【判旨】
「1 本件は、遺言によって被上告人が相続すべきものとされた不動産につき、当該遺言で相続分のないものとされた相続人に対して貸金債権を有する上告人が、当該相続人に代位して法定相続分に従った共同相続登記を経由した上、当該相続人の持分に対する強制競売を申し立て、これに対する差押えがされたところ、被上告人がこの強制執行の排除を求めて提起した第三者異議訴訟である。
上告人は、上記債権を保全するため、当該相続人に代位して遺留分減殺請求権を行使する旨の意思表示をし、その遺留分割合に相当する持分に対する限度で上記強制執行はなお効力を有すると主張した。
2 遺留分減殺請求権は、遺留分権利者が、これを第三者に譲渡するなど、権利行使の確定的意思を有することを外部に表明したと認められる特段の事情がある場合を除き、債権者代位の目的とすることができないと解するのが相当である。
その理由は次のとおりである。
遺留分制度は、被相続人の財産処分の自由と身分関係を背景とした相続人の諸利益との調整を図るものである。
民法は、被相続人の財産処分の自由を尊重して、遺留分を侵害する遺言について、いったんその意思どおりの効果を生じさせるものとした上、これを覆して侵害された遺留分を回復するかどうかを、専ら遺留分権利者の自律的決定にゆだねたものということができる(1031条、1043条参照)。
そうすると、遺留分減殺請求権は、前記特段の事情がある場合を除き、行使上の一身専属性を有すると解するのが相当であり、民法423条1項ただし書にいう「債務者ノ一身ニ専属スル権利」に当たるというべきであって、遺留分権利者以外の者が、遺留分権利者の減殺請求権行使の意思決定に介入することは許されないと解するのが相当である。
民法1031条が、遺留分権利者の承継人にも遺留分減殺請求権を認めていることは、この権利がいわゆる帰属上の一身専属性を有しないことを示すものにすぎず、上記のように解する妨げとはならない。
なお、債務者たる相続人が将来遺産を相続するか否かは、相続開始時の遺産の有無や相続の放棄によって左右される極めて不確実な事柄であり、相続人の債権者は、これを共同担保として期待すべきではないから、このように解しても債権者を不当に害するものとはいえない。
3 以上と同旨の見解に基づき、本件において遺留分減殺請求権を債権者代位の目的とすることはできないとして、被上告人の第三者異議を全部認容すべきとした原審の判断は、正当として是認することができる。」
【判例のポイント】
1.遺留分減殺請求権は、遺留分権利者が、これを第三者に譲渡するなど、権利行使の確定的意思を有することを外部に表明したと認められる特段の事情がある場合を除き、債権者代位の目的とすることができない。
2.遺留分減殺請求権は、前記特段の事情がある場合を除き、「行使」上の一身専属性を有し、民法423条1項但書にいう「債務者ノ一身ニ専属スル権利」に当たるというべきであって、遺留分権利者以外の者が、遺留分権利者の減殺請求権行使の意思決定に介入することは許されない。
3.民法1031条が、遺留分権利者の承継人にも遺留分減殺請求権を認めていることは、この権利がいわゆる「帰属」上の一身専属性を有しないことを示すものにすぎず、上記のように解する妨げとはならない。
【ワンポイントレッスン】
1.遺留分減殺請求権とは
一定範囲の相続人は被相続人の財産の一定割合を確保し得る地位を持ち(遺留分権:1028条)、遺留分を侵害する遺贈・贈与の効力を奪う「遺留分減殺請求権」が認められている(1031条)。
例えば、妻子ある男が自分の全財産を愛人に遺贈してしまったら、奥さんや子供はたまったものではないが、遺留分についてはとり返せるわけである。
2.遺留分減殺請求権の債権者代位
では、この遺留分減殺請求権(1031条)を債権者代位(423条)の目的とできるか。
仮に、債務者本人がこの権利を行使すれば、それによって得た財産から債権を回収できるわけである。債務者本人にその気がなければ、債権者による代位行使を認めてもよさそうである。
しかし、最高裁は、原則としてこれを否定した。
例外として、「遺留分権利者が、これを第三者に譲渡するなど、権利行使の確定的意思を有することを外部に表明したと認められる特段の事情がある場合」には、債権者代位が認められる余地がある点に注意。
この「〜特段の事情」とは、具体的には、遺留分権利者Aが第三者Bに遺留分減殺請求権を譲渡し、Bの債権者Cがこれを代位行使する場合、を想定していると考えられる(重判・解説参照)。
3.本判決のまとめ(遺留分減殺請求権につき)
債権者代位→原則×、例外○
「行使」上の一身専属性→あり
「帰属」上の一身専属性→なし(第三者に譲渡できる)
【試験対策上の注意点】
「債権者代位権」又は「遺留分」の択一問題で、出題される可能性がある。
原則と例外を区別して、判旨を読み込んでおこう。