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今年狙われる重要判例
憲法3 (4/9)
(最判平13.4.5=H13重判・憲法9(1)=判例六法・憲法14条55)

 原告らは日本統治下にあった朝鮮半島出身者であったが、第二次大戦中に負傷したにもかかわらず、韓国籍であることを理由に、援護法に基づく障害年金の請求が認められなかった。
 この取り扱いが、法の下の平等(憲法14条)に反しないか、問題となった。

【論点】
 戦争損害に対する補償と法の下の平等(憲法14条)

【判旨】
「戦傷病者戦没者遺族等援護法は、軍人軍属等の公務上の負傷若しくは疾病又は死亡に関し、国家補償の精神に基づき、軍人軍属等であった者又はこれらの者の遺族を援護することを目的として制定されたものであり(1条)、軍人軍属であった者の在職期間内における公務上の負傷又は疾病に対しては、所定の要件を満たす限りにおいて障害年金等を支給する旨規定しているが、軍人軍属であった者であって、7条1項に規定する程度の障害の状態になった日において日本の国籍を有しないか、又はその日以後昭和27年3月31日以前に日本の国籍を失ったものには障害年金等を支給しない旨規定し(11条2号)、また、障害年金を受ける権利を有する者が日本の国籍を失ったときは、当該障害年金を受ける権利は消滅する旨規定し(14条1項2号)、さらに、「戸籍法(昭和22年法律第224号)の適用を受けない者については、当分の間、この法律を適用しない。」旨規定している(附則2項)。
 上告人A及びBは、大韓民国籍を有し、日本国に在住する者であるが、本件は、上告人Aが日本海軍の軍属として、Bが船舶運営会の運航する船舶の乗組船員として、いずれも援護法にいう在職期間内に公務上負傷し障害の状態になったので、援護法に基づき障害年金の請求をしたところ、厚生大臣が、上告人らは援護法附則2項により援護法の適用を受けられないとして、上告人Aについては平成3年6月7日付けで、Bについては同年10月4日付けで、それぞれ請求を却下する旨の処分(以下「本件各処分」という。)をしたため、上告人らが本件各処分の取消しを求めた事案であり、論旨は、援護法附則2項は上告人らいわゆる在日韓国人の軍人軍属を不当に差別するもので憲法14条1項に違反する、というものである。
 憲法14条1項は、法の下の平等を定めているが、この規定は、合理的理由のない差別を禁止する趣旨のものであって、各人に存する経済的、社会的その他種々の事実関係上の差異を理由としてその法的取扱いに区別を設けることは、その区別が合理性を有する限り、何らこの規定に違反するものでない
 それまで日本の国内法上で朝鮮人としての法的地位を有していた軍人軍属が援護法の適用から除外されたのは、これらの人々の請求権の処理は平和条約により日本国政府と朝鮮の施政当局との特別取極の主題とされたことから、上記軍人軍属に対する補償問題もまた両政府間の外交交渉によって解決されることが予定されたことに基づくものと解されるのであり、そのことには十分な合理的根拠があるものというべきである。
 したがって、援護法附則2項により、日本の国籍を有する軍人軍属と平和条約の発効により日本の国籍を喪失し朝鮮国籍を取得することとなった軍人軍属との間に区別が生じたとしても、それは以上のような根拠に基づくものである以上、援護法附則2項は、憲法14条1項に関する前記各大法廷判決の趣旨に徴して同項に違反するものとはいえない
 援護法附則2項が援護法の制定当時においては十分な合理的根拠を有していたとしても、日韓請求権協定の締結後、上記のような差別状態が生じていたにもかかわらず、立法府が在日韓国人の軍人軍属に対して援護の措置を講ずることなく援護法附則2項を存置してきたことについては、そのことが憲法14条1項に違反しないか否かが更に検討されなければならない。
 ところで、軍人軍属等の公務上の負傷若しくは疾病又は死亡のような戦争犠牲ないし戦争損害に対する補償は、憲法の予想しないところというべきであり、その補償の要否及び在り方は、事柄の性質上、財政、経済、社会政策等の国政全般にわたった総合的政策判断を待って初めて決し得るものであって、これについては、国家財政、社会経済、戦争によって国民が被った被害の内容、程度等に関する資料を基礎とする立法府の裁量的判断にゆだねられたものと解される…
 日韓請求権協定の締結後の経過や国際情勢の推移等にかんがみると、援護法附則2項を廃止することをも含めて在日韓国人の軍人軍属に対して援護の措置を講ずることとするか否かは、大韓民国やその他の国々との間の高度な政治、外交上の問題でもあるということができ、その決定に当たっては、変動する国際情勢、国内の政治的又は社会的諸事情等をも踏まえた複雑かつ高度に政策的な考慮と判断が要求されるところといわなければならない。
 これらのことからすれば、日韓請求権協定の締結後、上告人らを含む在日韓国人の軍人軍属に対して援護の措置を講ずることなく援護法附則2項を存置したことは、いまだ上記のような複雑かつ高度に政策的な考慮と判断の上に立って行使されるべき立法府の裁量の範囲を著しく逸脱したものとまでいうことはできず、本件各処分当時において憲法14条1項に違反するに至っていたものとすることはできない。」

