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今年狙われる重要判例
民法5 (4/23)
(最判平13.3.13=H13重判・民法5=判例六法・民法372条12番)

 賃料債権への抵当権者による物上代位と、賃借人が賃貸人に対して有する債権を自動債権とする賃料債権との相殺の、優劣が問題となった。

[参考]
民法372条
   …第三百四条…の規定は抵当権に之を準用す。
304条1項
   先取特権〔抵当権〕は其目的物の…賃貸…に因りて債務者が受くべき金銭…に対しても之を行ふことを得。
【論点】
 賃料債権への抵当権者による物上代位(民法372条・304条)

【判旨】
「抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権の差押えをした後は、抵当不動産の賃借人は、抵当権設定登記の後に賃貸人に対して取得した債権を自働債権とする賃料債権との相殺をもって、抵当権者に対抗することはできないと解するのが相当である。
 けだし、物上代位権の行使としての差押えのされる前においては、賃借人のする相殺は何ら制限されるものではないが、上記の差押えがされた後においては、抵当権の効力が物上代位の目的となった賃料債権にも及ぶところ、物上代位により抵当権の効力が賃料債権に及ぶことは抵当権設定登記により公示されているとみることができるから、抵当権設定登記の後に取得した賃貸人に対する債権と物上代位の目的となった賃料債権とを相殺することに対する賃借人の期待を物上代位権の行使により賃料債権に及んでいる抵当権の効力に優先させる理由はないというべきであるからである。
 そして、上記に説示したところによれば、抵当不動産の賃借人が賃貸人に対して有する債権と賃料債権とを対当額で相殺する旨を上記両名があらかじめ合意していた場合においても、賃借人が上記の賃貸人に対する債権を抵当権設定登記の後に取得したものであるときは、物上代位権の行使としての差押えがされた後に発生する賃料債権については、物上代位をした抵当権者に対して相殺合意の効力を対抗することができないと解するのが相当である。」

【判例のポイント】
1.抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権の差押えをした後は、抵当不動産の賃借人は、抵当権設定登記の後に賃貸人に対して取得した債権を自働債権とする賃料債権との相殺をもって、抵当権者に対抗することはできない。
2.抵当不動産の賃借人が賃貸人に対して有する債権と賃料債権とを対当額で相殺する旨を上記両名があらかじめ合意していた場合においても、賃借人が上記の賃貸人に対する債権を抵当権設定登記の後に取得したものであるときは、物上代位権の行使としての差押えがされた後に発生する賃料債権については、物上代位をした抵当権者に対して相殺合意の効力を対抗することができない。

【ワンポイントレッスン】
1.「物上代位」とは
 初学者には、ややわかりづらい概念なので、以下、具体例を挙げて説明しよう。
 …AがBにお金を貸して、担保としてBの家に抵当権を設定した。せこいBは、なかなかお金を返そうとしない。
 そこで、Aは、Bが家をCに賃貸して、賃料を得ていることに目をつけた。
 Aは、Bの賃料債権を身代わりとして差し押さえて、ささやかながら、債権を一部回収することができた。メデタシ、メデタシ…というのが、「物上代位」である。

2.本判決
 1の事例で、賃借人Cも賃貸人Bに対して、債権をもっていたとしよう。Cからすれば、これを自動債権として賃料債権と相殺できれば、簡易である。
 しかし、抵当権者Aとしては、賃料債権に物上代位したい。

 これにつき、最高裁は「抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権の差押えをした後は、抵当不動産の賃借人は、抵当権設定登記の後に賃貸人に対して取得した債権を自働債権とする賃料債権との相殺をもって、抵当権者に対抗することはできない」と判示した。

 「抵当権設定登記」により、物上代位を覚悟しなければいけないことは公示されているから、この登記後に賃貸人に対して取得した債権を自働債権とする賃料債権との相殺をしたくてもダメ(抵当権者が賃料債権を差し押さえてしまったら)、ということである。

【試験対策上の注意点】
 「物上代位」は頻出論点である。ぜひ押さえておこう。

(大剛寺)

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