M君の官庁訪問日記
14時50分頃。人事院で15時に予約があることを告げて、運輸省を出る。
14時55分。人事院に電話を入れ、到着が少し遅れることを伝える。
15時05分。人事院に到着。面接官の手が空かないので、ちょっと待つように言われる。
15時30分。もう少し待つように言われる。その中で、「きみと同じ立場の人が今日は3人いるんだよ」と言われる。運輸省を抜け出してきたことを知っているので、最初に面接をさせてくれるという。「最初って評価基準がないから損なんだよなあ……」と一人ボヤく。
16時10分。いよいよ人事院8人目の面接。ゼミの専攻を聞かれ刑事訴訟法と答えると、まず、国家公務員法と刑事訴訟法との関係についての話題となる。刑事訴訟法の立場としては国家公務員の内部告発は歓迎するが、国家公務員法の立場からは守秘義務との抵触を免れない。そういう議論があるという話だ。これについては内容も理解でき、それなりに会話もつながる。しかし、次の質問。「人事院って憲法違反の機関じゃないの?」と。これにはさすがに参る。だって、僕はその人事院を希望して官庁訪問しているのだから。この面接官は、いったい何が聞きたいのだろうか? 学問的な知識があるかどうかを確かめたくて、あえてこんな質問をしてきたのだろうか? 「司法試験の勉強をしていたくせに、なんにもわかっていないのか!?」と思われるのも心外なので、独立行政委員会の合憲性の話を思い出しながら学問的な話をする。この話題がちょっと長くなり、「あまり学問的な話題をしすぎてコチコチな印象を面接官に抱いてしまったら、なんだか嫌だなあ」と不安になる。次は、「人事院という機関があるからこそ、公務員が生き生きと働けると思うのですが」「え?どういうこと?」「ある省で給料が低く査定されたときに省内での審査で『これが妥当』と判断されたとしても内部審査なので当人は納得できません。しかし、公平中立な人事院が審査をする機会が与えられていることで当人も納得できます。そういう意味で言ったのですが」「それは違うんじゃないの?」という会話に。以降、面接官の言いたいことがよくわからずチグハグに。官庁訪問始まって以来の最悪の面接に終わる。このときの落胆ぶりは何とも言いようがない。こんなチグハグな面接じゃあ、もうダメだ……。涙さえ出そうな勢い。
面接終了後、「今週末に結果を電話で連絡します」との言葉を受ける。不安になる。というのは、よく官庁側から予約の日時が指定されず「何かあったらまた連絡します」みたいに言われるのは、脈のない証拠だと前々から聞いていたからだ。あまりに不安だったので思わず「これって、連絡がないこともあるんでしょうか?」と聞いてしまう。すると、「連絡はいい結果でも悪い結果でも、いずれにしても致します」とのこと。それを聞いて少し安心する。しかし、まだ不安材料はある。というのは、先週の金曜日に「月曜に決まるんじゃない? うまく行けばだけどね」みたいに言われていたからだ。なぜ今日決まらなかったのだろうという不安が少し残っている。「まあ、他にも受験生はいるのだから、今決めるわけにもいかないのだろうな」と自分を納得させようとする。とはいえ、さっきの面接でのチグハグなシーンを思い出すと、週末にいい結果の電話連絡が来るとはとても思えない。第一志望の人事院での大勝負の面接でこんな目に遭うとは…。今までは自分なりにそれなりに順調に来ていたと思っていた。それだけに他の省庁で大失敗するならともかく、何もここ人事院での大勝負で大失敗をしなくても…と思うと、運の悪さを嘆かずにはいられない。
17時40分。がっかりしつつ人事院を後にする。そして、約束通り会計検査院に電話をする。すると、要領を得ない応対。「面接官は、あなたにどういうふうに言ってたのですか?」「人事院が終わり次第、連絡を下さいと……だから、こうしてお電話を差し上げたのですが」「・・・。明日、いらして下さい」と。僕もよくわからないまま、電話を切る。
17時55分。運輸省に到着。先程、「まず最初にいた待合室に行って下さい」とのことだったので、2軍部屋ではなく待合室に行く。待合室にはパラパラと人がいる。何人かと話すと、中には昼頃からいる人も。彼は拘束されることなくこの待合室でただボーっと過ごしているとのこと。1軍、2軍、拘束さえされない組と、序列ができていることを知り、何とも複雑な気持ちに。
20時半頃。待っても待っても2軍部屋へ行かせてくれる気配がないので、待合室の受付の人に15時前に2軍部屋を出て人事院に行って戻って来たことを話す。すると廊下に呼び出され、「じゃあ、その部屋に行って下さい」とようやく言われる。
2軍部屋に戻ると、友達から「おー、戻って来たかー」と歓迎される。受験生は3グループくらいに分かれて、あれこれ話している。そのうちの一つ(6、7人のグループ)に混ざり、人事院に出かけていた間にあったことを聞く。すると、集団面接(受験生3人)があったという! 「なんてタイミングの悪い……」と今になって嘆いてみても始まらない。「運輸省はさすがにもうダメかもしれないな」という
思いがよぎる。
官庁訪問の緊張と疲労という極限の精神状態の中、この2軍部屋でいろいろ話しているとお互いに意気投合する。2軍部屋ではみんなハングリー精神のため、一種の「連帯感」みたいなのものがあるのだろうか。そこで、僕のノートにみんなの連絡先を書いてもらい、後日飲み会をやろうという話題にまで盛り上がる。
22時半過ぎ。1軍部屋と携帯電話で連絡を取り合っていた友達が、1軍部屋の人は解放され始めたという情報を入手する。「うちらはどうせ2軍だしな」「解放されるのも1軍の次だよな」という雰囲気が辺りを包む。
23時頃。ようやく2軍部屋も解放されるべく、一人ずつ呼ばれる。
23時20分。自分の名前が呼ばれる。「今日はどうしてたの?」「15時に人事院の予約があったので、途中で抜けさせてもらって人事院に行って来ました」「もし、うちに来る気があるなら、明日11時に来て下さい」と厳しい言葉を受ける。僕は結局、今日は運輸省では何もしていないに等しいのだから返す言葉もない。
その後帰宅。
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