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国際法インサイト
 このコーナーは、ASIL Insight ( http://www.asil.org/insights.htm )の記事をピックアップ、抄訳したものです。国際法の学習は、国際社会のトピックスにあわせて行っていく必要があります。このサイトを、基本書や判例集がフォローしていない最新の重要判例・事例を補っていくのに活用してください。
第9回 コンゴ外相に対する逮捕状事件(2002年2月)
Pieter H.F. Bekker
翻訳・要約 杉原龍太
http://www.asil.org/insights/insigh82.htm
 2002年2月14日、国際司法裁判所(ICJ)は、ベルギーの裁判官がコンゴ民主共和国(DRC)外相に対して逮捕状を発行したことを許容したことでベルギーが国際法に違反した旨、裁定した。ICJは、13対3で、現職外相が国際慣習法上享受する刑事裁判権免除と不可侵権をベルギーが尊重していないと判示した。ICJは、10対6で、ベルギーが自己の選ぶ方法で、逮捕状を取り消し、それが回覧されているすべての当局に通知しなければならないと判示した。

 DRCとベルギーの間に紛争が生じたのは2000年4月11日のことである。すなわち、ブリュッセル裁判所のDamien Vandermeerschが、Abdulaye Yerodia Ndombasi氏を拘留するための国際逮捕状を発行したことによる。当時、彼はDRCの外相だった。逮捕状は、Yerodiaが、キンシャサのツチ住民の大虐殺を扇動した1998年8月(閣僚としての資格ではない立場で)のスピーチによって、1949年ジュネーブ緒条約に対する重大違反及び人道に対する罪を犯したと告発している。

 ベルギー法は、国際人道法の重大違反に関して、実行地、容疑者の所在地、国籍、被害者あるいは容疑者の法的地位にかかわらず、ベルギー法の普遍的適用とベルギー裁判所の普遍的管轄権を設定している。逮捕状はそうしたベルギー法の下で発行された。ベルギー法は、被告人が公的資格に従って享受する免除を全く認めていない。本件において争いのない点は次の点である。(@)逮捕状がベルギー領域外で行われた行為に関連していること、(A)逮捕状が発行された当時、YerodiaはDRCの外相であったこと、(B)被告人はベルギー人でもなければ、逮捕状が発行されたときベルギーにも所在しなかったこと、(C)告発された犯罪の直接の被害者にベルギー人がなっていないことである。2001年11月以降、YerodiaはDRC外相ではなくなっている。判決の時点では、彼はもはやいかなる閣僚職にもついていない。

 2000年10月17日、DRCはベルギーを相手取ってICJに対して強制管轄受諾宣言に基づいて訴訟を提起し、主権平等原則に違反するゆえにベルギーが逮捕状を取り消さなければならないと宣言するよう要請した。公開審問は2001年10月15〜19日に行われた。

 DRCは当初、国際犯罪に対して、国内裁判所の管轄権の許容される範囲について広範な問題を提起し、ベルギー法それじたいの合法性に対しても異議を申し立てた。けれども、DRCは後にその請求を要約・洗練し、ICJに以下のような問題を付託した。すなわち、当時はコンゴの外相で、現在は政府当局者でない個人に対するベルギー裁判官による逮捕状の発行・回覧は、刑事手続からの免除を侵害し、逮捕状は国際法上不法なものではないか?それゆえ、本件は裁判所の下で、閣僚の特権免除がベルギーの逮捕状の合法性に影響を与えるか否かに関するものであって、逮捕状が、国内裁判所の管轄権を規律する国際法の原則及び規則に則っているか否かの問題については扱わない。これを受けて裁判所は、本事件のためにのみベルギーが逮捕状を発行・回覧する国際法上の管轄権を有するものと想定することにした。

 管轄権、ムートネス、受理可能性に関する抗弁が15対1で斥けられた後、裁判所は、Yerodidaに対する逮捕状の発行及びその国際手配は、DRCに対するベルギーの法的義務違反であると認定した。すなわち、ベルギーは現職コンゴ外相が国際法上享受する刑事裁判権免除と不可侵権を尊重しなかった点についてである。

 裁判所は、外相が享受する免除を特定的に定義する条約は存在しないと判断した。ベルギーは、国際法上の重大犯罪や私的資格すなわち公的任務の遂行以外でなされた行為に対してはいかなる免除も付与されないと主張した。一方、DRCは、国際慣習法上、現職の外相は、その職務の遂行を他国により妨げられることのないよう、国外で刑事裁判権からの完全な免除と、いかなる政府当局の行為からも保護される不可侵権を享受すると主張した。これに対して、裁判所は、国家実行上、こうした規則のいかなる例外も見つけることができなかった。したがって、外相が逮捕時に、公的または私的訪問で逮捕国の領域内に在るかどうかとか、逮捕が外相として行った職務又は職務中に行われたとされる行為に関するものかどうかは問題にならない。さらに、国際法上の犯罪を行った罪で起訴されるような刑事手続からも、現職外相は絶対的免除を享受し、それに対するいかなる例外もない。

 一方、ICJは、外相の地位に公式に就任したことのある二人の裁判官を含めて、この裁判権免除が個人の国際刑事責任に影響を与えないこと、つまり免除(immunity)が免責(impunity)を意味しないことも強調した。そのうえ、外相の本国が彼(女)を訴追することができるし、あるいは他国の訴追に対して免除を放棄することもできる。さらに、外相が公的地位をやめた後に、当該国の裁判所が国際法上管轄権を有しているのであれば、在任の前または後に行われたいかなる行為についても、また在任中に行われた私的行為についても、他国の前外相を裁判することができる。最後に、起訴されている犯罪に対して管轄権を有する国際刑事裁判所によっても現職または前職の外相を裁くことができる。

