M君の官庁訪問日記
16時20分。ノックの音。な、なんと、例の職員の方が……。もう一度、昨日のことを謝罪する。しかし、何も気にかけていない様子。「いやぁ、突然若手の僕が来たからと言って、ダメになったわけじゃないからね。不安にならなくてもいいんだよ」と。面接を経るにつれ、若手の面接官から年齢が徐々に上がっていくのが通常だからである。突然若手の面接官になるというのは、悪く考えると評価が下がったからであると考えられなくもないのだ。しかし、その心配はないとのこと。「次に会わせようとする人が忙しくって、そのつなぎで僕が来ただけだから」と。続いて「僕が聞くことなんて大してないんだけどね。ただ一つだけ聞かなきゃいけないことがあるんだけど、他省庁はどうなってるの?」と。運輸省は昨日で終わってしまったこと、そして人事院では8人に会ったことを伝える。そして、後は雑談風。月曜日は人事院での面接終了後に会計検査院に電話する約束になっていて、その約束に従って電話したにもかかわらず、電話で対応した職員の方が事態を把握していないようでちぐはぐな感じに終わってしまったことに話が及ぶと、「あれは、連絡の行き違いだったんだよね。すまないことをしたねえ」とのこと。そして、友人から月曜日の朝一番に予約を入れてたのに日曜日に人事課から電話がかかってきて「来なくていいです」と言われた、という話をたくさん聞いていたので、そのことについて話してみると、「人事課の立場から言うと恐らく受験生間で情報交換をさせたくなかったんじゃないかな」と返事が返ってくる。全員を同じ時間に予約を入れさせておけば、受験生としてはみんなが同一ラインに立っていると錯覚するから、自分がどのくらいの評価を受けているのかがわからない。それが採用側からすると都合がいいということだろう。まあ、確かにそうなんだろうけど、なんだかなぁ……。ここらへんも駆け引きの範囲なのだろうか。それと、自分が人事院を志望していることもあり人事課の仕事には興味があったので、「人事という仕事をすると、人間関係が難しくなったりしないんですか?」と興味半分に聞いてみたりする。終始雑談風に終わる。一応、これも面接とすれば6人目ということになる。17時05分終了。
17時30分。会計検査院7人目の面接。ここでは身の上話がほどんどとなる。「サークル活動は?」「なぜ大学ではホルンをやめてチェロにしたのか?」「スポーツはやらなかったの?」というありきたりの話に始まり、「なぜ弁護士を目指そうと思ったの?」という話に及ぶ。「弁護士をしている親戚がいてその影響を受けて……」「そうじゃなくって、さっき『社会的・経済的に弱い人のために働きたいと思って司法試験を目指した』みたいに言ってたけど、その弱者のために働きたいと思ったのは、何か具体的にあったからなの?」と聞かれる。この面接官は、身近に例えば何らかの犯罪の被害に遭ったとかいう具体的な出来事が原因で弁護士を志望するようになったのかどうなのかを聞いているのだ。しかし、そういう具体的な出来事があったわけでもないので、「いえ、そういうことがあったわけではないのですが……」と歯切れの悪い答えになる。気を利かせて何か事件をでっち上げられれば、受け答えに張りが出るのかもしれないが、そんな気の利いたことはできない。僕からは「学生と話していてどうですか?」と果敢に質問してみる。こんな質問、普通はしないだろう。面接を受けている立場の者がする質問ではない。しかし、面接というのは「受ける」のは苦痛だが、「する」のは面白そうなので思わず聞いてみる。人事院に入れば、人事院面接をする機会もあるのだ。この質問に対しては「学生と話していて楽しいときもあるけど、楽しくないときもある。自分の言葉で話さないから、中身が伝わってこない受験生っているんだよね。そういうのは面接していてつまらないね」という答えが返ってくる。これを聞き自戒する。そして、できるだけ具体的に具体的に話そうとしてきた自分の方針は間違っていなかったなと確信する。例えば、志望動機でも「国民のため」「みんなのため」といった漠然とした言葉ではなく、「自分の言葉で面接官に伝えなければ!」と思い、試験前から普段からいろいろ考えていた。抽象的になりがちな話を自分の言葉で具体的に話すことによって、言葉に命が吹き込まれ面接官に伝わるのだろう。最後に「病気とかは大丈夫?」と聞かれる。健康には自信があるので大丈夫と答える。健康面の話は初めて。健康面の話と志望動機などの身の上話とを比べると、健康面の話の方が入省後に関わることである。入省に近い質問だと勝手に思い、「少しはゴール(内々定)に近づいているのかなあ……」と感じる。18時15分終了。
しばらくすると、ノックの音。「明日9時半に来て下さい」と言われる。昨日職員の方を怒らせて、不安なまま今日ここへ来たことが嘘のようだ。
その後帰宅。
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