【判旨】
「…なお、本件は、平成6年法律第4号による改正前の政治資金規正法12条1項に基づいて提出された報告書を作成するに当たり、それに虚偽の記入をしたというものであるところ、何人が右報告書に虚偽の記入をしても、政治資金の収支を公開することにより政治活動の公明と公正を確保するという同法の目的が没却されることに変わりはないのであって、右改正前の同法25条1項により右行為が処罰されるのは、特定の者に課せられた義務に違反するからではないというべきである。
したがって、同条項が定める前記報告書に虚偽の記入をする罪は、その主体が限定されたものではなく、犯人の身分によって構成すべき犯罪ではないと解されるから、原判決が、これと同旨の見解の下、会計責任者との共謀による被告人の本件所為に対して平成7年法律第91号による改正前の刑法65条1項を適用しなかった第一審判決を正当とした判断は、これを是認することができる。」
【判例のポイント】
1.旧政治資金規正法12条1項に基づいて提出された報告書を作成するに当たり、それに虚偽の記入をした事例について、
2.何人が右報告書に虚偽の記入をしても、「政治資金の収支を公開することにより政治活動の公明と公正を確保する」という同法の目的が没却されることに変わりはない。
3.旧同法25条1項により右行為が処罰されるのは、特定の者に課せられた義務に違反するからではない。
4.同条項が定める前記報告書に虚偽の記入をする罪は、その主体が限定されたものではなく、犯人の身分によって構成すべき犯罪ではない。
5.会計責任者との共謀による被告人の本件所為に対して旧「刑法65条1項」を適用しなくてもよい。
【ワンポイントレッスン】
旧政治資金規正法12条1項に基づいて提出された報告書を作成するに当たり、それに虚偽の記入をした事例について、旧同法25条1項の文言は、身分犯か否か明確ではなかったため、問題となった。
会計責任者たる身分が必要な「真正身分犯」と解すれば、非身分者を共同正犯として処罰するには、刑法65条1項・60条を両方適用しなければならない。
これにつき最高裁は、「何人が右報告書に虚偽の記入をしても、政治資金の収支を公開することにより政治活動の公明と公正を確保するという同法の目的が没却されることに変わりはない…25条1項により右行為が処罰されるのは、特定の者に課せられた義務に違反するからではない」と述べ、会計責任者との共謀による被告人の本件所為に対して、刑法65条1項を適用しなくてよい、とした。
なお、現行の政治資金規正法25条1項3号では、非身分犯であることが、明確化されている。
【試験対策上の注意点】
1.特別刑法の判例なので、一回見ておけば足りる。
2.「身分犯と共犯」の論点があやふやな人は、基本書で確認しておこう。