 本件において、裁判所は、問題の逮捕状の発行じたいが、それがたとえ執行されていないとしても、当時のコンゴ外相の免除を侵害する不法な強制措置を構成すると認定した。それが、彼の外国旅行を妨げ、国外にいる間に逮捕の危険にさらすことで、DRC外相としての免除を侵害した、と。

 当初、裁判所は、Yerodiaの外相としての免除が侵害されたと認定することじたいが、DRCの申し立てた精神的侵害に対する救済形態を構成すると考えた。しかし国際法は、違法行為が行われなければ存在したであろう状態の回復を要求する。それゆえ、ICJはベルギーが自己の選択する方法で、問題の逮捕状を取り消さねばならず、それが回覧されている当局に通知しなければならないと判示した。また本件において裁判所は、第三国が逮捕状の執行をできないとは裁定しなかった。第三国の問題は、DRCとベルギー間の事件に対する裁判所の管轄外にあたることだからである。

 本決定は、現職外相に期間も限定され、ICJ規程59条によりDRCとベルギーに対してのみ、また本件についてのみ拘束するものであるが、その影響は潜在的にはもっと大きい。判決は、外相のように国際関係において国を代表し、その職務を遂行するために旅行しなければならないその他の上級公務員にも類推適用されるだろうと指示する。本決定の観点から、ベルギーは、アリエル・シャロン現イスラエル首相に対する人権審査を再検討している。彼が国防相時代、パレスチナ難民キャンプで係ったとされる犯罪についてである。Yerodiaについての裁判所の分析が、シャロンの事情にも適用されるものと認められれば、シャロンの逮捕状も同じように国際法に違反し、ベルギーは逮捕状を取り消さねばならず、シャロンがその地位をやめた後に再発行するしかない。

 本決定は、決定されていないことについても重要である。例えば、本決定は、本件や、被告が(コンゴ、キューバ、イラン、象牙海岸の大統領を対象とする人権審査を含めて)非ベルギー人の高官であるような顕著な事件において、ブリュッセルの司法長官の逮捕状の根拠となっているベルギー法そのものには影響しない。ICJは、必然的に本件のためにベルギーが国際法上、逮捕状を発行する管轄権を有することを前提にしたけれども、ベルギーを含む国々が、その国内裁判所を通じて、いかなる国、人、企業に対して、それらの裁判所が所在する領域内で発生した犯罪行為でなくとも、また被害者・請求者または被告人が当該国に現存していなくとも、国際法上犯罪とされる事件を審問することを認める 「長い手」(long-arm) の法令を援用できるのか否かという問題についてまでは至らなかった。たとえ、国際法違反について国内裁判所の「長い手」が潜在的に届く範囲が本件に向けられていなくとも、「長い手」の法令は、とりわけ「免除は免責を意味しない」という裁判所の宣言の観点からも、まさに生きつづけている。

 本決定は、諸国が「外相」タイプの職務を遂行する現職・前職の高官を(免除の主張の根拠を創り出すために)、どれほど広範に、または容易に任命できるか明らかでない点で混乱を引き起こす。判決は、前外相がその任期中に犯した「公的な」行為については外国で裁かれないことを提示した。たとえ、国際法上のある種の犯罪(例えばジェノサイド)が「公的」行為であったと抗弁しえない場合であってもである。

 現職外相がその職務を遂行できなくなるような他国の「当局のいかなる行為」からも保護されるという裁判所の結論は、おそらく刑事上の令状のみならず、民事上の召喚状、司法的強制の脅威により外相の職務を妨げるその他の手続にも及ぶ。したがって、本決定が現職外相の刑事手続からの免除にのみ向けられたもので、第三国を拘束しないものだとしても、米国のような国々が、私人の原告が外国の国家、人、法人を、その国の国内法違反であるとして国内裁判所で訴えることを許容する法律(例えば、合衆国外国人不法行為請求法:U.S. Alien Tort Claims Act)をどのように適用するかについても影響を与えるかもしれない。こうしたケースで発行された民事上の証言のための召喚状は、(拒否すれば裁判所)侮辱罪に対する制裁を課される形も含めて、国内裁判所による強制の可能性をもたらす。米国政府は、外国の国家元首やその 他の高官に対する免除を提示するために米国における事件については常に介入してきた。
裁判所の決定全文とプレスコミニュケは、ICJのウェブサイトで手に入れられる。
http://www.icj-cij.org
以上の議論に関連する問題として、以下のASIL Insightsを見よ。http://www.asil.org/insights.htm
「ルワンダのジェノサイドに関する事件について決定するベルギー裁判官」(2001年5月)、「ピノチェト、チリで逮捕」(2000年12月)、「コンゴ民主共和国、世界法廷にコンゴ外相に対する逮捕状の無効を命令するよう要請」(2000年10月)、「ロバート・ムガベに対する外国人不法行為請求法訴訟」(2000年9月)、「米国で可能なピノチェト起訴」(2000年3月)、「前チャド国家元首のセネガルにおける起訴」(2000年2月)、「アルゼンチンにおける拷問容疑でメキシコからスペインに足してミゲル・カバロの引渡要請」(2000年9月)、「ピノチェト逮捕とスペインへの引渡」(1998年10月)。
著者について
P.H.F.ベッカー。Ph.D。前ICJスタッフローヤーとして任官。
著書に「世界法廷の決定に関するコメンタリー(1987-1996)」、「ミレニアムの変り目における世界法廷の決定(1997-2001)」(Kluwer)。その他ICJに関する論文多数。
 
 
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