【判例のポイント】
1.憲法14条1項は、法の下の平等を定めているが、この規定は、「合理的理由のない差別」を禁止する趣旨のものであって、各人に存する経済的、社会的その他種々の事実関係上の差異を理由としてその法的取扱いに区別を設けることは、その区別が「合理性」を有する限り、何らこの規定に違反するものでない。
2.戦傷病者戦没者遺族等援護法附則2項により、日本の国籍を有する軍人軍属と平和条約の発効により日本の国籍を喪失し朝鮮国籍を取得することとなった軍人軍属との間に区別が生じたとしても、援護法附則2項は、憲法14条1項に違反するものとはいえない。
3.軍人軍属等の公務上の負傷若しくは疾病又は死亡のような戦争犠牲ないし戦争損害に対する補償は、憲法の予想しないところというべきであり、その補償の要否及び在り方は、事柄の性質上、財政、経済、社会政策等の国政全般にわたった総合的政策判断を待って初めて決し得るものであって、これについては、国家財政、社会経済、戦争によって国民が被った被害の内容、程度等に関する資料を基礎とする「立法府の裁量的判断」にゆだねられたものである。
4.日韓請求権協定の締結後、上告人らを含む在日韓国人の軍人軍属に対して援護の措置を講ずることなく援護法附則2項を存置したことは、いまだ複雑かつ高度に政策的な考慮と判断の上に立って行使されるべき立法府の裁量の範囲を著しく逸脱したものとまでいうことはできず、本件各処分当時において憲法14条1項に違反するに至っていたものとすることはできない。

【ワンポイントレッスン】
 かつて日本と朝鮮が1つの国だった時代があった。
 そして、日本軍として戦って負傷し、現在韓国籍の人たちに年金を支給しないことが、法の下の平等(憲法14条)に反するのではないか、本事例では問題となった。

 最高裁は、一般論として「軍人軍属等の公務上の負傷若しくは疾病又は死亡のような戦争犠牲ないし戦争損害に対する補償は、憲法の予想しないところ」とし、「その補償の要否及び在り方は…戦争によって国民が被った被害の内容、程度等に関する資料を基礎とする立法府の裁量的判断にゆだねられたもの」とする。
 そして、本事例については、「立法府の裁量の範囲を著しく逸脱したものとまでいうことはできず、本件各処分当時において憲法14条1項に違反するに至っていたものとすることはできない」とした。

 戦争損害に対する補償は、高度の政治性を有するため、民主的基盤の薄い裁判所ではなく、主権者である国民に直接選ばれた国会議員の立法に任せるべきだ、という発想である。
 筆者には判決の是非はわかりかねるが、少数者の人権保障の最後の砦である裁判所と、国権の最高機関たる国会、両者の役割分担の難しさがあらためて認識できた事例といえる。

【試験対策上の注意点】
 憲法14条の択一問題で出題された場合に備え、事例と判例の規範を覚えておこう。
 学問的には「国際法」の色彩が強いので、憲法の試験対策として深入りする必要はない。

(大剛寺)

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