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今年狙われる重要判例
商法2 (6/5)
最判平12.10.20=H12重判・商法4=判例六法・商法266条15番

 会社と取締役の利益相反取引について、商法266条1項の4号責任と5号責任の関係が問題となった。

[参考]
商法265条
   取締役が会社の製品其の他の財産を譲受け会社に対し自己の製品其の他の財産を譲渡し会社より金銭の貸付を受け其の他自己又は第三者の為に会社と取引を為すには取締役会の承認を受くることを要す。会社が取締役の債務を保証し其の他取締役以外の者との間に於て会社と取締役との利益相反する取引を為すとき亦同じ
商法266条
1項  左の場合に於ては其の行為を為したる取締役は会社に対し連帯して…第四号及第五号に在りては会社が蒙りたる損害額に付弁済又は賠償の責に任ず。
四 前条第一項の取引を為したるとき。
五 法令又は定款に違反する行為を為したるとき。
5項  第一項の取締役の責任は「総株主の同意」あるに非ざれば之を免除することを得ず。
6項  第一項第四号の取引に関する取締役の責任は前項の規定に拘らず「総株主の議決権の三分の二以上の多数」を以て之を免除することを得…
【論点】
 商法266条1項4号・5号の関係

【判旨】
「株式会社の取締役が商法265条1項の取引によって会社に損害を被らせた場合、当該取締役は、同法266条1項4号の責任を負う外、右取引を行うにつき故意又は過失により同法254条3項(民法644条)、商法254条ノ3に定める義務に違反したときには、同法266条1項5号の責任をも負うものと解するのが相当である。
けだし、同項4号の規定は、取締役が同法265条1項の取引をして会社が損害を被った場合は、故意又は過失の有無にかかわらず、これを賠償する責めに任ずる旨を定めるものであり、右取引が法令違反行為にも当たるときに同法266条1項5号の責任が成立することを妨げるものではないからである。」

【判例のポイント】
1.株式会社の取締役が、利益相反取取引(265条1項)によって会社に損害を被らせた場合、当該取締役は、266条1項「4号」の責任を負う外、右取引を行うにつき「故意又は過失」により善管注意義務(254条3項・民法644条)、忠実義務(254条ノ3)に違反したときには、266条1項「5号」の責任をも負う。
2.266条1項「4号」の規定は「無過失責任」である。
3.利益相反取引が「法令違反」行為にも当たるときは、266条1項「5号」の責任も成立する(4号と5号の責任が併存する)。

【ワンポイントレッスン】
1 266条1項4号と5号の相違
 判例に従ってまとめると、以下のようになる。
 免除要件については、266条5項・6項を参照。

4号 5号
責任 無過失責任 過失責任
免除要件 総株主の議決権の三分の二以上の多数 総株主の同意

2 266条1項4号と5号の適用場面
 最高裁が明確に述べていない部分もあるが、一般的な判例の理解に従った。

 (1)取締役会の承認を得た利益相反取引→4号
 (2)取締役会の承認を得たが善管注意義務を怠った利益相反取引→4号・5号
 (3)取締役会の承認を得ていない利益相反取引→5号

 (2)の場合に5号責任をも認める実益は、責任の免除に「総株主の同意」が必要なので、少数株主が反対することにより免除を防げる点にある。
 もっとも、(2)の場合は端的に5号のみを適用すればよいとも考えられるが、最高裁は4号・5号の責任が併存するとした。

