの洗身等は、これに引き続いてされた通勤服の着用を含めて、被上告人の指揮命令下に置かれたものと評価することができず、各上告人が右二(四)(4)2の洗身等に要した時間は、労働基準法上の労働時間に該当しないというべきである。

 他方、上告人らは、被上告人から、実作業に当たり、作業服及び保護具等の装着を義務付けられていたなどというのであるから、右二(四)(1)2及び(4)1の作業服及び保護具等の着脱等は、被上告人の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、右着脱等に要する時間は、それが社会通念上必要と認められる限り、労働基準法上の労働時間に該当するというべきである。

 しかしながら、上告人らの休憩時間中における作業服及び保護具等の一部の着脱等については、使用者は、休憩時間中、労働者を就業を命じた業務から解放して社会通念上休憩時間を自由に利用できる状態に置けば足りるものと解されるから、右着脱等に要する時間は、特段の事情のない限り、労働基準法上の労働時間に該当するとはいえず、各上告人が右二(四)(2)及び(3)の各行為に要した時間は、労働基準法上の労働時間に該当するとはいえない。」

【判例のポイント】
1.労働基準法上の労働時間とは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」をいう。
2.右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより「客観的」に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではない。
3.労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から「義務付け」られ、又はこれを「余儀なく」されたときは、当該行為を所定労働時間外において行うものとされている場合であっても、当該行為は、特段の事情のない限り、「使用者の指揮命令下」に置かれたものと評価することができ、当該行為に要した時間は、それが「社会通念上必要」と認められるものである限り、労働基準法上の労働時間に該当する。

【ワンポイントレッスン】
 ある会社において、就業規則で「始業 AM8:00」と定められていたとしよう。
 しかし、労働者はその時間までに更衣室で作業着を着用し、一斉に体操を行う所定の場所でスタンバっておかなければならない。

 また、「終業 PM5:00」と定められていたとしよう。
 しかし、労働者はその時間ギリギリまで作業場で作業を行っており、その後、更衣室へ移動して作業着を脱いで、それから家路につく。

 このような始業前の時間や終業後の時間が、労働基準法上の「労働時間」に当たるかが、争われたわけである。
 労働時間ならば、使用者はその分についても賃金を支払わねばならない。

 これにつき、最高裁は、「使用者の指揮命令下に置かれている」と評価されれば、労働時間に当たるとした。
 着替えなどが常に労働時間になるわけではなく、その事例により異なる点に注意。

【試験対策上の注意点】
1.最高裁の示した一般的規範を覚えておこう。「判例のポイント」を参照。
2.本件具体的事例の細かい部分については、国 I 受験生で余裕のある人は目を通しておけば完璧である。

(大剛寺)

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