【判旨】
「1 刑法235条の2の不動産侵奪罪にいう「侵奪」とは、不法領得の意思をもって、不動産に対する他人の占有を排除し、これを自己又は第三者の占有に移すことをいうものである。
そして、当該行為が侵奪行為に当たるかどうかは、具体的事案に応じて、不動産の種類、占有侵害の方法、態様、占有期間の長短、原状回復の難易、占有排除及び占有設定の意思の強弱、相手方に与えた損害の有無などを総合的に判断し、社会通念に従って決定すべきものであることは、原判決の摘示するとおりである。
2 本件で起訴の対象となっている平成8年12月中旬ころの時点あるいはそれに引き続いて西側に増築された時点における本件簡易建物の性状を示す的確な証拠がないことも、原判決の指摘するとおりである。
しかし、捜査段階において検証が行われた平成9年8月1日当時の本件土地の状況について見ると、本件簡易建物は、約110.75平方メートルの本件土地の中心部に、建築面積約64.3平方メートルを占めて構築されたものであって、原判決の認定した前記構造等からすると、容易に倒壊しない骨組みを有するものとなっており、そのため、本件簡易建物により本件土地の有効利用は阻害され、その回復も決して容易なものではなかったということができる。
加えて、被告人らは、本件土地の所有者である東京都の職員の警告を無視して、本件簡易建物を構築し、相当期間退去要求にも応じなかったというのであるから、占有侵害の態様は高度で、占有排除及び占有設定の意思も強固であり、相手方に与えた損害も小さくなかったと認められる。
そして、被告人らは、本件土地につき何ら権原がないのに、右行為を行ったのであるから、本件土地は、遅くとも、右検証時までには、被告人らによって侵奪されていたものというべきである。」
【判例のポイント】
1.[定義] 刑法235条の2の不動産侵奪罪にいう「侵奪」とは、不法領得の意思をもって、不動産に対する他人の占有を排除し、これを自己又は第三者の占有に移すことをいう。
2.[規範定立] 当該行為が侵奪行為に当たるかどうかは、具体的事案に応じて、 (1)不動産の種類、 (2)占有侵害の方法、態様、 (3)占有期間の長短、 (4)原状回復の難易、 (5)占有排除及び占有設定の意思の強弱、 (6)相手方に与えた損害の有無 などを総合的に判断し、社会通念に従って決定すべきものである。
3.[あてはめ] 捜査段階において検証が行われた当時の本件土地の状況について見ると、本件簡易建物は、約110.75平方メートルの本件土地の中心部に、建築面積約64.3平方メートルを占めて構築されたものであって、容易に倒壊しない骨組みを有するものとなっており、そのため、本件簡易建物により本件土地の有効利用は阻害され、その回復も決して容易なものではなかった。
4.[あてはめ] 被告人らは、本件土地の所有者である東京都の職員の警告を無視して、本件簡易建物を構築し、相当期間退去要求にも応じなかったというのであるから、占有侵害の態様は高度で、占有排除及び占有設定の意思も強固であり、相手方に与えた損害も小さくなかった。
5.[結論] 被告人らは、本件土地につき何ら権原がないのに、右行為を行ったのであるから、本件土地は、遅くとも、右検証時までには、被告人らによって「侵奪」されていた。
【ワンポイントレッスン】
1 不動産侵奪罪にいう「侵奪」
最高裁は、「不法領得の意思をもって、不動産に対する他人の占有を排除し、これを自己又は第三者の占有に移すこと」と定義付けている。
2 判断要素
(1)不動産の種類
(2)占有侵害の方法、態様
(3)占有期間の長短
(4)原状回復の難易
(5)占有排除及び占有設定の意思の強弱
(6)相手方に与えた損害の有無
などを総合的に判断し、社会通念に従って決定すべきものである、とした。
3 事例へのあてはめ
「本件簡易建物により本件土地の有効利用は阻害され」、
「被告人らは、本件土地の所有者である東京都の職員の警告を無視して、本件簡易建物を構築し、相当期間退去要求にも応じなかったというのであるから、占有侵害の態様は高度で、占有排除及び占有設定の意思も強固であり」
などと述べており、前記判断要素の(2)(5)を特に重視したと見られる。
【試験対策上の注意点】
1.不動産侵奪罪は、最近最高裁が連続して出されているので要注意である。
2.判例六法・刑法235条の2では、3・4・9番の最新判例に目を通しておこう。