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国際法インサイト
 このコーナーは、ASIL Insight ( http://www.asil.org/insights.htm )の記事をピックアップ、抄訳したものです。国際法の学習は、国際社会のトピックスにあわせて行っていく必要があります。このサイトを、基本書や判例集がフォローしていない最新の重要判例・事例を補っていくのに活用してください。
 
第3回 コンゴ領域における武装活動事件
―ICJ、当事国に武力行使の抑制と人権尊重の確保を命令
July 2000
翻訳・要約 杉原龍太  
 1999年6月、コンゴ領域における武装活動について、コンゴ民主共和国(DemocraticRepublic of the Congo以下、DRC)によって、ウガンダ及びその他の諸国に対してICJに提起されていた訴訟で、裁判所は、2000年7月1日、仮保全措置を命令した。裁判所は、ICJ規程41条1及び48条2、ICJ規則73条374条4及び75条5によって、全員一致で仮保全措置を命令した。規程41条によれば、裁判所が訴訟手続における他の手続的・実体的争点にいく前に、「各当事者のそれぞれの権利を保全するために」適当と思われるときに、裁判所が命令を行いうる。

 2000年7月11日、裁判所は、本案に関する決定まで、DRCとウガンダが、一方の当事者の権利を侵害するおそれのあるいかなる行為も、あるいは裁判所の下で紛争を悪化させたり拡大させたり、いっそう解決を困難にするようないかなる行為も、とりわけ武力活動を抑制しなければならない、と指示した。そして、両国が、国際法の下のあらゆる義務、とりわけ国連憲章、アフリカ統一機構憲章及び安保理決議1304(2000年)6を遵守するのに必要なすべての措置をとらなければならない、と指示した。裁判所は、DRC政府による仮保全措置の緊急指示要請を受諾、当該要請は受理可能性がなくムート化しているというウガンダの主張を斥けた。裁判所は、国連憲章の下でその司法機能を行使している事件であれば、安保理とは独立して、また共同で行動する自身の権限を肯定した。

 これは、DRCによってブルンジ、ルワンダ及びウガンダを相手どって、「国連憲章及びアフリカ統一機構憲章の重大な違反となる武力攻撃」という理由でICJに提起された訴訟手続から生じた3つの事件のうちの一つについてである。DRCの申請の文言によれば、当該領域に対する武力攻撃は、「とりわけ、コンゴ民主共和国の主権及び領土保全の侵害、国際人道法の違反と大規模人権侵害を含む」という。仮保全措置の指示要請において、コンゴ政府は、とりわけウガンダ軍と「その他の外国軍隊」(ルワンダ)との間の戦闘について注意を喚起する。この戦闘が、「コンゴとその人民に対して多大な損害」を及ぼしてきたという。キサンガニの東部コンゴ人街周辺でロケをした独立系メディアの報道も、これらの事実を確認している。

 コンゴ政府の仮保全措置の緊急指示要請の三日前、2000年6月16日、国連安保理は、決議1304を採択し、「すべての紛争当事者にコンゴ民主共和国の領域全体で停戦するよう」要請し、「コンゴ人の反政府武装勢力及びその他の武装集団だけでなく、ウガンダ人とルワンダ人の部隊が、即座にかつ完全に、キサンガニから撤退するよう」、「コンゴ民主共和国の主権と領土保全を侵害している」ウガンダとルワンダは、「遅滞なくコンゴ民主共和国領域からすべての部隊を撤退させるよう」、さらに「コンゴ民主共和国領域内の直接・間接その他すべての外国軍隊の駐留及び活動を終了させるよう」要求した。

 6月26日と28日に平和宮で行われた公開審問において、仮保全措置の指示要請に関連して、DRC政府(ミッシェル・リオン代理人)は、ルワンダ・ウガンダ間のキサンガニ周辺における武力紛争の継続は、同国とその人民に「実質的損害」をもたらし、「1998年8月にウガンダ共和国によって開始された軍事的・準軍事的介入と占領の」証拠を構成し、「外国軍隊間の抗争が、コンゴ民主共和国の天然資源、資産及び施設の組織的略奪にかかわっていた」ことを示していると陳述した。DRCは、裁判所に、緊急の問題として、すべての戦闘と軍事活動を停止するよう、コンゴ領域から部隊を即座にかつ完全に撤退させるよう、「戦争犯罪の煽動・実行、その他コンゴ領域内のすべての人々に対する不当な或いは不法な行為」、及び違法な開発とその天然資源の移送をやめるよう要請した。DRC政府は、裁判所が、ウガンダを非難し、国際法に違反する旨宣言するよう同要請のなかで明確にした。というのも、軍隊や不正規兵支援の撤退が、DRCの権利を保護するための措置としてのみ要求されたからである。

