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今年狙われる重要判例
刑法2 (5/24)
最決平12.12.20=H12重判・刑法3=判例六法・刑法38条29番

 鉄道トンネル内の電力ケーブルの接続工事を施工した業者に、トンネル内での火災発生の「予見可能性」があったといえるか、争われた。

【論点】
 過失犯の予見可能性
 業務上失火罪(刑法117条の2)
 業務上過失致死傷罪(刑法211条)

【判旨】
「…なお、原判決の認定するところによれば、近畿日本鉄道東大阪線生駒トンネル内における電力ケーブルの接続工事に際し、施工資格を有してその工事に当たった被告人が、ケーブルに特別高圧電流が流れる場合に発生する誘起電流を接地するための大小二種類の接地銅板のうちの一種類をY分岐接続器に取り付けるのを怠ったため、右誘起電流が、大地に流されずに、本来流れるべきでないY分岐接続器本体の半導電層部に流れて炭化導電路を形成し、長期間にわたり同部分に集中して流れ続けたことにより、本件火災が発生したものである。
 右事実関係の下においては、被告人は、右のような炭化導電路が形成されるという経過を具体的に予見することはできなかったとしても、右誘起電流が大地に流されずに本来流れるべきでない部分に長期間にわたり流れ続けることによって火災の発生に至る可能性があることを予見することはできたものというべきである。
 したがって、本件火災発生の予見可能性を認めた原判決は、相当である。」

【判例のポイント】
1.[事実関係] 近畿日本鉄道東大阪線生駒トンネル内における電力ケーブルの接続工事に際し、施工資格を有してその工事に当たった (1)被告人が、ケーブルに特別高圧電流が流れる場合に発生する誘起電流を接地するための大小二種類の接地銅板のうちの一種類をY分岐接続器に取り付けるのを怠った(=過失行為)ため、 (2)右誘起電流が、大地に流されずに、本来流れるべきでないY分岐接続器本体の半導電層部に流れて炭化導電路を形成し、長期間にわたり同部分に集中して流れ続けた(=因果経過)ことにより、 (3)本件火災が発生(=結果)した。
2.以上の事実関係において、被告人が、右のような「炭化導電路が形成されるという経過」を具体的に予見することはできなかったとしても、右「誘起電流が大地に流されずに本来流れるべきでない部分に長期間にわたり流れ続けることによって火災の発生に至る可能性がある」ことを予見することができた場合は、本件火災発生の予見可能性が認められる。
3.被告人を有罪とした原判決を維持した。

【ワンポイントレッスン】
1 過失犯の成立に必要な、結果発生の「予見可能性」
 内容の特定しない「一般的・抽象的な危惧感ないし不安感」を抱く程度では足りず、「特定の構成要件的結果及びその結果の発生に至る因果関係の基本的部分」の予見可能性を意味する、とするのが下級審判例である(札幌高判昭51.3.18=判例六法・刑法38条28番)。
 最高裁判例はないが、本判決の原審(大阪高裁)も、この立場を踏襲している。

2 本事例の因果経過
 簡略化すると、以下のようになる。

  (1)被告人の接続ミス=過失行為
  (2)誘起電流により、炭化導電路が形成され、電流が流れ続ける
  (3)火災が発生=結果

 この点、「炭化導電路が形成される」という現象はそれまで未知のものであり、被告人にその具体的な経過について予見可能性はありえない。
 そこで、最高裁は、「誘起電流が大地に流されずに本来流れるべきでない部分に長期間にわたり流れ続けることによって火災の発生に至る可能性がある」ことを予見することができた場合は、本件火災発生の予見可能性が認められるとした。
 「予見可能性」の対象となる因果経過を大幅に抽象化している点に注意。

【試験対策上の注意点】
 刑法総論の択一問題で、事例式で出題される可能性がある。
 「予見可能性」の対象について、最高裁の立場を押さえておこう。

(大剛寺)

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