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今年狙われる重要判例
民法1 (4/16)
(最判平13.3.27=H13重判・民法1=判例六法・民法1条11)

 中学生Aは、親に無断で、自宅の加入電話を使って、ダイヤルQ2のツーショット番組を利用した。NTTからの情報料と通話料の請求に対して、Aの親はこれを拒否して、争われた事例である。
なお、NTTがQ2事業者から代行回収を請け負っていた「情報料」の請求については、訴訟途中でNTT自ら請求を放棄し、最終的には「通話料」支払債務のみが扱われた。
 実際にQ2を利用したのはAであるが、約款上は、加入電話契約者である親が支払うことになっていた。未成年者の契約による取消(4条)の問題ではないので注意。

【論点】
 ダイヤルQ2の通話料の請求と信義則(民法1条2項)

【判旨】
「1 加入電話契約者は、加入電話契約者以外の者が当該加入電話から行った通話に係る通話料についても、特段の事情のない限り、上告人に対し、支払義務を負う。
 このことは、本件約款118条1項の定めるところであり、この定めは、大規模な組織機構を前提として一般大衆に電気通信役務を提供する公共的事業においては、その業務の運営上やむを得ない措置であって、通話料徴収費用を最小限に抑え、低廉かつ合理的な料金で電気通信役務の提供を可能にするという点からは、一般利用者にも益するものということができる。
  したがって、被上告人は、本件約款の文言上は、上告人に対して本件通話料の支払義務を負うものといえる。
 しかし、加入電話契約は、いわゆる普通契約約款によって契約内容が規律されるものとはいえ、電気通信役務の提供とこれに対する通話料等の支払という対価関係を中核とした民法上の双務契約であるから、契約一般の法理に服することに変わりはなく、その契約上の権利及び義務の内容については、信義誠実の原則に照らして考察すべきである。
 そして、当該契約のよって立つ事実関係が変化し、そのために契約当事者の当初の予想と著しく異なる結果を招来することになるときは、その程度に応じて、契約当事者の権利及び義務の内容、範囲にいかなる影響を及ぼすかについて、慎重に検討する必要があるといわなければならない。

2 今日のように、一般家庭に広く電話が普及し、日常生活上不可欠な通信手段となったのは、通常の家庭における日常の電話利用を前提とする限り、特段の注意を払わなくても、家族等による電話利用が契約当事者の予想の範囲内にとどまり、また、その利用に伴う料金も日常の生活経費に織り込まれた金額の範囲内に納まっているからである。
 このような事実関係を前提として、加入電話契約者は、日常の電話利用から生ずる通話料について、それが誰の利用によるものかを問わず、原則として、そのすべてについて支払義務を負うことを承認しているのであり、他方、上告人は、電気通信役務の提供に必要な機構を構築してその機能及び情報を管理し、加入電話契約者に対して予定された電気通信役務を提供することを期待されているのである。

3 ところで、今日、通信に関する高度技術の発展に伴い、電気通信事業が急激に拡大し、市民の生活を豊かにするとともに、その生活様式さえも一変しつつあることは公知の事実である。
 従来、国営企業として電気通信役務の提供を一手に引き受けていた電電公社が民営化されて一般企業と同様な株式会社となり、電気通信事業の拡大に乗り出すとともに、電気通信事業法に基づく電気通信事業が自由化され、これに伴って従来固有の電気通信設備を有しなかった事業者にも上告人の電気通信設備が開放されて、ダイヤルQ2事業のような新たな事業が創設されるに至ったのも、こうした流れに沿うものであって、その発足当初、Q2情報サービスの内容やその料金徴収手続等において改善すべき問題があったとしても、そのこと自体から上記のような事業の存在そのものを否定的に評価することは相当でない。
 しかし、Q2情報サービスは、既設の電話回線から直接情報提供者に対して電話をかけることにより多種多様な情報を取得することができ、その情報内容によっては時間的に制限のない娯楽を提供することも可能であり、しかも情報提供者は加入電話契約者と同一市内に限られず全国に広域化していたというのであるから、従来の日常生活において予定された通話者間の意思伝達手段としての通話とは異なり、その利用に係る通話料の高額化に容易に結び付く危険を内包していた。
 そして、本件当時においては、青少年に対する誘惑的要素を多分に含んだ番組も相当数に上っていたために、加入電話契約者の監護下にあって経済的能力のない青少年が加入電話契約者に隠れてひそかにQ2情報サービスを利用し、加入電話契約者は、上告人からの電話料金の支払請求を受けて同サービスの利用に係る料金が著しく高額化したことを初めて知らされ、それまではその利用の事実を認識することができないという事態が生じたということができる。
 すなわち、このようなQ2情報サービスの開始は、日常生活上の意思伝達手段という従来の一般家庭における加入電話契約のよって立つ事実関係を変化させたものということができるのである。