3 H13年商法改正による取締役の5号責任の軽減
 株主代表訴訟で取締役が過大な責任を負わされることが問題視され、266条に7〜23項が追加された(判例六法なし)。

 国Tでの出題は、平成15年度以降になると思われる。
地上では、平成14年度に「時事」問題で出題される可能性があるので、266条7項本文ぐらい見ておくとよい。

 7項は、5号の「法令・定款違反行為」について、取締役が「善意かつ無重過失」の場合に、「株主総会特別決議」を要件に、損害賠償額に上限を設けるものである。

[参考]
商法266条
7項  第一項第五号の行為に関する取締役の責任は其の取締役が職務を行ふに付善意にして且重大なる過失なきときは第五項の規定に拘らず賠償の責に任ずべき額より左の金額を控除したる額(次項第二号に於て限度額と称す。)を限度として第三百四十三条に定むる決議を以て之を免除することを得。
一 決議を為す株主総会の終結の日の属する営業年度又は其の前の各営業年度に於て其の取締役が報酬其の他の職務遂行の対価(其の取締役が使用人を兼ぬる場合の使用人としての報酬其の他の職務遂行の対価を含む。)として会社より受け又は受くべき財産上の利益(次号及第三号に定むるものを除く。)の額の営業年度毎の合計額中最も高き額の四年分に相当する額
二 其の取締役が会社より受けたる退職慰労金の額及使用人を兼ぬる場合の使用人としての退職手当中取締役を兼ぬる期間の職務遂行の対価たる部分の額並に此等の性質を有する財産上の利益の額の合計額と其の合計額を其の職に在りたる年数を以て除したる額に四を乗じたる額との何れか低き額
三 其の取締役が第二百八十条の二十一第一項の決議に基き発行を受けたる第二百八十条の十九第一項の権利を就任後に行使したるときは行使の時に於ける其の会社の株式の時価より第二百八十条の二十第四項に規定する合計額の一株当りの額を控除したる額に発行を受け又は之に代へて移転を受けたる株式の数を乗じたる額、其の権利を就任後に譲渡したるときは其の価額より同条第二項第三号の発行価額を控除したる額に譲渡したる権利の数を乗じたる額
8項  前項の場合に於ては取締役は同項の責任の免除に関する決議を為す株主総会に於て左の事項を開示することを要す。
一 責任の原因たる事実及賠償の責に任ずべき額
二 限度額及其の算定の根拠
三 責任を免除すべき理由及免除額
9項  取締役は第七項の規定に依る責任の免除に関する議案を株主総会に提出するには監査役の同意を得ることを要す。此の場合に於て監査役数人あるときは各監査役の同意を得ることを要す。
10項  第七項の責任の免除に関する決議ありたる場合に於て会社が決議後に其の取締役に対し同項第二号の退職慰労金、退職手当又は財産上の利益を与ふるときは株主総会の承認を得ることを要す。其の取締役が決議後に同項第三号の権利を行使し又は譲渡すとき亦同じ。
11項  第七項の責任の免除に関する決議ありたる場合に於て其の取締役が同項第三号の権利に付発行せられたる新株予約権証券を所持するときは其の取締役は遅滞なく之を会社に預託することを要す。此の場合に於ては其の取締役は前項の譲渡に付ての承認を得るに非ざれば其の新株予約権証券の返還を請求することを得ず。
12項  会社は第五項の規定に拘らず定款を以て第一項第五号の行為に関する取締役の責任に付其の取締役が職務を行ふに付善意にして且重大なる過失なき場合に於て責任の原因たる事実の内容、其の取締役の職務遂行の状況其の他の事情を勘案して特に必要ありと認むるときは賠償の責に任ずべき額より左の金額を控除したる額を限度として取締役会の決議を以て之を免除することを得る旨を定むることを得。
一 取締役会の決議の日の属する営業年度又は其の前の各営業年度に於て其の取締役が報酬其の他の職務遂行の対価(其の取締役が使用人を兼ぬる場合の使用人としての報酬其の他の職務遂行の対価を含む。)として会社より受け又は受くべき財産上の利益(第七項第二号及第三号に定むるものを除く。)の額の営業年度毎の合計額中最も高き額の四年分に相当する額
二 第七項第二号及第三号に掲ぐる額
13項  第九項の規定は定款を変更して前項の定を設くる議案を株主総会に提出する場合及同項の定款の定に基く責任の免除に関する議案を取締役会に提出する場合に之を準用す。
14項  第十二項の定款の定に基き取締役会が責任の免除の決議を為したるときは取締役は遅滞なく第八項第一号及第三号に掲ぐる事項並に賠償の責に任ずべき額より第十二項各号に掲ぐる額を控除したる額及其の算定の根拠並に免除に異議あらば一定の期間内に之を述ぶべき旨を公告し又は株主に通知することを要す。此の場合に於ては其の期間は一月を下ることを得ず。
15項  総株主の議決権の百分の三以上を有する株主が前項の期間内に異議を述べたるときは会社は第十二項の定款の定に基く免除を為すことを得ず。
16項  第十項及第十一項の規定は第十二項の決議ありたる場合に之を準用す。但し前項の規定に依り免除を為すこと能はざる場合は此の限に在らず。
17項  代表取締役の行為に関する責任に付ては第七項第一号中「四年分」とあるは「六年分」と、同項第二号中「四」とあるは「六」と、第十二項第一号中「四年分」とあるは「六年分」とす。
18項  社外取締役の行為に関する責任に付ては第七項第一号中「四年分」とあるは「二年分」と、同項第二号中「四」とあるは「二」と、第十二項第一号中「四年分」とあるは「二年分」とす。
19項  会社は第五項の規定に拘らず定款を以て社外取締役との間に於て爾後其の者が取締役として第一項第五号の行為に因り会社に損害を加へたる場合に於て其の職務を行ふに付善意にして且重大なる過失なきときは定款に定めたる範囲内に於て予め定むる額と左の金額の合計額との何れか高き額を限度として其の賠償の責に任ずべき旨を約することを得る旨を定むることを得。
一 責任の原因たる事実が生じたる日の属する営業年度又は其の前の各営業年度に於て其の社外取締役が報酬其の他の職務遂行の対価として会社より受け又は受くべき財産上の利益(次号及第七項第三号に定むるものを除く。)の額の営業年度毎の合計額中最も高き額の二年分に相当する額
二 其の社外取締役が会社より受けたる退職慰労金の額及其の性質を有する財産上の利益の額の合計額と其の合計額を其の職に在りたる年数を以て除したる額に二を乗じたる額との何れか低き額
三 第七項第三号に掲ぐる額
20項  前項の社外取締役が其の会社又は子会社の業務を執行する取締役又は支配人其の他の使用人となりたるときは同項の契約は将来に向て其の効力を失ふ。
21項  第九項の規定は定款を変更して第十九項の定を設くる議案を株主総会に提出する場合に之を準用す。
22項  第十九項の契約を為したる会社が其の相手方たる社外取締役の第一項第五号の行為に因り損害を蒙りたることを知りたるときは取締役は其の後最初に招集せられたる株主総会に於て左の事項を開示することを要す。
一 第八項第一号に掲ぐる事項並に第十九項各号に掲ぐる額の合計額及其の算定の根拠
二 其の契約の内容及其の契約を為したる理由
三 責任を負はざることとなりたる額
23項  第十項及第十一項の規定は社外取締役が第一項第五号の行為に因り会社に損害を加へたる場合に於て第十九項の契約に依り同項の限度に於て責任を負ひたるときに之を準用す。

【試験対策上の注意点】
1.「取締役」に関する問題で出題される可能性が高い。
2.最判平12.7.7=判例六法・商法266条5/14番とセットで押さえておこう。

(大剛寺)

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