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このコーナーは、ASIL Insight ( http://www.asil.org/insights.htm )の記事をピックアップ、抄訳したものです。国際法の学習は、国際社会のトピックスにあわせて行っていく必要があります。このサイトを、基本書や判例集がフォローしていない最新の重要判例・事例を補っていくのに活用してください。 |
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Pieter H.F. Bekker 翻訳・要約 杉原龍太 |
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http://www.asil.org/insights/insigh141.htm | ||
2004年7月9日、国際司法裁判所(ICJ)は、イスラエルの分離壁建設から生じる法的結果に関する勧告的意見を示した。この「壁」1 は、イスラエルから西岸地区の一部を隔離するものである。ICJは、全会一致で管轄権を認めた後、14対1(トマス・バーゲンソル判事(米)反対意見)で、イスラエルによる(東エルサレムを含む)「パレスチナ占領地域」における壁建設が、イスラエルに課された現行の諸々の国際義務に違反し、また、壁が即時撤去されねばならず、既に生じているあらゆる損害についても賠償しなければならないと認定した。 ICJは、「湾曲した壁の経路が、(東エルサレムを含む)パレスチナ占領地域のイスラエル人入植地の大部分が当該地域のなかに含まれるようにたどられている」ことに注目し、「(東エルサレムを含む)パレスチナ占領地域のイスラエル人入植地が国際法に違反して設定されたことも認定した」2 (パラグラフ119-120)。 2004年7月20日、国連総会は150対6でICJの勧告的意見を支持した。 T.背景 ICJは、2003年12月8日の国連総会の要請(総会決議ES-10/14)に応じることを決定した。要請の本文は以下のようである。 「事務総長報告のなかで既に述べられているように、1949年ジュネーブ第4条約(以下、文民条約)及び関連する安保理及び総会決議を含む国際法の原則及び規則に照らして(considering)、東エルサレムの周辺と内部を含むパレスチナ占領地域において、占領国すなわちイスラエルによる壁の建設から生じる法的結果はいかなるものか3 。」 イスラエルを含む44加盟国及び国連、アラブ連盟、イスラム諸国会議機構(OIC)、及びパレスチナが、2004年1月30日の締切りまでにICJに答弁書を提出した4。参加国のなかには同問題に関するICJの裁定の妥当性を問題にするものもあったが、壁の合法性を支持する声は無かった。イスラエルの書面陳述は、ICJに提起された問題の実体面を扱うことなく、管轄権及び司法的妥当性(judicial propriety)の問題に限定されていた。2004年2月23日〜25日、裁判所は、アラブ連盟、イスラム諸国会議機構及びパレスチナのほか、4つの異なった地域を代表する12の国連加盟国(南ア、アルジェリア、サウジアラビア、バングラデシュ、ベリーズ、キューバ、インドネシア、ヨルダン、マダガスカル、マレーシア、セネガル及びスーダン)の口頭陳述を聴取した。イスラエルは、口頭審問段階には参加しない選択肢をとった。 勧告的意見64ページ目で、ICJは、国連総会からの要請に意見を与える管轄権を有すると認定した。意見を与えない裁量権を行使するような決定的理由はないと結論し、国際人道法及び人権法を含む適用可能な国際法を指示し、壁及びその関連する措置の設定が適用可能な法に違反すると認定し、イスラエルに対して、その他の諸国に対して、また国連に対して、こうした違法性から生じる法的結果を指摘した。 U.管轄権(Jurisdiction)(パラグラフ14-42) ICJは、最初に、総会からの要請に応えて、国連憲章及びICJ規程により、ICJが管轄権をもつことを認定した。主に安保理がパレスチナ問題に関わっている憲章上与えられた権限を、総会が凌駕しているというイスラエルの主張を裁判所は、否認した。2003年11月19日の決議1515により、安保理が「イスラエル・パレスチナ紛争に対する恒久2国家解決へのロードマップ」を支持したことを認め、裁判所は、ロードマップも決議1515も、壁の建設に関するいかなる特定の条項も含んでいないことを指摘した。裁判所は、勧告的意見の要請が、それじたい、国連憲章12条1項に規定される紛争又は事態に関する総会による勧告5ではない点、及び、憲章24条の下の国際の平和・安全の維持のための安保理の「主要な責任」が必ずしも排他的なものでもない点にも注意を喚起した。 