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このコーナーは、ASIL Insight ( http://www.asil.org/insights.htm )の記事をピックアップ、抄訳したものです。国際法の学習は、国際社会のトピックスにあわせて行っていく必要があります。このサイトを、基本書や判例集がフォローしていない最新の重要判例・事例を補っていくのに活用してください。 |
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翻訳・要約 杉原龍太 | |
2001年2月9日、日本の高校が操縦する漁業訓練船・えひめ丸は、米国の原子力潜水艦グリーンビルと衝突した。このとき、えひめ丸は、ハワイのオアフ島から約9マイルの地点で、通常の航行を行っていた。 米国艦船グリーンビルは、緊急浮上訓練を行っており、民間人も乗船していた。どういうわけか、グリーンビルは、えひめ丸の存在を見落としている。衝突後、10分以内にえひめ丸は沈没。26人が救助されたが、10代の高校生を含めた9人が行方不明となり、亡くなったとみられている。 本稿執筆時点で、事故に至る詳細な経過は確認されていないが、過失がもっぱらグリーンビルの側にあることは明らかである。米国政府は、日本と犠牲者の家族に対して公式の陳謝を行っている。 本件には、国際法及び米国海事法の2つのレベルからの分析の視点がある。 国際法に関しては、国家がある種の侵害行為について責任を伴う(liable)国家責任法を引き出すことができる。ここでは責任の認定については困難ではない。もちろん事故に至る一連の出来事は認定されなければならないけれども、グリーンビルは、米国の軍艦であるから、いかなる過失も米国に帰責される1。 法的な救済方法は不明確である。賠償は、家族も含めて支払われなければならないが、いくらぐらいが相当か。おそらく米国法が基準として用いられるはずだが、その額については議論のあることだろう。原状回復の原則により、えひめ丸の所有者に船舶と等価の対価の支払いが命じられるだろう。しかし、日本側は、乗員の遺体と遺留品を取り戻すためにも、船舶の引揚げを要請している。 しかし、現物による原状回復がいつでも実施可能であるわけではない。とはいえ、多くの事例において、原状回復あるいは特定履行が行われている。ホルジョウ工場事件2では、工場の収用についてポーランドに対してドイツが行った請求に関して、常設国際司法裁判所は、「賠償(reparation事後救済)は、可能なかぎり、違法行為の一切の結果を拭い去り、もしその行為が行われなかったならば多分存在したであろう状態を回復するものでなければならない」3とした。 国際法上、船舶の引揚げが要求されないとしても、日本人は宗教的伝統から、故人の遺体と遺留品に畏敬の念を有し、そうした伝統の尊重から、船舶引揚げの努力が要求されるだろう。似たような伝統は、西洋にも存在する。例えば、ヴェルギリウスのアエネイスのVIには、埋葬されていない魂は死後の世界に入ることができないとある。 国際法は、非物質的損失を救済すべき国家の義務も認めている。例えば、ジェーンズ事件4で、メキシコ政府が米国民殺害犯を追跡しなかったことによる「冷遇」についての賠償額を裁定額に含めている。ニュージーランドとフランスが争ったレインボー・ウォリアー号事件では、レインボー・ウォリアー号の沈没に責任を負う工作員が、一定期間留置されるという合意が救済方法のなかに含まれた。本件におけるこの問題を解決するために可能な方法は、船体引揚げ及び(あるいは)遺体回収の問題について、両国の専門家から構成される独立した仲裁委員会に委ねることであろう。 第2の分析の視点は、米国海事法上の米国の責任である。ここで、訴訟は公船法(Public Vessels Act)5上の損害として米国政府を相手取って米国の地区裁判所に提起されうる。 原告は、被害をうけた人々であり、故人の代理人である。その場合、原告は、類似の事故で、日本の公船が米国人に傷害・死亡をもたらした場合、米国人が日本で日本政府に対して訴訟を起こすことができるか、という意味での「相互主義」を立証しなければならない6。これは、日本法の下で米国人が請求できる、という意味である7。 もっぱら不明瞭なのは、遺族原告が米国法上請求可能な損害であるかということである。事故は約9マイル沖合で発生している。これは、「公海上の死に関する法律」(Death on the High Seas Act:DOHSA)8を活用できるかもしれない。これは、1マリン・リーグ(3.45マイル)以上離れた公海上での死亡について適用され、金銭上の損失の回復に限定されるものである。けれども、昨年、米国第二巡回区控訴裁判所は、1996年のロング・アイランド沖8マイルの地点でのTWA800便の墜落事故の損害に関して、DOHSAは、1マリン・リーグを超えていても、連邦或いは州の領水には適用されないと結論している9。連邦の領水は、1988年以来12マイルに拡大されたため、裁判所は、DOHSAの不適用を判示した。 えひめ丸事故から生じるいかなる訴訟も、間違いなく、第2巡回区の外で生じるだろう。従って、TWA事件の判決は、この事件を審理する裁判所を拘束しないだろう。裁判所が、TWA事件の先例に従う方向に傾いたとしても、原告の多くは、一般海事法及び州法上でも、非金銭的損害についても賠償を求めることができるだろう10。
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