【判旨】
「…なお、簡易生命保険契約の事務に従事する係員に対し、被保険者が傷病により入院中であること又は被保険者につき既に法定の保険金最高限度額を満たす簡易生命保険契約が締結されていることを秘して契約を申し込み、同係員を欺罔して簡易生命保険契約を締結させ、その保険証書を騙取した行為について、刑法(平成7年法律第91号による改正前のもの)246条1項の詐欺罪の成立を認めた原判決の判断は、正当である。」
【判例のポイント】
簡易生命保険契約(郵便局のいわゆるカンポ)の事務に従事する係員に対し、被保険者が傷病により入院中であること又は被保険者につき既に法定の保険金最高限度額を満たす簡易生命保険契約が締結されていることを秘して契約を申し込み、同係員を欺罔して簡易生命保険契約を締結させ、その「保険証書」を騙取した行為について、1項詐欺罪が成立する。
【ワンポイントレッスン】
1 簡保の保険証書は「財物」か
「公文書」的な性格を有することから問題となる。
原審(福岡高裁)は「それ自体経済的価値効用を有する」から「財物」であるとし、最高裁も、1項詐欺罪の成立を認めた。
2 簡保の保険証書を騙取する行為は「財産権」の侵害か
事件当時、簡保は国営であり(現在、公社化・民営化が議論されている)、当該行為は特定の行政目的を内容とする「国家的法益」を侵害した側面があることから、問題となる。
原審(福岡高裁)は「私企業の行う生命保険業務の内容と本質的に異ならず、経済活動の色彩が強い」として、財産権の侵害を認め、最高裁も、1項詐欺罪の成立を認めた。
3 簡保の「保険証書」を騙取しただけで詐欺罪か
「保険金」を騙し取る「予備」行為にすぎないのではないか、問題となる。
原審(福岡高裁)は「保険証書は、保険金とは別個の、それ自体刑法上の保護に値する財物である」から、その騙取は独立した詐欺罪とし、最高裁も、1項詐欺罪の成立を認めた。
【試験対策上の注意点】
詐欺罪の問題で出題される可能性がある。最高裁の結論を押さえておこう。