【判旨】
「1 本件は、上告人が振り出した第1審判決別紙手形目録記載の約束手形(以下「本件手形」という。)を受取人が盗取され、被上告人においてこれを善意取得した後、受取人の申立てにより本件手形につき除権判決の言渡しがされたという事実関係の下において、被上告人が上告人に対して手形金請求をした事案である。
2 手形について除権判決の言渡しがあったとしても、これよりも前に当該手形を善意取得した者は、当該手形に表章された手形上の権利を失わないと解するのが相当である。
その理由は、次のとおりである。
手形に関する除権判決の効果は、当該手形を無効とし、除権判決申立人に当該手形を所持するのと同一の地位を回復させるにとどまるものであって、上記申立人が実質上手形権利者であることを確定するものではない…
手形が善意取得されたときは、当該手形の従前の所持人は、その時点で手形上の権利を喪失するから、その後に除権判決の言渡しを受けても、当該手形を所持するのと同一の地位を回復するにとどまり、手形上の権利までをも回復するものではなく、手形上の権利は善意取得者に帰属すると解するのが相当である。
加えて、手形に関する除権判決の前提となる公示催告手続における公告の現状からすれば、手形の公示催告手続において善意取得者が除権判決の言渡しまでに裁判所に対して権利の届出及び当該手形の提出をすることは実際上困難な場合が多く、除権判決の言渡しによって善意取得者が手形上の権利を失うとするのは手形の流通保護の要請を損なうおそれがあるというべきである。
3 そうすると、被上告人が本件手形について除権判決の言渡しがされる前にこれを善意取得したとの事実に基づき、被上告人の上告人に対する手形金請求を認容した原審の判断は正当として是認することができる。」
【判例のポイント】
手形について「除権判決」の言渡しがあったとしても、これよりも前に当該手形を「善意取得」した者は、当該手形に表章された手形上の権利を失わない。
【ワンポイントレッスン】
1.除権判決とは
手形など有価証券を紛失した場合において、公示催告により不特定の関係者に対して、失権の警告を付してその株券等についての請求又は権利の届出を一定の期間内に行うべきことを促し、その期間内に届出がなかったときに、当事者の申立てによりその株券等の無効を宣言する等その申立人の利益のために権利関係を変更する裁判のことをいう。
2.本事例
YがAに約束手形を振り出した
↓
受取人Aは何者かに手形を盗まれた
↓
Xが手形を善意取得した
↓
受取人Aの申し立てにより除権判決がなされた
↓
善意取得者Xが振出人Yに手形金請求した
……以上の事例において、本来の手形の持主であったAの利益と、手形を善意取得したXの利益が衝突したわけだが、最高裁は、「手形について除権判決の言渡しがあったとしても、これよりも前に当該手形を善意取得した者は、当該手形に表章された手形上の権利を失わない」として、Xの請求を認めた。
【試験対策上の注意点】
「善意取得」の問題で出題される可能性がある。重要論点であり注意。