官庁訪問日記

M君の官庁訪問日記

6月22日(火) 官庁訪問9日目午前
 8時05分。人事院に到着。もはや人事院ではすることはない。今週末にかかってくる電話連絡を待つのみ。吉報であることを願って。今日は、運輸省で11時に予約をしているだけだ。もっとも、昨日、会計検査院で時間指定をされることなく「明日来て下さい」と言われたから、とりあえず何時でもいいから行くだけ行かなければ。官庁訪問をする人にとって時間指定をされず「何時でもいい」という形で呼ばれるのは、ちょっと悲しいものだ。なぜなら、官庁側が目星をつけた受験生であれば「○時に」と時間指定してくるのが通常だからだ。確かに、「何時でもいい」のなら、約束の時間がないから「遅刻」という観念もないから気が楽だ。しかし、この気楽さの裏返しには、「自分は囲われてない」「泳がされている身なのだ」という悲しさがあるのだ。会計検査院での自分の今の立場はまさにこれである。ちょっと不安だ。何時でもいいのだから、運輸省に行く前にとりあえずちょっと会計検査院に行ってこよう。しかし、もし、会計検査院で「これから面接をしますが、今日の予定は大丈夫でしょうか?」なんて聞かれたらどうしよう? 運輸省の予約が11時にあるんだけど……。でも、運輸省と会計検査院だったら、会計検査院に行きたいしなあ。もしかして、「決断」を迫られるのだろうか? 「決断のとき」がとうとう来てしまったのだろうか? 二つの持ち駒のうち、どちらを取るのか決断しなければならなくなるのだろうか? できることなら「決断」は先延ばししたいのが本心だ。なぜなら、自分の選んだ持ち駒が自分を捨てて逃げていくかもしれないからだ。二つを手元に残しておくことができるのならば、この先仮に一つが逃げてしまっても、まだもう一つが残っているからだ。まずは、会計検査院に行ったら、今が「決断のとき」なのか、それを聞かないと。もし、「決断のとき」でないのなら、今日は運輸省に行くが、明日は必ず会計検査院に行くことを伝えればいいし。もっとも、運輸省で明日も呼ばれてしまった場合にはそれこそピンチになるが。そして、もし、今が「決断のとき」で、「運輸省に行くのか会計検査院に行くのか決めてください」と言われたら、もうしょうがない。運輸省とはお別れするしかない。確かに、採用予定人数を比べると、運輸省が10数人なのに対し、会計検査院は3人。この点では会計検査院で生き残るのは困難かもしれない。それに、会計検査院には先週は火・木の2日間しか行ってないこともマイナス要因だ。もっと「誠意」を見せている受験生はいっぱいいるだろうし。しかし、このようにマイナス要因はあるけれど、自分の気持ちの中では運輸省よりは会計検査院の方がずっと行きたいところなのである。入省してから「あぁ、あのとき会計検査院に行ってれば……」と後悔もしたくない。「決断」を迫られたときは勇気を出して会計検査院に決めよう! あれこれ悩んで、とりあえず、「決断」を迫られたバージョンと、迫られなかったバージョンの2通りの事態を想定して、会計検査院に行こうと決める。
 10時前。会計検査院に到着。「昨日お電話を差し上げたところ、今日来るように言われたんですが……今日、11時から運輸省の予約が入っているのです。『決断』しなければならないのでしょうか?」と恐る恐る聞く。すると、「でしたら、明日14時にいらして下さい」と。これってどういうこと? てっきり「決断」が迫られるものだとほとんど確信し、それなりに覚悟を決めていただけになんだか拍子抜けする。「えっ……今って『決断のとき』ではないのですか?」「大丈夫です。明日いらしてください」「もし、今が運輸省か会計検査院かを選ぶ『決断のとき』なのであれば、今日こちらでも……」「だから、大丈夫だって言ってんだろ! 明日でいいと言ってるんだからそれでいいんだよ!!!」と……。しつこく何度も聞き返したら、相手を怒らせてしまった。最悪の事態。「すみませんでした。明日伺います」と深々と頭を下げて会計検査院を後にする。余計なことを何度も聞いたことを後悔する。
 10時過ぎ。運輸省に到着。すると、続々と2軍部屋の有志が待合室にやってくる。すぐに、昨日と同じく2軍部屋に行くように言われるのかと思っていたらいつまで経っても待合室で待機させられたままだ。「なんで、今日は2軍部屋に行かないんだろうねえ」という会話もする。10人強のグループになり輪になってあれこれ話す。そうこうするうち、忘れたころに一人……また一人……と、名前が呼ばれる。呼ばれて 待合室を出ていった友達のほとんどが戻って来ない。数少ない戻って来た友達にはみんなで「どうだった?」「何を聞かれた?」という質問を浴びせる。そして、戻ってこない友達に対しては「きっと、2軍部屋に行ったんだろうな」とみんなで推測する。そのうち、グループは4、5人程度にまで小さくなる。数時間が経過したが、僕だけがなぜかなかなか呼ばれない。そこで、受付に行き、自分だけがなかなか呼ばれないことを伝える。
 15時過ぎ。ようやく自分の名前が呼ばれる。
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