4 そうすると、加入電話契約において、加入電話の管理、ひいてはいかなる者にいかなる程度の電話利用を許すかは加入電話契約者の決し得るところであるとしても、上告人は、他方において、電気通信役務提供の条件やそのあり方を自ら決定し、事業の内容等についての情報を独占的に保有する立場にあるのであるから、ダイヤルQ2事業の創設に伴ってQ2情報サービスの無断利用による料金高額化の危険が存在していた以上、上告人には、本件当時既に生活必需品として一般家庭に広く普及していた電話に関わる公益的事業者として、ダイヤルQ2事業の開始に当たり、あらかじめ、加入電話契約者に対して、同サービスの内容や危険性等について具体的かつ十分な周知を図るとともに、その危険の現実化をできる限り防止するために可能な対策を講じておくべき信義則上の責務があったということができる。
 確かに、ダイヤルQ2事業の創設が電気通信事業の自由化に伴う初めての試みであることから、上告人において、当時、前記危険が広範に現実化するという事態までは想定していなかったとしても、上告人は、その分野における専門家として、我が国に先立って米国で実施された同種事業において既に生じた種々の問題やこれに対する対策等についても知り得る立場にあったことなどからすれば、上記の点は、上告人の前記責務を否定しあるいは軽減する理由にはならないというべきである。
 そして、上告人が前記責務を十分に果たさなかったために、加入電話契約者がQ2情報サービスの存在やその危険性等についての十分な認識を有しない状態の下に適切な対応策を講ずることができず、加入電話契約者以外の者、とりわけ生計を同じくする未成年の子等によるQ2情報サービスの多数回・長時間にわたる無断利用により通話料が日常生活上の利用による通常の負担の範囲を超えて著しく高額化し、加入電話契約者において上記通話料の負担を余儀なくされるといった契約当事者の予想と著しく異なる結果を招来した場合には、上告人が加入電話契約者に対して上記通話料の支払を請求するに当たって、信義則上相応の制約を受けることになってもやむを得ないといわなければならない。

5 以上を要するに、ダイヤルQ2事業は電気通信事業の自由化に伴って新たに創設されたものであり、Q2情報サービスは当時における新しい簡便な情報伝達手段であって、その内容や料金徴収手続等において改善すべき問題があったとしても、それ自体としてはすべてが否定的評価を受けるべきものではない。
 しかし、同サービスは、日常生活上の意思伝達手段という従来の通話とは異なり、その利用に係る通話料の高額化に容易に結び付く危険を内包していたものであったから、公益的事業者である上告人としては、一般家庭に広く普及していた加入電話から一般的に利用可能な形でダイヤルQ2事業を開始するに当たっては、同サービスの内容やその危険性等につき具体的かつ十分な周知を図るとともに、その危険の現実化をできる限り防止するために可能な対策を講じておくべき責務があったというべきである。

 本件についてこれを見ると、上記危険性等の周知及びこれに対する対策の実施がいまだ十分とはいえない状況にあった平成3年当時、加入電話契約者である被上告人が同サービスの内容及びその危険性等につき具体的な認識を有しない状態の下で、被上告人の未成年の子による同サービスの多数回・長時間に及ぶ無断利用がされたために本件通話料が高額化したというのであって、この事態は、上告人が上記責務を十分に果たさなかったことによって生じたものということができる。
 こうした点にかんがみれば、被上告人が料金高額化の事実及びその原因を認識してこれに対する措置を講ずることが可能となるまでの間に発生した通話料についてまで、本件約款118条1項の規定が存在することの一事をもって被上告人にその全部を負担させるべきものとすることは、信義則ないし衡平の観念に照らして直ちに是認し難いというべきである。
 そして、その限度は、加入電話の使用とその管理については加入電話契約者においてこれを決し得る立場にあることなどの事情に加え、前記の事実関係を考慮するとき、本件通話料の金額の5割をもって相当とし、上告人がそれを超える部分につき被上告人に対してその支払を請求することは許されないと解するのが相当である。」