さらに、ICJは、総会の要請が、国連憲章及びICJ規程の意味の範囲内の「法律問題」に関するものであることを認めた。裁判所は、裁判所に提起された問題が、国際法の原則及び規則に照らして、所与の事実状態から生じている法的結果に向けられている点に注目した。法の言葉で構成され、国際法の問題を提起している点で、総会の諮問は、まさに本質上法に基づく回答が可能なものである。裁判所の見解では、諮問は、壁の建設の法的結果に関するものであって、抽象的なものではない。ICJは、諮問から想起される動機の政治的性格、勧告的意見の政治的含意、及び法律問題の政治的側面は、裁判所の管轄権の設定には全く無関係であることを確認した。 U.司法的妥当性(Judicial propriety)(パラグラフ43-65) 次に、ICJは、意見を与える管轄権を有するにも関わらず、裁判所が、ICJ規程上、意見付与を控える裁量権 を行使するような「決定的理由」があるか否かを検討した。この問題は、裁判所の司法機能の行使の妥当性にかかわるものである。ICJは、国連の主要な司法機関としての責任を与えられている点に鑑み、原則として、勧告的意見を与えることを拒絶すべきではないことを確認した。裁判所は、これまで適格性のある国連機関からの勧告的意見の要請が拒否されたことの無い点にも注意を喚起した。 イスラエルが裁判所の管轄権行使に同意しておらず、イスラエルとパレスチナ間の係争問題に、要請が関わっているという主張がある。この点について、勧告的意見は、国家に与えられるものではなく、それを要請する権限ある機関に与えられるのであり、そのような(イスラエルの)同意の欠如は、勧告的意見を与える裁判所の管轄権に影響しないと、ICJは指摘した。しかしながら、裁判所は、利害関係国の同意の欠如が、意見付与を控える裁量的根拠にもなりうることを認めた。裁判所の見解では、総会の要請の主題は、イスラエル・パレスチナ間の二国間問題だけにあるとはみなしえない。ICJは、当該意見が、とくに国連にとって重大な関心となる問題、つまり、単なる二国間紛争である以上に、もっと広汎な議論の枠組みのなかに位置づけられる問題について要請されている点を認めた。さらに裁判所は、当該意見が、総会に与えられるべきものであって、特定の国家や主体に与えられるものではないことを強調した。 米国と他の特定諸国は、勧告的意見がイスラエル・パレスチナ紛争に対する政治的な交渉による解決を妨げ、ロードマップの行程を掘り崩す可能性があるという主張を提起している。この点について裁判所は、勧告的意見が、ロードマップで想定されている交渉に対して、いかなる影響を与えるか明らかではないと指摘して、却下した。裁判所は、その役割を、壁の建設の法的結果の認定に限定されているものとみなした。 裁判所が、その結論を出すことを可能とするのに必要な事実及び証拠を、裁判所が自由に処理できる形では保持していないという主張に関して、ICJは、裁判所の下にある(国連の報告、様々な諸国及び国際組織の書面陳述、及び公的なイスラエルの資料を含む)資料から、その司法的性格と両立しうる条件で、要請された勧告的意見の付与を可能とするだけの十分な情報と証拠を保持していると結論した。 W.領域の地位と適用法規(パラグラフ70-106) 次に、ICJは、パレスチナ占領地域におけるイスラエルによる壁の建設が国際法に違反するか否かを決定する適用可能な法の指摘に移った。問題の地域の地位に関して、裁判所は、1949年イスラエル・ヨルダン休戦協定で指示された線(いわゆる「グリーンライン」)と、(東エルサレムを含む)パレスチナの東側の旧境界線との間に位置している領域が、パレスチナに対する国際連盟の委任統治の下、1967年以来、イスラエルが占領国の地位を保持してきた占領地域であったことに注意を喚起した。 イスラエルがとった措置の合法性を評価する上で、関連する国際法の原則及び規則について、裁判所は、それらが国連憲章とある種の他の諸条約、慣習国際法、総会及び安保理が憲章に従って採択した関連する諸決議のなかに見出されることに注意を喚起した。裁判所は、慣習国際法の二つの関連する原則の宣言として、1970年の総会決議2625(]]X)を援用した。当該決議において、総会は、特に、武力の行使又は威嚇から生じる領域取得の違法性を確認し、非自治地域の人民の自決権を確認した。ICJは、後者を対世的権利(right erga omnes)、すなわち全ての国家がその保護について法的利益を有する奪うことのできない権利として承認した8。 国際人道法について、ICJは、戦時の文民保護に関する1949年ジュネーブ第4条約(イスラエルも当事国である(以下、文民条約))9と、1907年ヘーグ規則10(慣習国際法としてイスラエルを拘束する法源である)の双方とも、パレスチナ地域のイスラエルによる占領に適用可能であると認定した。