【論点】
瑕疵担保による損害賠償請求権(570条)に167条1項が適用されるか(肯定)
【判旨】
「1 原審の確定した事実関係の概要等は、次のとおりである。
(1) 昭和48年2月18日、被上告人は、上告人から、第1審判決添付物件目録一記載の土地(以下「本件宅地」という。)及びその地上建物等を買い受け、その代金を支払った。同年5月9日、本件宅地につき上告人から被上告人への所有権移転登記がされ、そのころ、被上告人は上告人からその引渡しを受けた。
(2) 本件宅地の一部には、柏市昭和47年10月27日第157号をもって道路位置指定がされている。このため、本件宅地上の建物の改築に当たり床面積を大幅に縮小しなければならないなどの支障が生ずるので、道路位置指定がされていることは、民法570条にいう「隠レタル瑕疵」に当たる。
(3) 被上告人は、平成6年2月ないし3月ころ、上記道路位置指定の存在を初めて知り、同年7月ころ、上告人に対し、道路位置指定を解除するための措置を講ずるよう求め、それができないときは損害賠償を請求する旨を通知した。
2 本件は、被上告人が上告人に対して瑕疵担保による損害賠償を求めた事案である。上告人は、被上告人の損害賠償請求権は時効により消滅したと主張し、本訴において消滅時効を援用した。
原審(筆者注:東京高裁)は、次のとおり判示して上告人の消滅時効の抗弁を排斥し、被上告人の損害賠償請求を一部認容した。
売主の瑕疵担保責任は、法律が買主の信頼保護の見地から特に売主に課した法定責任であって、売買契約上の債務とは異なるから、これにつき民法167条1項の適用はない。
また、同法570条、566条3項が除斥期間を定めているのは、責任の追及を早期にさせて権利関係を安定させる趣旨を含むものであるが、他方で、その期間の起算点を「買主カ事実ヲ知リタル時」とのみ定めていることは、その趣旨が権利関係の早期安定だけでないことを示しているから、瑕疵担保による損害賠償請求権に同法167条1項を準用することも相当でない。
このように解さないと、買主が瑕疵の存在を知っているか否かを問わずに損害賠償請求権の時効消滅を認めることとなり、買主に対し売買の目的物を自ら検査して瑕疵を発見すべき義務を負わせるに等しく、必ずしも公平といえない。
(筆者注:以下が最高裁の見解)
3 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
(1) 買主の売主に対する瑕疵担保による損害賠償請求権は、売買契約に基づき法律上生ずる金銭支払請求権であって、これが民法167条1項にいう「債権」に当たることは明らかである。
この損害賠償請求権については、買主が事実を知った日から1年という除斥期間の定めがあるが(同法570条、566条3項)、これは法律関係の早期安定のために買主が権利を行使すべき期間を特に限定したものであるから、この除斥期間の定めがあることをもって、瑕疵担保による損害賠償請求権につき同法167条1項の適用が排除されると解することはできない。
さらに、買主が売買の目的物の引渡しを受けた後であれば、遅くとも通常の消滅時効期間の満了までの間に瑕疵を発見して損害賠償請求権を行使することを買主に期待しても不合理でないと解されるのに対し、瑕疵担保による損害賠償請求権に消滅時効の規定の適用がないとすると、買主が瑕疵に気付かない限り、買主の権利が永久に存続することになるが、 これは売主に過大な負担を課するものであって、適当といえない。
したがって、瑕疵担保による損害賠償請求権には消滅時効の規定の適用があり、この消滅時効は、買主が売買の目的物の引渡しを受けた時から進行すると解するのが相当である。
(2) 本件においては、被上告人が上告人に対し瑕疵担保による損害賠償を請求したのが本件宅地の引渡しを受けた日から21年余りを経過した後であったというのであるから、被上告人の損害賠償請求権については消滅時効期間が経過しているというべきである。
4 以上によれば、消滅時効の抗弁を排斥した原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。そして、上告人による消滅時効の援用が権利の濫用に当たるとの被上告人の再抗弁等について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。」
【判例のポイント】
1.買主の売主に対する瑕疵担保による損害賠償請求権は、売買契約に基づき法律上生ずる金銭支払請求権であって、民法167条1項「債権」に当たる。
2.この損害賠償請求権については、買主が事実を知った日から1年という除斥期間の定めがあるが(570条・566条3項)、これは法律関係の早期安定のために買主が権利を行使すべき期間を特に限定したものであるから、この除斥期間の定めがあることをもって、瑕疵担保による損害賠償請求権につき167条1項の適用が排除されると解することはできない。
3.瑕疵担保による損害賠償請求権には消滅時効の規定(167条1項)の適用があり、この消滅時効は、買主が売買の目的物の「引渡しを受けた時」から進行する。
【ワンポイントレッスン】
瑕疵担保による損害賠償請求権については、買主が「瑕疵を知った時」から「1年」という除斥期間がある(570条・566条3項)。
本判決は、この期間のほかに、167条1項が定める10年の消滅時効の適用があると認め、その起算点を、買主が売買の「目的物の引渡しを受けた時」とした初の最高裁判例である。
本判決の立場だと、買主が引渡しより10年以上経過してから瑕疵に気付いても、損害賠償請求ができず、買主に酷であるようにも思える。
しかし、もう履行が終わったと安心している売主の保護も考えると、バランスの取れた結論といえる。
仮に、売主が保護に値しない場合には、売主の消滅時効援用を権利の濫用として処理する方法が考えられる(本判決の最後を参照)。
蛇足だが、重判・P83解説文の最後の5行目「買主が瑕疵の存在につき悪意であり・・・」は、「売主が瑕疵の存在につき悪意であり・・・」の誤植と思われる(買主→売主)。
[まとめ:瑕疵担保による損害賠償請求権]
買主が瑕疵の事実を知った→1年=除斥期間
買主が目的物の引渡しを受けた→10年=消滅時効
【試験対策上の注意点】
瑕疵担保責任、または消滅時効の問題で出題される可能性がある。時効の起算点にも注意。