【判旨】
「所論は、上告人…ら6名の者が被った上記損害は日本国のための特別の犠牲であるにもかかわらず、同人らが日本国籍を有しないことを理由に補償をしないことは、憲法13条、14条、25条、29条3項に違反するなどというものである。
しかしながら、上告人…ら6名の者が被った上記損害は、第2次世界大戦及びその敗戦によって生じた戦争犠牲ないし戦争損害に属するものであって、このような犠牲ないし損害に対する補償は、憲法の前記各条項の予想しないところというべきであり、その補償の要否及びその在り方については、国家財政、社会経済、損害の内容、程度等に関する資料を基礎とする立法府の裁量的判断にゆだねられたものと解するのが相当である。
このことは、最高裁昭和40年(オ)第417号同43年11月27日大法廷判決・民集22巻12号2808頁の趣旨に徴して明らかである…
上告人…ら6名の者が被った犠牲ないし損害が深刻かつ甚大なものであったことを考慮しても、他の戦争損害と区別して、所論主張の憲法の各条項等に基づき、その補償を認めることはできないものといわざるを得ない。」
【判例のポイント】
1. 上告人らが被った損害は、第2次世界大戦及びその敗戦によって生じた戦争犠牲ないし戦争損害に属するものであって、このような犠牲ないし損害に対する補償は、憲法の予想しないところというべきであり、その補償の要否及びその在り方については、国家財政、社会経済、損害の内容、程度等に関する資料を基礎とする立法府の裁量的判断にゆだねられる。
2.上告人らの被った犠牲ないし損害が深刻かつ甚大なものであったことを考慮しても、他の戦争損害と区別して、憲法13条・14条・25条・29条3項に基づき、その補償を認めることはできない。
【ワンポイントレッスン】
本判決が引用した最大判昭43.11.27は、次のように判示した(いくつか誤植と思われるものがあるが、最高裁公式HPの当該判決文に従った)。
「(1) わが国は、敗戦に伴い、ポツダム宣言を受諾し、降伏文書に調印し、連合国の占領管理に服することとろり、わが国の主権は、不可避的に連合軍総司令部の完全な支配の下におかれざるを得なかつた。
わが国は、いわゆる平和条約の締結によつて、この状態から脱却して、その主権の回復を図ることになつたのであるが、同条約は、当時未だ連合軍総司令部の完全な支配下にあつて、わが国の主権が回復されるかどうかが正に同条約の成否にかかつていたという特殊異例の状態のもとに締結されたものであり、同条約の内容についても、日本国政府は、連合国政府と実質的に対等の立場において自由に折衝し、連合国政府の要求をむげに拒否することができるような立場にはなかつたのみならず、右のような敗戦国の立場上、平和条約の締結にあたつて、やむを得ない場合には憲法の枠外で問題の解決を図ることも避けがたいところであつたのである。
在外資産の賠償への充当ということも、このような経緯で締結された平和条約の一条項に基づくものにほかならないのである。
ところで、戦争中から戦後占領時代にかけての国の存亡にかかわる非常事態にあつては、国民のすべてが、多かれ少なかれ、その生命・身体・財産の犠牲を堪え忍ぶべく余儀なくされていたのであつて、これらの犠牲は、いずれも、戦争犠牲または戦争損害として、国民のひとしく受忍しなければならなかつたところであり、右の在外資産の賠償への充当による損害のごとさも、一種の戦争損害として、これに対する補償は、憲法の全く予想しないところというべきである。
(2) 平和条約一四条(a)頃は、わが国の賠償義務について、いわゆる役務賠償のほか、在外資産の処分をあげているが、これらの在外資産の処分については、イタリア平和条約等に見られるような敗戦国において補償すべき旨の規定または補償するよう配慮すべき旨の規定を設けているい。
その趣旨とするところは、補償問題については、少なくとも国際的に、日本一国を拘束する必要はたく、日本国が国内問題として適当に処理するところに委ねようとするにあり、したがつて、平和条約上、国の補償義務の生ずる余地はないといわなければならない。
ところで、平和条約一四条(a)項2(1)には、各連合国は、日本国民の在外資産を「差し押え、留置し、清算し、その他何らかの方法で処分する権利を有する」旨規定している。この規定の趣旨とするところは、もともと外国の主権に基づき当該国の法制の支配下におかれ、戦争中から戦後にかけて敵産として接収管理されてきたわが国民の所有に寓する在外資産を右規定に基づいて当該国が処分し得べさものとするにあつて、さきに述べた平和条約締結の経緯からいつて、わが国が自主的な公権力の行使に基づいて、日本国民の所有に属する在外資産を戦争賠償に充当する処分をしたものということはできず、この場合、わが国は、日本国民の右資産が当該外国において不利益を取扱いを受けるいよるにするために有するいわゆる異議権ないし外交保護権を行使しないことを約せしめられたにすぎるいものといわなければならない。
平和条約は、もとより、日本国政府の責任において締結したものではあるが、同条約中の右条項のごときは、上述の経緯に基づき不可避的に承認ぜざるを得なかつたところであつて、その結果として上告人らが被つた在外資産の喪失による損害も、敗戦という事実に基づいて生じだ一種の戦争損害とみるほかはないのである。
これを要するに、このような戦争損害は、他の種々の戦争損害と同様、多かれ少なかれ、国民のひとしく堪え忍ばなければならないやむを得ない犠牲なのであつて、その補償のごときは、さきに説示したように、憲法二九条山三項の全く予想しないところで、同条項の適用の余地のない問題といわなければならない。
したがつて、これら在外資産の喪失による損害に対し、国が、政策的に何らかの配慮をするかどうかは別問題として、憲法二九条三項を適用してその補償を求める所論主張は、その前提を欠くに帰するものであつて、所論の憲法二九条三項の意義・性質等について判断するまでもなく、本件上告は排斥を免れるい。」
今回の判決も、以上のような従来の判例を踏襲し、「戦争損害に対する補償は、憲法の予想しないところ」の一言で片付けている。
たしかに戦争損害は極めて政治的な問題ゆえ、「立法府の裁量的判断にゆだねられ」る部分は大きいが、裁判所としてどのように救済していけるかは、難しい問題といえよう。
【試験対策上の注意点】
択一対策として押さえておけば足りる。