イスラエルは、次のような立場をとっている。すなわち文民条約第2条は、同条約が「一締約国の領域の占領」にのみ適用されると述べているから、また、西岸地区と東エルサレムは、いかなる締約国の承認された領域の範囲内にあるものでもないから、イスラエルは、同条約を当該地域(those places)に適用するよう法的に(de jure)拘束されるものではない(イスラエルは当該地域を「紛争」領域(“disputed”territoty)とみなさない)。裁判所は、条約解釈を規律する規則を援用して、文民条約は、1967年戦争(第3次中東戦争)の当初から締約国であった二つの国イスラエル・ヨルダン間の武力紛争が存在するパレスチナ占領地域に、法的に適用可能であると結論した。ICJは、総会及び安保理の多数の決議が、文民条約の法的な(de jure)適用可能性を確認してきた点、及びイスラエル最高裁が、2004年5月30日、パレスチナ占領地域に位置するラファ(Rafah)に同条約が適用される旨の判決を下している点に注意を喚起した。裁判所は、文民条約の権威ある解釈者としての赤十字国際委員会(ICRC)の意義も認め、東エルサレムを含むパレスチナ占領地域に同条約が適用される旨、同委員会がこれまで何度も宣言してきたことにも注意を喚起した。 イスラエルは、市民的及び政治的権利に関する国際規約(B規約)、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(A規約)、及び児童の権利に関する国連条約のすべてを批准しているが、パレスチナ占領地域への適用可能性を否定している。この点について、ICJは、複数の人権条約が提起する保護は、当該文書に含まれている離脱(derogation)条項の効果を通じる場合を除いては、武力紛争の場合にも停止しないと指摘した。結論として、提起された諮問に対する回答として、裁判所は、人権法及び国際人道法の双方とも(特別法としてas lex specialis)検討しなければならない。 X.適用可能な条約の範囲(パラグラフ107-113) 適用可能な条約の範囲について、ICJは、B規約と児童の権利条約の双方とも、国家が主権を有する領域に対して、及び主権を有する領域の外でも当該国家が管轄権を行使する領域に対して適用可能であると結論した11。 A規約は、その適用範囲を特定する条項を欠くが、ICJは、A規約が、ある国の領域外で、その管轄権行使として実施された行為に対しても適用されることを排除するべきではないと認定した12。ICJは、「イスラエルに占領された地域が37年以上にわたり、占領国としての属地的管轄権の下にある」ことに注目し、イスラエルが、これらの諸条約の条文に拘束され、「権限がパレスチナ当局に移行したような地域において同条約上の権利の行使を妨げてはならない義務の下にある」と結論した(パラグラフ112)。 Y.違反の問題(パラグラフ114-134) 次にICJは、壁の建設が、ICJの確認した原則及び規則に違反しているかどうかの問題について、イスラエルが、壁の唯一の目的が、西岸地区からのテロリストの攻撃を効果的に排除(combat)できるようにすることにあり、また壁が暫定的な措置であると主張してきた点に注意を喚起した。裁判所は、総会と安保理が、その決議において、パレスチナに関して、戦争による領域取得の否認(inadmissibility)の慣習規則を参照したことを想起した。裁判所の見解によれば、グリーンラインと壁との間の「閉鎖区域(Closed Area)」のなかに、(東エルサレムを含む)パレスチナ占領地域のイスラエル人入植地(及びイスラエル人居住者の約8割)が含まれるように壁の湾曲した経路が設けられていることは明らかである。ICJによれば、東エルサレムを含むパレスチナ占領地域のイスラエル人入植地は、国際法、とくに文民条約第49条6項13及び複数の安保理決議に違反して設定されている。裁判所は、壁の建設及び関連する諸措置のレジームが、恒久化しうる根拠となるような、その場合には事実上の併合に匹敵するような、「既成事実(fait accompli)」を創設することについて検討した。裁判所の見解によれば、以前にとられた諸措置に沿った壁の建設は、「パレスチナ人民の自決権の行使を深刻に妨げており、それゆえに当該権利を尊重すべきイスラエルの義務の違反となる」(パラグラフ122)。 ICJは、壁の建設が、1907年ヘーグ規則第46条と52条及び文民条約第53条14の要件に違反する状態で、パレスチナの財産の破壊あるいは接収となると認定した。