 公開審問におけるコンゴの主張と要請に対するウガンダの反駁には、二つの論証の流れがある。ウガンダはまず、以下のように主張した。モブツ大統領の下の旧コンゴ政府の軍隊が「コンゴ東部地域を遺棄した後、中央政府の存在及び権限のない状態となり」、コンゴに領域的関心をもたないウガンダ軍が、「(ローレント・カビラ新コンゴ大統領の軍と共同で)、反ウガンダ勢力の活動を検挙するために」同地域に配置された。これは「1998年4月27日付けの書面の取決め」によって、カビラ大統領と公式になされた取決めであり、DRCが1999年6月に裁判所に訴状を提起した当時、すでに「同地域の和平枠組み」(ルサカ合意)を設定する取決めが存在した、というのである。

 第2にウガンダは、以下のように主張した。いかなる点でも、コンゴの要請は、「法の問題として」受理可能ではない。というのも、2000年6月16日の国連安保理決議1304の存在があれば、裁判所は、ICJ規程41条による権限の行使を排除されるからだ、という。ウガンダの推論によれば、この事態に適用可能な手続上の原則は、ロッカービー航空機事故から生じる1971年モントリオール条約の解釈・適用問題(リビア対英国・米国)に関する、1992年4月14日の命令において裁判所が提出した原則である、という。この事件で、裁判所は、11対5で、国連安保理決議748(1992年)の下のリビアの義務が、憲章25条と103条に従って、「モントリオール条約を含むいずれかの国際協定に基づく義務に優先する」という理由で、リビア政府が1971年モントリオール条約で保護されている諸権利を根拠に要請した仮保全措置を指示しないと決定した7。本件で裁判所は、リビアが要請した措置は、リビアに制裁を課す決議748の下の英・米の権利を損なうかもしれない、と認定している。

 裁判所は、ウガンダの主張を却下した。裁判所は、二つの理由から、裁判所が安保理決議1304(2000年)によって、同規程と規則に従って行動することを妨げられてはいないと、認定した。ひとつは、憲章12条1項8の規定は、安保理が同一の任務を遂行中は、総会がいかなる紛争・事態についても行動することを一般的には許していないが、「安保理と裁判所については、憲章に類似の規定はどこにもない」。「安保理は、政治的性格の任務を割り当てられ、一方で裁判所は、純粋に司法機能を果たす」。「それゆえ両者は同一の事案について、独立して補完的な任務を遂行することができる」。2つ目に、安保理は本件で「コンゴが主張する権利が、仮保全措置の指示による保護が適当と見なさるのを、一見して(prima facie)妨げるような」いかなる決定もしていない。

 1976年、エーゲ海大陸棚事件(ギリシア対トルコ)において、エーゲ海の大陸棚に対する諸権利に関する当事国間の紛争について、安保理が既に採択した決議を補強するような仮保全措置を指示することを、裁判所は拒否した。安保理が当該紛争について当事国に宛てた勧告に対して、当事国が注意を払わないとは思わなかったから、裁判所は、仮保全措置を不要とみなしたのである。今回のDRCとウガンダの事件で、裁判所が積極的に仮保全措置を命令したのは、エーゲ海事件と違って、裁判所に本案審理の管轄権に自信があったことに説明を求められるかもしれない。仮保全措置のいかなる要請も、通常、裁判所が明確にその管轄を決定することができる以前の段階で行われるが、そうはいっても、裁判所は、仮保全措置の命令をする前に、一応の(prima facie)管轄権の認定を行う。

 今回の事件で裁判所は、ルサカ合意が、当事者を拘束する国際的行為であり、それにより裁判所が、「同規程と規則に従って行動すること」を妨げられない、と認定した。結局、裁判所は、次のように推論した。「裁判所は、事件の状況がいずれかの若しくはすべての当事者の従うべき仮保全措置の指示を必要としているか否かを、職権により検討することをいつでも決定することができる」という裁判所規則75条1項によれば、裁判所に多くの類似の事例を提起している国が、それらのうち一つだけに仮保全措置の指示を求めることであっても、いずれの事件についても要請に関して裁判所が決定する権限に影響を与えない。

 命令のテクストは、以下を見よ。
 http://www.icj-cij.org/icjwww/idocket/ico/ico_orders/iCO_iOrder_20000701.htm
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