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国際法インサイト
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第1回 オーストリア、EUと国連憲章2条7項(February 2000)
翻訳・要約 杉原龍太  
 2月、オーストリア国民党とハイダー元党首率いる自由党の連立政権が、EU内外で広汎な抗議を招いた。非難の理由は、外国人排斥を促進し、とりわけ人種差別的な移民政策と、戦前・戦中のナチスの行為を賞賛する政策声明及び過去の言動である。ハイダー元党首は、公然と、ナチ突撃隊の退役軍人を賞賛した。2000年2月1日、両党は、30年に及ぶ合意型政治を終わらせ、外患に取り組む旨の詳細な改革案をとりまとめた。

 EUの反応は、速攻であった。1月31日、EU議長であったポルトガル首相は、他の13ヶ国の欧州首脳と共同で声明を発表した。

―14の加盟国政府は、自由党と連立するオーストリア政府と、政治的レベルでのいかなる2国間の公式関係を、促進も受け入れもしない。
―国際組織におけるオーストリアの候補者を支持しない。
―EUにおけるオーストリア大使の資産は、技術的レベルで受け入れるのみとする。

 翌日、EUの外相らは、人権と民主主義の諸原則という欧州共通の核心とみなされているものに基づいて攻撃を続けた。フランスのジョスパンは、自由党を「排外主義的、極右集団」と述べ、イタリアのダレーマは、「ヨーロッパは、我々を統合する確かな基準と価値をもっている」と述べた。ドイツのシュレーダー首相は、自由党を公然と非難したうえで、「このような非難は、他国の問題に対する干渉にはあたらない」とも言及した。

 同様に、EC議会は、緊急動議をもち、そこで、加盟国は、自由党を構成要素とする政府の将来について激しい不快感を表明した。一方、EC委員会は、2月2日の声明で、現段階では、オーストリアのEUとの関係には何ら影響はないと、注意を喚起した。
 おそらく、それじたい事前に委員会に意見を求められることなく、問題が発展してしまったことについての驚きのためであり、もっと実際的には、委員会は、個人やマイノリティのいかなる権利侵害も、侵害されて初めて処罰すると誓約している。

 こうした集中的な外圧の下で、2月3日、オーストリア連立政権は結成され、10閣僚のうち6人のポストが自由党に配分。共同宣言において両党首脳は、第二次大戦の惨事から生じるオーストリアの責任を認め、民主主義の原則を支持し、人権を尊重することを誓約した。
 にもかからわず、2月3日夜、ポルトガル首相は、彼の先の立場をくりかえし述べて、上述の措置がその日から効力を生じることに注意を促した。ただし、EUにおける加盟国としての地位を一時停止する旨のオーストリアに対するEU議会の警告は支持しなかった。

 ここ10年間の急激なEC再編は、農業、防衛、対外関係、通貨統合のような様々な分野の政策形成の有効性について関心を呼んでいる。このシステムではいかなる不和も、将来の連合拡大を危険にさらすものである。

 EUIは、それじたいの領域のみならず、共通外交安全保障政策の問題としても、人権と民主主義の尊重・促進に堅くコミットしている。これは、1992年EU条約F条及びJ条1項を根拠にし、1998年アムステルダム条約のJ条1項、及びK条1項にも再び明言されている。同条約のK条1項は、とりわけ、人種差別と外国人排斥主義に対して立ち向かうことについて触れている。

 欧州諸国は、近年、欧州安全保障協力機構(OSCE)の枠組みのなかで、人権と民主主義に関する前述の誓約の上に成り立っており、それは、特に、「攻撃的ナショナリズム、人種差別、狂信的愛国主義、外国人排斥主義、反ユダヤ主義」の撲滅について言及する。これは、1999年11月に合意されたOSCEイスタンブール憲章19条という形で、全会一致で宣言された。

 これらの民主主義と人権に対する誓約にもかかわらず、オーストリア政府の形態に対する国際的反応が、この国の国内問題に対する干渉となるか否かという問題は依然として残る。

 国連憲章2条7項は、国連機構による他国の国内問題に対する干渉を禁止しているが、重大な人権侵害の場合は、2条7項の範囲を超えるものと強く主張されている。
 このことは、湾岸危機終息後のイラクのクルド人問題に関する1991年の安保理決議688の起草過程の例でも確認されている。オーストリアについては、それが国連によってとられた措置ではなく、地域的機関によってその加盟国に対してとられた措置である。
 民主主義の諸原則に反する政府の形態を防止する措置として、干渉の権利を直接示唆するような関連する欧州条約はない。

 EC委員会あるいは、EC条約226条及び227条の下の個別の加盟国が唯一行うことのできるのは、オーストリアが特定の条約上の義務を侵害したと判断されるときだけである。
 こうした事態は、オーストリア政府が今後、外国人排斥主義、人種差別的、反民主主義的特徴のある立法を採用したり、措置を課した場合に具体化される。

 国連憲章2条7項の規定のほかに、それに相当するEU法の規定はなく、EUが、その内部に人種差別と外国人排斥の勢力をもったときに、世界的レベルで民主主義と人権を前進させ、促進していくとしたら、これは異例なことに思われるだろう。おそらく、EUレベルで、我々は、民主的政府の慣習的義務の出現を目撃しているのかもしれない。こうした義務は、EUの加盟国資格の前提にされている。
 実際、これまでのオーストリアの反応は、欧州のパートナーである「干渉主義者」の態度を斥けることに集中されていない。そのかわりに、彼らにオーストリアの民主的渇望を納得させようとしている。
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