【判例のポイント】
1.NTTには、本件当時既に生活必需品として一般家庭に広く普及していた電話に関わる公益的事業者として、ダイヤルQ2事業の開始に当たり、あらかじめ、加入電話契約者に対して、同サービスの内容や危険性等について具体的かつ十分な周知を図るとともに、その危険の現実化をできる限り防止するために可能な対策を講じておくべき「信義則」上の責務があり、この責務を十分に果たさなかったために、加入電話契約者がQ2情報サービスの存在やその危険性等についての十分な認識を有しない状態の下に適切な対応策を講ずることができず、加入電話契約者以外の者、とりわけ生計を同じくする未成年の子等によるQ2情報サービスの多数回・長時間にわたる無断利用により通話料が日常生活上の利用による通常の負担の範囲を超えて著しく高額化し、加入電話契約者において上記通話料の負担を余儀なくされるといった契約当事者の予想と著しく異なる結果を招来した場合には、NTTが加入電話「契約者に対して上記通話料の支払を請求するに当たって、「信義則」上相応の制約を受けることになってもやむを得ない。といわなければならない。
2.ダイヤルQ2は、日常生活上の意思伝達手段という従来の通話とは異なり、その利用に係る通話料の高額化に容易に結び付く危険を内包していたものであったから、公益的事業者であるNTTとしては、一般家庭に広く普及していた加入電話から一般的に利用可能な形でダイヤルQ2事業を開始するに当たっては、同サービスの内容やその危険性等につき具体的かつ十分な周知を図るとともに、その危険の現実化をできる限り防止するために可能な対策を講じておくべき責務があった。
3.本件事態は、NTTが上記責務を十分に果たさなかったことによって生じたものであり、親にその全部を負担させるべきものとすることは、「信義則」ないし「衡平の観念」に照らして直ちに是認し難い。
4.本件通話料の金額の「5割」をもって相当とし、NTTがそれを超える部分につき親に対してその支払を請求することは許されない。

【ワンポイントレッスン】
1.本判決(通話料について)
 現在では携帯電話の出会い系サイトが社会問題化しているが、事件当時は、子供が家の電話でダイヤルQ2のアダルト番組を利用し、後から莫大な請求が届き親がびっくり仰天する、という問題が起こっていた。
 NTTとの約款では支払い義務があるといっても、親からすれば青天の霹靂であり、たまったものではない。
 そこで、NTTが「通話料」を全額支払請求するのは、信義則違反ではないか、争われた。

 本判決を噛み砕いて説明すると、
 (1)NTTは、ダイヤルQ2なる新サービスは多額の請求がくる場合もあるので気をつけましょう、と電話加入者にきちんと説明して、トラブルが起こらないような措置を講じるべきだった。
 (2)それをやらないで、約款を盾に全額請求するのは、理不尽だ。
 (3)せいぜい通話料の半額までの請求が限度だろう。

 本件では、全額請求が拒否されたわけではなく、通話料の50%までとされた点に注意。その数字の根拠を最高裁は明確に示していないが、バカ息子を監督しなかった親にも責任があるから、両者痛み分けといったところか?

2.関連判例(情報料について)
 同じ日付の同じ最高裁第三小法廷の判決を紹介する。
 「加入電話からQ2情報サービスの利用が行われた場合、利用者と情報提供者との間で、その都度、情報提供者による電話を通じた情報等の提供と利用者によるこれに対する対価である情報料の支払を内容とする有料情報提供契約が成立し、利用者は情報提供者に対して同サービスの利用時間に応じた情報料債務を負担し、情報提供者は利用者に対する情報料債権を取得することになる。
 そして、同サービスの利用が加入電話契約者以外の者によるものであるときには、有料情報提供契約の当事者でない加入電話契約者は、情報提供者に対して利用者の情報料債務を自ら負担することを承諾しているなど特段の事情がない限り、情報提供者に対して情報料債務を負うものではない。」

3.通話料と情報量
 Q2を利用すると、NTTへ支払う「通話料」と、最終的に業者に支払われる「情報料」とがかかる。
 以上の判例をまとめると、次のようになる。

[通話料]
加入電話契約者(親)は、加入電話契約者以外の者(子供)が当該加入電話から行った通話に係る「通話料」についても、特段の事情のない限り、NTTに対して支払義務を負う。ただし、信義則による制限あり。
原則:支払義務あり、例外:支払義務なし。

[情報料]
Q2の利用が加入電話契約者以外の者(子供)によるものであるときには、有料情報提供契約の当事者でない加入電話契約者(親)は、情報提供者に対して利用者の情報料債務を自ら負担することを承諾しているなど特段の事情がない限り、情報提供者に対して「情報料」債務を負うものではない。
原則:支払義務なし、例外:支払義務あり。

【試験対策上の注意点】
 択一問題で事例ごときかれる可能性がある。契約の構造に注意して、判例を読んでおこう。

(大剛寺)

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