M君の官庁訪問日記
8時15分。人事院に到着。といっても、人事院で予約が入っていたわけではない。9時半予約の会計検査院に行く前の時間潰しのために来たのだ。この「時間潰し」は、もちろん会計検査院対策の時間である。昨日と同様、パンフや官庁訪問ノートを見ながら想定問答をしながら一人で面接対策をする。
9時5分。人事院を出る。
9時20分。会計検査院に到着。待合室でしばらく待機。しばらくして自分の名前が呼ばれ別室へ案内される。一人でノートやパンフを見ながら待っているとノックの音。
10時10分頃。会計検査院3人目の面接。ここでは、自分の身の上話をいろいろ話さなければならないハメに。質問の内容がすごい。それを端的に表しているのが「きみは友達は多い方?」という質問。これにはぶったまげる。この質問に対して「いや、少ないです」なんて答える人はいないだろうし、「多いです」と言うのも根拠がなくなんだか変。どっちにしてもおかしな答えだと思い、やや戸惑う。そこで「多いというのは、何人だと多くて何人だと少ないか、わからないですよね」と言う。面接官も「そりゃあ、そうだな」と微笑む。そして僕はこのように答える。「多いかどうかはわかりませんが、高校・大学時代の部活やサークルの友人や、ゼミの友人、司法試験受験生や公務員試験受験生といったいろんな種類の友人がいます」と。この面接官の意図は明白だ。人付き合いについて聞いているのだ。組織の中で上手くやっていくための対人関係能力をみるために聞いているのだろう。その証拠と言ってはおかしいかもしれないが、「夏休みや冬休みはどんなふうにして過ごしてたの?」「サークルは?」という質問も出てくる。さて次にアルバイト経験について聞かれる。「数学の家庭教師をしていました」と答える。すると、面接官が「僕は家庭教師ってやったことないけど、大変なんでしょ?」と。この質問にピーンと来た。ここで、面接官に対して家庭教師という仕事を通じてそこから得たものや工夫したこととかを伝えられたら、この質問に対する答えとしては万全だ。別に「計算」して答えを考えようとしているわけではないが、やや面接慣れをしてきたせいもあり頭が自然と回転するようになってきている。官庁訪問前には「いったい自分の言いたいことの何割を伝えられるのだろう?」とドキドキしていていた自分が信じられない。ノートやパンフを見て頭を整理していたおかげもあり、一生を決める面接という緊張の中でもある程度精神的にゆとりがある。そして質問に答える。「宿題を出しても答えを丸写ししたとしか思えない感じだったにもかかわらず、本人は『やった』と言うんです。そこで、僕は『次回、この問題の中からどれかを僕の目の前で解いてもらう。宿題とは言わないからやってもやらなくてもいいけど、解けるようにしておいて』と言いました。僕が出した課題をやってなくても僕の目の前で実際に解ければそれでいいと思い、あえて宿題とはしなかったのです。次回行くと、本人は問題を一通り解いたと言います。そこで、実際にいくつか問題を目の前で解いてもらおうとしました。しかし解けません。そのとき、『宿題として出して終わりとするよりも、次回に課題として出した問題と同じものを解かせるというプレッシャーを与えていた方が効果的だ』ということを発見しました。家庭教師をしていたとき、こんな工夫をしました」と。しかし、アルバイト経験として面接官が期待しているものは、おそらく多くの人と接する仕事だろう。そういう意味で家庭教師という仕事は期待外れの答えである。毒にも薬にもならない。しかし、このように工夫したことを伝えることで少しでもプラスになれば・・・。僕のこの答えはどれだけ面接官の心に響いたのだろうか?これに加えて、お金をもらって仕事をしていたから責任感を強く感じたことも伝える。もっともこれだけでは抽象的なので「自分の子供が教わる立場のとき『こんな人に教えてもらいたくない』というような、そんな教え方はしないようにしました」と少しでも具体的に言おうと心がける。さらに具体的に言うべく、自分は実際に生徒と一緒にヨーイドンで問題を解き始め、実際に自分が解くまでは解説を見ず、解き終えた後で解説も対照して生徒に教えるという形式をとったことまで伝える。面接ではとかく答えが抽象的になることが多い。エピソードや具体例がないと説得力がない。そこで、少々答えが長めになってしまうことを覚悟の上でエピソードや具体例を話すのだ。もっとも、質問に端的に答えることも重要なので、その辺は面接官の表情を見ながら引き際を決める。「具体的に詳しく話すということ」と「質問に端的に答えるということ」とのバランスは非常に難しい。
さて、面接官からの質問はまだまだ続く。「試験のできは?」と。そして他省庁との関係についても。これらについてはいつもの調子で答える。予想外だったのが「他省庁ではどのくらい進んでいるの?」というもの。一瞬戸惑う。人事院ではすでに7人との面接を終えている。これを正直に伝えると、会計検査院の志望順位を疑われてしまうのでは?しかし、ここで嘘をついて「大して進んではいません」と言ったとして、後で自分で混乱しないだろうか? 後々矛盾したりしないだろうか?バレるような嘘なら最初からつかない方がいい。嘘をついたという引け目を感じて萎縮しながら面接を続けるよりは、正直にフェアでいて正々堂々としていた方がいいだろう。そう思い、正直に人事院では7人と面接したことを伝える。すると、案の定「もう志望は固まったのか?」と聞かれる。確かに、官庁訪問前は、人事院の方が会計検査院よりも志望順位が若干高かったが、その差は大したものではなかったのは事実。そこで、「実際に会って話を伺っているうちに関心は深まっていくものだと思います。人事院では7人もの人とお会いし話を伺うことができたので関心が深まったという面があります。会計検査院ではまだ2人の方からしかお話を伺っておりません。こちらでもできるだけ多くの方にお会いしていろいろなお話を伺いたいと思っているのですが」と答える。
10時50分、過酷な身の上話の面接は終了。
ノートに面接でのやりとりをメモしていると、ノックの音。人事課の方に「午前中はこれで終わりです。午後にまたいらしていただけますか?」と聞かれる。今日は会計検査院の他に農林水産省か文部省にでも回れたら回ろうかどうしようか考えていたが、他ならぬ会計検査院からのお呼ばれなので「はい」と答える。13時半に再び伺うことを約束して、ひとまず会計検査院を後にする。
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