裁判所の見解によれば、壁の建設、閉鎖区域の設定、及び飛び地(enclaves)の創設は、パレスチナ占領地域の住民(イスラエル市民を除く)の移動の自由に実質的な制限を課しており、パレスチナの農業生産、医療、教育施設、主要な水資源へのアクセスに深刻な影響を与えており、国際人道法15、人権諸条約16、及び安保理決議17の適用可能な条文に違反して、問題の領域の人口構成を変化させた。 Z.例外の適用可能性(パラグラフ135-142) 適用可能な国際人道法に、「軍事上の緊急性」を考慮に入れることができる条文があるかという問題について、ICJは、住民の強制移送と追放を禁止する文民条約第49条第1項の例外規定(住民の安全又は軍事上の理由のため必要とされるときを例外とする)が、49条第6項(占領国は、その占領している地域へ自国の文民の一部を追放し、又は移送してはならない)には適用されない点を指摘した。個人財産の破壊に関する文民条約第53条は、「その破壊が軍事行動によって絶対的に必要とされる場合を除く」という例外を含むけれども、ICJは、53条の禁止に反して行われたイスラエルによる破壊が、軍事行動によって絶対的に必要とされるものであると認めなかった。 適用可能な人権条約について、ICJは、イスラエルが、身体の自由と安全についての権利に関するB規約第9条18のみを除いて、B規約のすべての条文を尊重しなければならない点に注意を喚起した。12条が移動の自由の制限を許容しているけれども、その制限は、正当に認められた目的(国の安全、公の秩序、公衆の健康若しくは道徳)に向けられていなければならないだけでなく、それらの目的達成に必要なものでなければならない。さらに、それらは、均衡性の原則に従うものでなければならず、最も介入的でない他の選択しうる手段(the least intrusive instrument available)でなければならない。ICJは、これらの条件を、本件が充たしていないと結論した。さらに、被害を受けたパレスチナ人の経済的、社会的及び文化的権利に対する制限が、A規約第4条が要求する「民主的社会における一般的福祉を増進することを目的としている場合に限」って、履行されていない。 要するに、ICJは、イスラエルが壁のために選んだ特定のコースが、その安全目的を達成するために必要なものであるとは認めなかった。裁判所の見解によれば、選ばれた経路に沿った壁と、その関連する制度は、「イスラエルに占領された地域に居住するパレスチナ人の多くの諸権利を重大に侵害し」、「その経路から生じる侵害は、軍事的緊急性や国の安全、公の秩序の要件によっても正当化することはできない」という(パラグラフ137)。 壁の建設が、自衛のための固有の権利を確認する憲章51条に合致するという主張に関して、ICJは、イスラエルが、イスラエルに対する攻撃が、外国によるものであると主張していないゆえに、この条文は本件とは無関係であるという立場をとった(イスラエルは、パレスチナの国家性を承認していない)19。 裁判所は、当該事態が、9月11日の攻撃の後に採択された安保理決議1368(2001)及び1373(2001)が想定している事態とも異なるものであると述べた。なぜなら、イスラエルが壁の建設を正当化できるという当該脅威は、イスラエルが支配している領域の外側ではなく、内側から生じているものだからである20。最後に、裁判所は、選ばれた経路に沿った壁の建設が、建設のための正当化事由として、引き起こされている危険に対処するために、イスラエルの利益を保護するための唯一の手段であるとは認めなかった。 ICJは、イスラエルが、「その市民の生命を保護するため、(文民に対する致命的な暴力行為に)対処する権利及び、なかんずく義務を有する」ことを承認する一方、「それでもなお、とられる諸措置は、適用可能な国際法を遵守していなければならない」と指摘した(パラグラフ141)。 [.法的結果(パラグラフ143-160) A.イスラエルに対する法的結果 ICJは、イスラエルの違反が国際法上の責任を発生させることに注意を喚起し、以下のことを認定した。すなわちイスラエルは、(@)パレスチナ人民の自決権を尊重する義務、及び国際人道法と国際人権法上の義務を含むイスラエルが侵害した国際義務を遵守しなければならない、(A)1967年戦争後に支配下においた聖地へのアクセスの自由を確保しなければならない、(B)パレスチナ占領地域の壁建設に関連する国際義務の違反を終了させる義務を有する、(C)東エルサレムの内部及び周囲を含むパレスチナ占領地域における現在進行中の壁の建設作業を即時中止しなければならない、(D)壁の建設に関して採択されたあらゆる立法措置及び規制措置を直ちに廃止するか無効にしなければならない(ただし、パレスチナ人に賠償を提供する諸措置に関する場合を除く)、 (E)パレスチナ占領地域の壁建設のために、自然人若しくは法人から接収した土地、果樹園、オリーブ園及び他の不動産を返還することによって、あるいはそうした原状回復が物理的に不可能な場合には、当該被害者に賠償することで、すべての自然人もしくは法人が被った損害に対して事後救済(reparation)を行う義務を有する、(F)壁の建設から生じたあらゆる形態の物質的損害を被ったすべての自然人若しくは法人に賠償する義務を有する。 B.イスラエル以外の諸国に対する法的結果 ICJは、その他の諸国に対する法的結果について、イスラエルが違反した義務が対世的義務(obligation erga omnes)を含んでいる点に注意を喚起した。すなわち、パレスチナ人民の自決権及び国際人道法上のイスラエルの義務であり、それらは国際慣習法の逸脱不可能な原則を構成しているゆえ、すべての国によって遵守されるべきものである。裁判所の見解によれば、すべての国が、壁の建設で創設された事態を維持することを援助したり支援したりしない義務を有し、壁の建設から生じているパレスチナ人民の自決権行使に対する障害を終了させるよう計らわなければならない。文民条約第1条は、各締約国は、特定の紛争の当事国であると否とを問わず、この条約の要件を尊重することを確保しなければならないと規定する。結局、文民条約のすべての当事国は、同条約に規定された国際人道法をイスラエルが遵守するよう確保すべき義務の下にある21。 C.国連に対する法的結果 裁判所の見解では、国連に対する法的結果については、組織「とりわけ総会と安保理は、本勧告的意見を正当に考慮して、壁の建設と関連する体制から生じる違法な事態を終わらせるために、さらにいかなる行動が必要とされるかを検討すべきである」(パラグラフ160)。 最後に、ICJは、「国際の平和と安全に対する脅威を課されつづけているイスラエル・パレスチナ紛争に対する、国連全体として、迅速な解決をもたらす努力を強化すべき急迫した必要性」を強調した。そして、ICJは、「同地域全体にとって平和で安全な状態で、イスラエル及びその他の近隣諸国と並存するパレスチナ国家の創設」に至る交渉による解決への近年の努力を促進する必要性について、総会の注意を喚起した。(パラグラフ161-162) \.勧告的意見の法的地位 国連憲章及びICJ規程上、ICJが与える勧告的意見には、原則として拘束力がない。この非拘束的性格は、法的効果をもたないという意味ではない。そこに具体化された法的推論は、国際法の重要な争点に関する裁判所の権威ある見解を反映するものだからである。さらに、その意見に到達する際に、ICJは、主権国家間の係争事件で下される拘束力ある判決を規律するのと本質的に同じ規則と手続をたどっている。勧告的意見の地位と権威は、国連の主要な司法機関の公式の宣言であるという事実に由来するものである。 ICJが「イスラエルの違反は、特定の対世的義務を含む」(パラグラフ155)と結論した事実は、とりわけ注目に値する。逸脱不可能な、パレスチナ人民の自決権と国際人道法上の特定の義務をイスラエルが侵害したという結論としてICJに記録を留めさせるものだからである。すべての他の国は、平和的手段によってそのような義務を保護することに法的利益を有する。 ].追補 2004年7月20日、国連総会第10回緊急特別会期は、総会が勧告的意見を受諾する旨の決議ES-10/18を採択した。同決議は、イスラエルとすべての国連加盟国が、勧告的意見に記された法的義務を遵守するよう要求し、国連事務総長が、パレスチナ占領地域の壁の建設と関連する全ての自然人若しくは法人の被った全損害の登録簿を設置することを要請した。国連総会は、すべての国が国際法に従って、文民に対する致命的な暴力行為に対処するために、国際法に従った措置をとる権利及び義務を再確認した。総会で記録された投票数は、賛成150、反対6、棄権10であった22。総会は、不遵守の場合に備えて、拘束力のない制裁を含むことのできる、さらなる諸措置を検討するため再召集する権利を保留した。 著者の以前の「インサイト」は、以下で参照できる。
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BACK NUMBER 第3回 コンゴ領域における武装活動事件 | |
BACK NUMBER 第4回 えひめ丸事故と法 | |
BACK NUMBER 第5回 米軍偵察機が中国機と衝突 | |
BACK NUMBER 第6回 ラグラン事件ICJ判決 | |
BACK NUMBER 第7回 世界貿易センターとペンタゴンへのテロリストの攻撃 | |
BACK NUMBER 第8回 安保理決議1377及び1378 | |
BACK NUMBER 第9回 コンゴ外相に対する逮捕状事件 | |
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